フードライター・森脇慶子が注目の店として訪れたのは、2018年5月、新宿・荒木町にオープンした「南方中華料理 南三」。雲南省、 湖南省、そして台南の3つの地方の料理を融合させた新たなる中華の味とはいかに。

【森脇慶子のココに注目 第4回】珍味&ハーブ使いに驚嘆。外食マニアの胃袋掴む「南方中華料理 南三」

 

中国は広い。そして多民族国家である。漢民族を主体に、なんと55もの少数民族が、辺境地域を中心に密接な共同体を築いて暮らしているという。そんな少数民族の地方料理に魅せられた料理人の一人が水岡孝和さん。荒木町にオープンしたここ「南方中華料理 南三」のオーナーシェフだ。

 

中学生の時、「料理の鉄人」を見て中華にはまった水岡シェフ。最初の修業先は往年の名店「天厨菜館」だった。その後「桃の木」等を経て、オープン間もない赤坂「黒猫夜」の門に入る。ここでの修業経験が、地方料理の面白さに目覚めるきっかけとなったそうだ。そして、銀座「黒猫夜」の店長として大いに腕をふるった後、この5月7日、中華マニア待望の独立と相成ったわけだ。

 

水岡孝和シェフ

 

「中国は広大で、その地方料理は実に奥が深い。省が変わると料理が、 ガラリと変わるんです。かと思えば、呼び名の違う同じ食材を多用していたりもする。個人的には、南の地方料理が好きで、ここでは雲南省、 湖南省、そして台湾は先住民が多く住む台南の地方料理を作っていきたいと思っています」と水岡シェフ。

 

南の料理が3つなので、「南三」というわけだ。ちなみに湖南省にはミャオ族、雲南省にはタイ族やミャオ族、チベット族など少数民族の自治州が8つもある地域。それら辺境地域の料理をここでは、月替わりのコース(5,000円〜)で堪能できる。

 

 

5月某日、取材日のコースは、こんな内容だった。

 

冷菜:酔っ払い海老、サバプーアル茶スモーク 、雲南キクラゲ山椒醤油、台湾筍カラスミマヨ  フェンネル羊舌サラダ
珍味盛り:くんせい鴨舌 、くんせいうずら卵 、ウイグルソーセージ
台湾野菜:台湾のオススメ山菜炒め
XO松露焼売:雲南トリュフ海老焼売
牛肝菌牛腩:牛ホホ肉ポルチーニ煮込み
今天海鮮:オススメ海鮮料理
麻油鶏油飯:台湾辛生姜スープ、台湾おこわ
冰沙西米杏:季節フルーツシャーベット、タピオカミルク杏仁

 

どうです、このマニアックぶり。羊料理なんてまだまだ序の口。珍味盛りのウイグルソーセージを始め、水飴を塗って干した豚の大腸や湖南省ではお馴染みらしい羊の心臓の燻製干し、豚バラ肉の燻製等々、「これ、いったいどうやって食べるの!!︎」と好奇心をそそられる食材、料理が目白押し。

 

厨房脇に吊るされた干し肉

 

しかも、厨房脇に吊るされたこの干し肉たち、ほぼ水岡シェフの手作りというのだから、恐れ入る。料理もマニアックだが、水岡シェフ自身もかなりマニアックと見た。とりわけ印象的なのは、そのハーブ使い。

 

鮮魚の蒸し物 ラッキョウペーストかけ

 

6月のコースに登場する「鮮魚の蒸し物 ラッキョウペーストかけ」にしろ、「タイ風羊の炙り焼き香草風味」にしろ、魚や肉にかける薬味ソースが実にユニークかつ快味!

 

好き嫌いはあるだろうが、個人的にはかなりハマる味だ。瓶詰めにしてお持ち帰りにしてほしいと思ったほどだ(冗談抜きで)。聞けば、スズキにかけた薬味ソースは、自家製のラッキョウと発酵唐辛子の甘酢漬けに生姜と万能ネギ、セロリ少々を合わせたもの。

 

タイ風羊の炙り焼き香草風味

 

羊の塊焼きにかけているのは、タイ式というだけあって、ニラや生姜に加えミント、バジル、レモングラスとタイでよく使われるハーブがいろいろ。中でも珍しいのは、木姜子(ムージャンズ)なる香辛料。レモングラスと胡椒を掛け合わせたような風味が特徴で、 爽やかなレモンの香りの中、ピリッとした胡椒の刺激が新鮮だ。

 

最近では、「蓮香」や「仙ノ孫」といったマニアなシェフの店で見かけることはあるものの、まだまだレアな香辛料。「台湾の“馬告(マーガオ)”と呼ばれる香辛料と、ほぼ似ていますね。馬告とは、台湾語で山胡椒という意味なんです」と水岡シェフ。

 

なるほど確かに、同じ香辛料でも場所が変われば呼び名が変わる。そしてそれを、異国人の水岡シェフが日本人の感性を交えつつオリジナルに使いこなしていく。食文化の営みとはこうした些細なことから繋がっていくものなのだろう。

 

 

食とは、民族の文化の表れの一つ。長きに渡る歴史の中で繰り返し続けられてきた民族同士の交流から生まれ、日々の生活の知恵に揉まれて生み出されてきた地方料理や家庭料理の数々。

 

そんな悠久の歴史に思いをはせながら、それらを舌で実感する面白さ――。
もしかしたら、これこそが、ここ「南三」の醍醐味かもしれない。

取材・文:森脇慶子

撮影:大谷次郎