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【流行るお店はココが違う!】
行列のできるお店や予約の取れないお店がある一方で、美味しくても、オシャレでも、なぜかいまいちと感じてしまうお店がある。味や見た目だけではない、人気店ならではの流行る理由とは?
レストラン選びで賢い選択をするために、流行るお店を探し続けるマーケターの舟本 恵氏に、人気店ならではの特徴を教えてもらいましょう!
Vol.7 異国の“本場の味”がなぜ流行るのか?
関東圏と関西圏では、食文化や味の好みが少し異なります。例えば、東京と大阪のうどんでは、だし汁を見た瞬間に違いが分かります。東京のうどんのだし汁は、しょうゆ味が濃く効いていて、色も濃いです。反対に大阪のうどんのだし汁は、黒ではなく黄金色をしています。
同じ日本国内ですら、地域によって食文化や味の好みに違いがあるにもかかわらず、今、遠く離れた異国の“本場の味”が日本各地で大人気です。特に、現地の料理人が腕を振るう本格的な味がファンを虜にしています。
食文化や味の好みが全く異なる、異国の“本場の味”がなぜ流行るのか。今回はタイ料理、中華料理のお店を紹介しながら、その理由を明らかにします。
Check point! 流行る店の“ココ”が違う!
Case 1 「クンテープ 道頓堀本店」大阪・難波
タイ国政府認定の本格派が見せる、日本文化との絶妙なバランス
道頓堀界隈
タイ料理専門店の「クンテープ 道頓堀本店」は、大阪メトロ御堂筋線「なんば駅」から徒歩5分、大阪のシンボルである道頓堀川に面した場所、「かに道楽 道頓堀本店」のすぐ近くにあります。
クンテープエントランス
クンテープ 道頓堀本店は1999年に開業、2006年に「タイ国政府認定レストラン」に認定されている、本格派のタイ料理専門店です。
クンテープキッチンスタッフ
キッチンで調理をするのは、写真のタイ人シェフの皆さんです。母国のタイで料理の修業を積み、大阪の地で、現地の味をそのまま再現されています。
生春巻き 950円(税別)
もしかすると、タイ料理は「辛い料理ばかり」というイメージが強いかもしれません。しかし、タイ料理の半分程度は辛くないメニューです。
辛くない代表的なメニューに、クンテープ 道頓堀本店の人気メニューで、訪れる方の多くが注文する「生春巻き」があります。プリプリの海老、卵焼き、ニラ、バジル等がフレッシュなサニーレタスとライスペーパーに包まれています。見た目も瑞々しく、フレッシュな食感からも、食材の鮮度の高さを感じることができます。野菜のさっぱりした味の中に、海老と卵焼きの旨みが際立ちます。
ソフトシェルクラブのカレー炒め 1,600円(税別)
また、名物料理の「ソフトシェルクラブのカレー炒め」も辛くないメニューの一つです。丸ごと全部を食べられる殻の柔らかいカニ(ソフトシェルクラブ)が、カレーで炒めてあります。コクのあるカレーの深い旨みに加え、カレーに卵が混ざることでフワッとした食感も楽しむことができ、味もよりまろやかになっています。
「ソフトシェルクラブのカレー炒め」は本場では「プーニムパッポンカリー」と呼びますが、実は、タイではソフトシェルクラブではなく、殻の硬い渡り蟹のブツ切りを使う「プーパッポンカリー」が一般的です。現地の方は、渡り蟹を手でつかんで、殻の中の身を上手に食べますが、日本人には直接手で食べるという習慣があまりありません。クンテープ 道頓堀本店でも、以前は渡り蟹を使った「プーパッポンカリー」を提供していましたが、あまり注文はされませんでした。ところが、渡り蟹をソフトシェルクラブに変更した途端、注文が急増したのです。今では圧倒的人気を誇るメニューとなっています。
豚ひき肉とホーリーバジル炒め (ガパオライス) 1,050円(税別)
トムヤムクン(2~4人前) 1,200円(税別)/写真:お店から
ソフトシェルクラブの例のように、クンテープ 道頓堀本店の19年の歴史は、試行錯誤の繰り返しでした。無数にあるタイ本場の料理の中から、大阪の消費者に受け入れられると思われるメニューを選んでは試す。人気が出ればメニューに残し、人気がなければメニューから外す。今ある約60種類のフードメニューは、そうやって繰り返された試行錯誤の中を勝ち抜いた、大阪の消費者の為だけに選抜されたメニューなのです。
本格タイ料理ランチバイキング 平日1,350円、土日祝1,490円(税込)
お昼は毎日、本格タイ料理ランチバイキングが実施されています。タイカレーやトムヤムクン、タイ式焼きそば(パッタイ)など、デザート3種類を含め、常時15種類以上のお料理がズラリと並びます。価格設定は平日1,350円、土日祝1,490円(ともに税込)と大変お得。「タイ料理は初めて」という方は、まずランチバイキングから試してみるのも良いかと思います。
Case 2 「幸福飯店(ハッピーハンテン)」大阪・東梅田
幅広いメニューから日本に合う料理だけをシビアに選抜
幸福飯店エントランス
大阪メトロ谷町線「東梅田駅」、阪急電鉄「梅田駅」からそれぞれ徒歩5分、路地裏を進んだところに中華料理専門店「幸福飯店」があります。
幸福飯店店内
中国から店ごと移転してきたようなエントランスと内装。テーブルも、壁も、中国から輸入しています。お店の雰囲気はカジュアルですが、お料理は中国本場の味がそのまま再現されており、本格的な中華料理が提供されます。
幸福飯店キッチン・ホールスタッフ
幸福飯店では、キッチンだけでなく、ホールでも中国人スタッフが活躍しています。メニューは上海料理、広東料理、北京料理、四川料理など、幅広く取り扱われています。キッチンスタッフは、中国の各地方から集結しているため、幅広いメニューでも、全て本場の味を再現できるのです。
四川口水鶏(シセンコースイチー)別名:よだれ鶏 680円(税別)
北京風芋入り黒酢の酢豚 1,080円(税別)
幸福飯店もまた、試行錯誤を通じ、大阪の消費者の好みに合う、選び抜かれた本場の味だけを提供しています。そして幸福飯店の場合、その仕組みは「おすすめ月替わりメニュー」にあります。
「幸福飯店」では常時、“おすすめ”と書かれた、壁に掲出される月替わりメニューがあり、その数は軽く10種類を超えます。月替わりメニューの中で、特に好評を得たメニューは、年に数回のレギュラーメニュー更新時、正式にメニューに加わる仕組みになっているのです。
白菜と葉ニンニクの回鍋肉 890円(税別)※ 月替わりメニュー
この日の「おすすめ月替わりメニュー」の一つは、「白菜と葉ニンニクの回鍋肉」。日本では、回鍋肉はキャベツで作られることが一般的ですが、このメニューでは代わりに白菜が使われています。キャベツよりも甘みがあり、また、キャベツほど油分を吸い込まないため、あっさりとしつつ、深い旨みを感じることができます。
辣子鶏(ラーズーチー) 950円(税別)
また、調理の工夫もあります。四川料理の代表的なメニューの一つ、鶏肉のから揚げを大量の唐辛子や花椒等と一緒に炒めた「辣子鶏(ラーズーチー)」。中国では、鶏のから揚げは骨ごと切り分けられ、骨付きで提供されることが一般的で、それを手でつかんで食べますが、前述の通り、日本人は直接手で食べる習慣があまりありません。そこで、幸福飯店では、「辣子鶏(ラーズーチー)」は骨を取り除いて提供されているのです。もちろん、味付けは“本場の味”そのものです。
四川風パクチー水餃子 5個650円(税別)
中国では水餃子(茹でて湯切りをしたもの)が主流で、水餃子に比べると、焼き餃子はあまり食べられません。また、中国では、水餃子は主食として食べられることが一般的で、食事の〆に食べられることもあります。日本の餃子は、日本で独自に進化した餃子で、焼き餃子が主流。使用する具材や調理法も中国で主流のものとは異なります。当然、幸福飯店で提供される水餃子は、厚い皮で包まれた“本場の味”です。
異国の“本場の味”がなぜ流行るのか?
クンテープ 道頓堀本店、幸福飯店は、いわば飲食のセレクトショップです。無数にある本国の料理の中から、大阪の消費者の口に合うものだけを選りすぐり、“本場の味”を変えることなく提供しています。そして、その背後に隠された試行錯誤のプロセスが、異国の“本場の味”を流行らせるノウハウを生んでいるのです。
また、“本場の味”は変えない一方、「直接手を使って食べることはあまりない」という、日本の食文化への適応もなされていました。変えるところと変えないところ。その絶妙なバランスの中で、飲食のセレクトショップが成立していると言えそうです。