〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。
今回訪れたのは、2021年に目黒区から港区に移転を果たした「ワインマンファクトリー」。レストラン・ワイナリー・ショップの3つが1軒にギュッと詰まっている。

原点はイタリアで体験したマンマの手作りワイン
ワイナリーがオーベルジュやレストランを営むスタイルはよく聞くが、レストランがワイナリーを営むことは珍しいだろう。三田にあるこちらのイタリア料理店は、同じ敷地内でワイナリーを営む。

レストラン、醸造所、ショップの3つの機能を備えた「ワインマンファクトリー」が店を構えるのは、三田駅から徒歩3分ほどのアクセスのいい立地。駅から慶応仲通り商店街を進み、細い路地を入りこんだ場所にある。もともと2012年に目黒にイタリア料理店「アンティカ ブラチェリア ベッリターリア」を開業したシェフの井上裕一氏。レストランを営みながら、ワインへの情熱が高まり、2019年には酒類販売業免許を取得した。レストランのワインは、山形県の「イエローマジックワイナリー」や東京都の大泉学園にある「東京ワイナリー」に委託していたが、自身の手で造るべく、2021年5月に三田に移転し、10月に念願の酒類製造免許を取得。

ワイナリーをゼロから、しかも都会のど真ん中で始めるとなるとさぞ大変だっただろうと尋ねたが、井上氏は「修業時代に住んでいたイタリアで近所のお母さんが造ってくれたようなワインを造りたいと思ったのが始まり。だからすべて手仕事。高額な電動機材などは導入していないから大変ではないですよ」と笑う。5坪の醸造所には、スロベニア製のステンレスタンクが4基並ぶ。ワイン造りの最初の年、酒造免許がなかなか下りず、それでもぶどうは待ってくれないから焦ったが、どうにか無事リリースすることができたと振り返る。

三田の地でスタートしたワイン造りは、今年で5年目を迎える。毎年、8月のお盆明けから、まずデラウエアを早摘みから遅摘みまで3回に分けて仕込む。続いて、ナイアガラ、ベリーA。10月に入るとスチューベンという流れだ。「最初は、出来立てのワインを飲んでもらえることを目指していましたが、実は寝かせておいた方がよりおいしくなったものもあったりして。毎年経験ですね」と井上氏。
数年前からは、参宮橋にあるイタリア料理店「レガーロ」や池尻大橋の居酒屋「オーマ」から、オリジナルワインを委託されるようになった。話題性だけでなく、しっかりと品質が伴っているからこそ。提供店や販売店にも恵まれ、毎回瓶詰めするやいなや出荷されていく。昔からの料理人仲間からは、すっかり“生産者”だな、といじられるようになったという話も。