【和菓子と巡る、京都さんぽ】

四季折々の顔を見せる名所を訪れたり、その季節ならではの和菓子を食べて職人さんたちの声を聞いてみたり……。ガイドブックでは知り得ない京都に出会う旅にでかけてみませんか。

 

あなたの知らない京都について、京都在住の和菓子ライフデザイナー、小倉夢桜さんに案内していただきましょう。

其の七 至福のひと時を約束「千本玉壽軒」

“都”を巡る、千本通さんぽ。

京都を語る上で欠かせない平安京。

794年に遷都が行われた、言わずと知れたかつての日本の都です。

 

その都の中央を、南は羅城門から北は天皇の住まいや役所が立ち並ぶ平安宮まで朱雀大路(すざくおおじ)と呼ばれるメインストリートが通っていました。

 

現在では、千本通と名前を変え、当時の様子は石碑などからうかがい知ることができるのみとなっています。

千本通

 

その千本通には、北は「悟りの窓」「迷いの窓」で有名な源光庵、閻魔(えんま)法王を御本尊としている「引接寺(いんじょうじ)」(通称:千本ゑんま堂)、南には新撰組と縁の深い寺院である壬生寺など数多くの文化財が点在しています。

甘いもので、ひとやすみ。

千本今出川と呼ばれる交差点を上がって(北へ)すぐ、格式のある看板が目を惹くお店が「千本玉壽軒(せんぼんたまじゅけん)」です。

千本玉壽軒

 

昭和13年に創業して以来、茶の湯の世界、そして仁和寺、金閣寺、大覚寺など格式のある寺院にお菓子を納めているお店です。

参拝へ行かれた際にこちらのお菓子を召し上がっていることがあるかもしれません。

 

現在は三代目のご主人が日々奮闘をされ暖簾を守っています。

店内には、お干菓子や羊羹など上品な京都らしいお菓子が並びます。

千本玉壽軒 店内

 

こちらのお店の代表銘菓である「西陣風味」。

初代のご主人が考案されたお菓子です。

味を変えることなく、現在まで受け継がれてきました。

西陣風味

 

なめらかな口当たりが印象的な羽二重餅の皮でこしあんを巻いて、着物の反物のように仕上げたお菓子です。

たとう紙を観世よりで結んだ包装は京都の伝統産業である西陣織をイメージする優雅なお菓子としてお土産にも最適です。

目の前に出された時に何かを感じてもらえるようなお菓子作りを心がけているというお菓子は、どれも息を吞むような優美なものばかり。

特に季節の移ろいに合わせて作られる年間100種類以上の上生菓子はみなさんに至福のひと時を約束してくれます。

鉾巡り

 

日が暮れて駒形提灯に灯がともり、祇園囃子に誘われるように四条烏丸界隈を夕涼み。

鉾(ほこ)を巡りながら、貴重な文化財を身近に感じる贅沢なひと時。

駒形提灯がゆらめく夜。

美しい鉾を表現した外郎製のお菓子です。

星月夜

 

立秋に相応しく、秋の季語である「星月夜」が菓銘になっている葛製のお菓子です。

旧暦の七夕に合わせて作られたお菓子は、見上げた夜空に広がる星々のようです。

あかね空

 

「秋の日は釣瓶落とし」ということわざがあるように、秋の夕焼けの様子は刻々と変化をしていきます。

 

あかね空となった風景。

心が癒やされる瞬間です。

 

夕焼けを背景に気持ちよさそうに飛び回る赤とんぼを表現した外郎製のお菓子。

懐かしさ、優しさを感じる和菓子らしい意匠です。

名月

 

葛焼きに表現されたその様子は、まさに「名月」そのものです。

手のひらでゆっくりと月を愛でるひと時。

粋な中秋の名月の過ごし方です。

豊穣

 

穀物が豊かに実る秋。

人々は古来より五穀豊穣を祈り、感謝をして暮らしてきました。

外郎生地に稲穂の焼印を入れたお菓子です。

深山の錦

 

色づいた紅葉(もみじ)を表現した色合いのこなしに型押しされた紅葉。

階調のあるところに型押しすることによって表現される自然美。

いつまでも眺めて京都の秋を感じていたいお菓子です。

 

いかがでしょうか。

どのお菓子もあまりの美しさに思わず声を出してしまいそうになりませんか。

 

ただ美しいだけではなく、情緒を感じることができるお菓子たち。

ぜひ、お店に足を運んでいただき、素晴らしい雰囲気を感じたのちにお菓子を召し上がってみてください。

取材・写真・文:小倉夢桜-Yume-