〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

家族でにぎわうニューレトロなイタリアン

内観

都立大学駅の北口には、住民の散歩道にもなっている小便小僧のある緑道がある。ここに2024年1月にオープンしたのが自然派ワインを楽しめるイタリアン「マーブル」。入口の隣にはスタンディングカウンターもあり、カジュアルに入っていける雰囲気がある。実際、平日には会社帰りの住民はもちろん、子ども連れのファミリーでにぎわい、休日には2〜3世帯の子ども連れファミリーも訪れるなど、さまざまな世代に親しまれている。

左からシェフの松田香菜さん、サービスの安原亜美さん

マーブルのコンセプトは「ニューレトロ」。ボンゴレビアンコやペンネアラビアータなど昔からある人気メニューに加え、発酵調味料や珍しいパスタを使ったメニューも取り入れ、懐かしさと新しさのある一皿が一度に楽しめる。スタッフは姉妹店の池尻大橋「ルリイロ」、自由が丘「ニショク」で腕を振るっていた松田香菜さんがシェフを務め、サービスの安原亜美さんがワイン選びをサポートしてくれる。女性スタッフを中心とした明るく親しみやすい雰囲気の店内になっている。

前菜盛り合わせ×にごりスパークリングワイン

前菜盛り合わせ(1人前1,700円、2人前2,600円 *写真は2人前 真上から時計回りに、厚切りポテトと根セロリのサラダ、たらのクリームコロッケ、キャロットラペ、レバームースのブルーベリージャム添え、カニのほぐし身とベーコンのキッシュ、紫キャベツのマリネ、パテ・ド・カンパーニュ、菜の花の柚子胡椒和えストラッチャテッラチーズのせ)

「前菜盛り合わせ」はカラフルな野菜の彩りにパテ・ド・カンパーニュやコロッケ、キッシュも入って盛りだくさんのワクワクするような一皿。どれも一工夫がされている。たとえば、「たらのクリームコロッケ」は、コブミカンで味付けされたタラをクリームコロッケにして、にんにくの利いたアイオリソースで仕上げられている。見た目にワクワクするような盛り合わせもうれしい。

ポイエル・エ・サンドリ ゼロ・インフィニート2023(グラス1,100円)

前菜盛り合わせに合わせてワインで乾杯するなら、イタリアのゼロ・インフィニートという微発泡ワインがおすすめ。「きりっとした酸があって、これ一つでパテ・ド・カンパーニュにも野菜のラペやサラダにも合います。微発泡ワインなので最初の一杯としてちょうど良いですね」と安原さん。ボトルの上と下で味わいが変わっていて、特に下のほうはうまみが感じられて、ミネラルの強さが穏やかで料理にぴったりとマッチしていた。

仔羊のハンバーグ×こなれ赤ワイン

仔羊のハンバーグ マルサラソース(2,600円)

肉料理の名物はコロンとした形がかわいい「仔羊のハンバーグ マルサラソース」。「ラムのハンバーグはひき肉のほかに手切りのランプ肉を使っていて、つなぎを使っていません。そのため、肉のうまみとスパイス感で勝負しています」と安原さん。肉汁とマルサラを使った濃厚なソースと食感の残った肉のおいしさで、みんなに喜ばれるポピュラーな味わいがある。

まるでお団子のようなボリュームある切り口がポイント
ボデーレ・ルイーザ サンジョヴェーゼ フォリーゾ2017(グラス900円)

仔羊のハンバーグにおすすめなのは、イタリア・トスカーナ州の赤ワイン。「しっかりした果実味の赤ワインが熟成されてジャムのような味わいがありますが、ほどよい酸があるので、お肉料理を軽やかにしてくれます」と安原さん。古バリックにて60カ月、ボトル詰め後12カ月熟成された2017年ヴィンテージのワインなので、飲み頃でこなれているのが良かった。

魚介のリゾット×ビターなオレンジワイン

魚介のリゾット(2,200円)

パスタを含めた〆メニューでの一番人気は「魚介のリゾット」。生米を魚のうまみたっぷりのスープ・ズッパディペッシェで炊き上げ、ムール貝とあさりはアメリケーヌソースで味付け。さらにエビをトッピングした海の幸をふんだんに盛り込んだ一皿。魚介のうまみが贅沢に味わえる濃厚なリゾットとなっている。

マルコ・メルリ モスコ2019(グラス1,100円)

魚介のリゾットに合わせたいのは、イタリアのオレンジワイン。「オレンジワインとしてはドライでビターなので食事に合わせやすい味わいです。そんな中にもうまみがしっかりしているので、魚介のだしが利いたリゾットにもぴったりです」と安原さん。ほんのりしたハーブ感も食事に寄り添ってくれていた。

安原さんの「私が恋した自然派ワイン」

バルメス・ブシェール ミュー2021(ボトル15,000円)

安原さんが恋したワインは、テイスティングで驚かされた一本。

「テイスティングするときは、自分の中で味をカテゴライズしています。ところがこちらのミューには、全部の要素をが入っていたんです。うまみもあれば、ミネラル感も ジュース感もあって本当に驚きました。どんな食べ物と合わせてもみんなが楽しめる味わいです。これからの季節はしっかり冷やして飲めばミネラル感が際立ってきておいしいと思います」

イタリアの自然派ワインを中心にラインアップ

マーブルでは、造り手の思いが込められた愛着のあるワインを中心に用意されている。イタリアワインが多めだが、ヨーロッパや新世界問わずさまざまな国のワインをラインアップ。酸味のあるジューシーなオレンジワインなど飲みやすいタイプのワインが揃えられている。グラスワイン5種類(900〜1,200円)、ボトルワイン30〜40種類(3,800〜15,000円)。

寄り道にぴったりな手軽さも

外観

マーブルはしっかりごはんを食べたいとき以外にも、散歩や会社の帰り道にちょっと寄り道するのもおすすめ。店頭には立ち飲みカウンターがあり、店内にもカウンター席があるからだ。店内のカウンター席限定でお得な「マーブルセット」もある。平日は17〜19時、土日祝は15〜17時がハッピーアワーでドリンクがお得になっているのもうれしい。カジュアルにおいしいものを食べたいときに立ち寄ってみよう。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章