教えてくれる人

笹岡 隆甫

1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、日本-スイス 国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でも、いけばなパフォーマンスを披露。2016年には、G7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。主著に『いけばな―知性で愛でる日本の美―』(新潮新書)。

【噂の新店】楽心

現代数寄屋建築を体感

阪神電鉄福島駅から路地を歩いていると、一軒家の日本料理店に出会う。ここは、2025年3月に移転オープンした「日本料理 楽心」。現代数寄屋建築の建物は、シンプルながらも品格溢れた佇まいで、異彩を放っている。

狭い路地を入ると出会う、品格ある一軒家
玄関を開けると待合がある。「暑い日や寒い日もストレスなく楽しめるように」との配慮から
エントランス。深海から見上げた地上をイメージし、天井は青海波を模している
 

笹岡さん

定期訪問している「日本料理 楽心」の新店にうかがいました。数寄屋風の落ち着いた空間でいただくと、お料理も一段と味わい深いです。

店主は片山心太郎さん。手に職をつけたいと「衣食住」の中から食を選び、料理人の道へ。病気がちな父を持ち、家庭での食事が薄味であったことから、自分の味覚に合った日本料理を自然と選択。調理師学校卒業後は、心斎橋「懐石料理 桝田」で8年、豊中「とよなか桜会」で8年経験を積んだ。12年前の独立の際には「これまで “人”との出会いに恵まれてきて、その方々に成長した姿を見せたいと思いました」と話す。そして、お客様に喜んでもらえる店づくりを大切にしながら「若くしてこそできるチャレンジ」を心掛けていたという。実際に、日本料理の礎を大事にしながらも自由な発想で自分らしさを表現。海外シェフとのコラボレーションなども積極的に行い、国内外からも評判を呼んだ。

店主の片山心太郎さん。「時代時代で変わってゆく料理スタイルを発信していきたいですね」

そして、今回のリニューアルもチャレンジのひとつだ。「この時勢でも、“料理の世界には夢がある”と若い人たちに見せたいですね」と片山さん。何よりも「夢がある!」と思えるのは他にはないこの空間だ。「外食は贅沢できる空間を」との片山さんの言葉通り、エントランス、待合、メインのカウンター、個室、トイレ……どこをとっても妥協や油断のない、一貫した美しい空間に仕上がっている。

メインは檜の一枚板カウンター。なんと8m50cmで12席。現代アートが配されている
メインのカウンターとは雰囲気が異なる個室。欅のカウンター、天井の網代も美しい。カウンターと個室では、器遣いも雰囲気に合わせて変えているそう
 

笹岡さん

1枚もののカウンターは檜、個室のL字カウンターは欅と、それぞれに特徴ある趣。器もお料理も相変わらず美しい。