【流行るお店はココが違う!】

行列のできるお店や予約の取れないお店がある一方で、美味しくても、オシャレでも、なぜかいまいちと感じてしまうお店がある。味や見た目だけではない、人気店ならではの流行る理由とは?

 

レストラン選びで賢い選択をするために、流行るお店を探し続けるマーケターの舟本 恵氏に、人気店ならではの特徴を教えてもらいましょう!

vol.5「○○マニア」が作り出す“流行るお店”とは(後編)

「好きこそものの上手なれ」。特定のジャンルに熱狂的な情熱を注ぎ、誰にも模倣できないお料理を提供することで、消費者から高い評価を得ている“流行るお店”があります。

 

「○○マニア」が作り出す“流行るお店”とは(前編)では、「薬膳マニア」と「お肉マニア」の2人のオーナーを紹介しました。後編では、「スパイスマニア」と「魚マニア」の2人のオーナーを紹介します。いずれのオーナーも、長い年月、熱狂的な情熱を注ぎ続け、まさに匠(たくみ)と呼ぶに値するまでの技術と知識を身に付けることで流行るお店を実現しています。

Check point! 流行る店の“ココ”が違う

Case 1「旧ヤム邸 シモキタ荘」 東京・下北沢

ブレイクのきっかけは、スパイスカレー業界で異例のスタイル

大阪で独自の進化を遂げたスパイスカレー。そんな大阪スパイスカレーの代表格が「旧ヤム邸」です。「旧ヤム邸」は大阪市内で3店舗を営業、その内2店舗が食べログの「カレー百名店 2017」を受賞しています。そして、ついに昨年7月、東京進出を果たしました。

場所は、小田急線・京王井の頭線の下北沢駅より徒歩7分と、決して駅前立地ではありませんが、開業から半年以上経った今も、行列が絶えません。

日替わりランチメニュー「ぜんがけ」1,350円(税込)

 

ランチメニューは日替わり3種類の中から、2種類を選ぶ「あいがけ」1,100円(税込)か、3種類とも選ぶ「ぜんがけ」1,350円(税込)を選ぶことができます。この日の日替わりカレーは「たけのことオリーブのスパイスマリネが乗ったコリアンダーと塩麹のほんのり柑橘鶏キーマ」、「ナッツ入り薩摩マッシュと食べる酸味の効いた中華なクローブキーマ」、「菜の花を煮込んで作るぎゅうとんキーマ香味野菜トマトソースがけ」の3種類。既に、メニューの名前からマニア度合いの高さが溢れ出ています。

ディナーメニュー「スペシャルミックスカレー」1,600円(税込)

ディナーメニュー「100%マトンキーマ」1,100円(税込)

 

「旧ヤム邸」のスパイスカレーは小麦粉を一切使用しません。スパイシーでサラッとしたルウと、牛、豚、鶏、羊、鴨などを自家挽きしたキーマルウの2種類の組み合わせが主軸となり、味付けは粗塩、醤油、味噌などシンプルに。四季折々の野菜や、丁寧に仕込まれたお肉等が盛り付けられ、最後に香り高いカルダモンが加わります。

 

使用されるスパイスは原形から粉砕、じっくり焙煎したものが主に使用されます。そこに、若鶏ガラ、豚骨、牛骨、香草などをじっくり煮込んだブイヨンと、昆布、しいたけ、鰹などで取る和風出汁を合わせたものが、ルウのベースになっています。

 

やさしい和風出汁の風味と複雑に配合されたスパイスのバランスが絶妙で、味わい深い“癖になる辛さ”が食べる人を虜にします。

オーナーの植竹さんは、スパイスマニアです。スパイスとの出会いは35年前。小学生の時、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」で食べた「カシミールカレー」のスパイスに心を奪われます。その後、スパイスの研究にのめり込み、「20代のうちに起業したい」との想いと相俟って、1999年、「旧ヤム邸」の前身となる「ヤムティノ」(その後「ヤムカレー」に店名変更)を大阪の南船場に構えます。開業後も、寝る間を惜しんで研究に没頭。熱狂的なファンも少しずつ増えていきました。

 

しかし、ある時、お店の賃貸借契約が終了を迎えます。2011年に現在の本店、大阪市中央区にある「空堀商店街」に移転。「旧ヤム邸」として2階建てのお店を構えますが、広くなったお店を持て余し、苦戦する日々が続くことに。そんな時、「ヤムティノ」時代からの熱狂的なファンが「一緒に働きたい」と、次々に社員として参戦。人海戦術を以て、スパイスカレー業界では異例の「日替わりメニュースタイル」を確立、「旧ヤム邸」ブレイクの大きなきっかけとなったのです。

 

その後、大阪に2店舗を出店。3店舗体制となり、大阪での人気は不動のものとなりました。「旧ヤム邸のスパイスカレーを、もっともっと多くの人に食べてもらいたい!」東京への進出は、実は出店の1年以上前から画策していました。しかし、植竹さんの信念に見合う立地がなかなか見つからず、物件を探す日々が続きます。そんな時、下北沢にある古いおもちゃ屋が空くと聞き、すぐに駆けつけ即断即決。「○○マニア」は、立地への思い入れ、行動力も人一倍です。

平日のみのディナーメニュー「胸肉のスパイス焼き」250円(税込)

平日のみのディナーメニュー「コハダと新玉のアチャール」200円(税込)

 

「旧ヤム邸 シモキタ荘」では更にメニュー開発が進み、夜はお酒に合うスパイスメニューも充実しています。

 

Case 2「鮨一」 大阪・難波

おいしさを引き出す秘訣は“魚との対話”

Osaka Metro(旧大阪市営地下鉄)御堂筋線のなんば駅から5分ほど歩いたところに、座席数4席の寿司店「鮨一」があります。

一見、進むのが不安になるような細い路地に入ると、お店が現れます。

寿司職人でありオーナーの松浦さんは、魚マニア。松浦さんは中学卒業後、すぐに寿司職人の道へ進みます。厳しい修業時代を経て独立。現在に至るまでの数十年間、常に魚と向き合って来ました。仕入れは鶴橋にある市場へ。「どの魚がおいしいか、見て、触れば、すぐに分かる」とのこと。

 

しかも、どの季節に、どの港で水揚げされた魚が一番美味しいのか、全て頭の中に入っています。壁に掲出されるお品書きは、毎日手書きで作成。毎日仕入れる選りすぐりの魚は全て、お品書きに産地が併記されるマニアぶり。

 

お店は4席、「18時~」と「20時~」の1日2回転のみ。多数の来客に備えて大量に仕入れておく必要がなく、また、仕入れなければならない定番商品もありません。満足のいく魚だけをピンポイントで仕入れます。ここに、魚マニアの実力が最大限に発揮される仕組みがあるのです。

 

魚の質は高級店と遜色ないほど高く、そのうえ仕入れた魚一つ一つの個性によって仕込みを変えています。“魚との対話”を通じて、料理が提供されるのです。また、お店や企業に雇われる寿司職人とは異なり、仕入れから仕込み、調理、接客サービスまで、全ての業務を毎日一人でこなすため、「匠」と呼ぶに相応しい、幅広い技術、知識が身に付くのです。

せこがに(外子・内子付き)

鯖きずし

 

料理は松浦さんと相談しながら決めることができます。壁に掲出された1品メニューや、ネタケースに並ぶ魚から、好きなつまみや握りを一つ一つ注文してもよし、「最初はつまみをいくつかと、あとは握りを10貫くらいで」と注文するもよし。もちろん最初から握りだけでも、つまみメインで握りはシメくらいでも大丈夫です。

生ほたるいか軍艦巻き

鮪中トロ

 

お会計は、ある程度飲んで、しっかり食べて、一人1万円程度。「超」が付くほどの破格だと思います。

 

「○○マニア × 積年 = 匠(たくみ)」が流行るお店を創る

今回は、熱狂的な情熱を数十年に亘り注ぎ込むことで、「匠」と呼ばれるまでに昇華した○○マニア2人をご紹介しました。ともすると、“流行るお店”はすぐに模倣され、安価な類似店舗の出現により、価格競争の波に飲み込まれてしまうことがあります。しかし、○○マニアにより、長年に亘って築き上げられた匠の技は、決して模倣されることはありません。皆様も、「○○マニア × 積年 = 匠」を探してみては如何でしょうか。