タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載。今回のテーマは「焼き鳥」。最近ますます盛り上がる焼き鳥人気の中、焼き鳥名人になるための食べ方と作法を伝授します。
外食力の鍛え方〜客上手になろう〜
焼き鳥の串を外して食べてはいけないか問題を考察する。
以前某焼き鳥屋のご主人が「当店の焼き鳥は、串を外して食べないようにお願いしたい」とSNSで表明したところ、フェイスブックのシェアが3万2000を超え、ネットニュースやテレビ、ラジオを巻き込んで論争が広がった。
こうしたニュースが拡散するのは、賛否両論があるときである。その時も「その通りだ」「マナー違反」だという意見と、「それは客の勝手だ」「好きなように食べたい」という意見が飛び交っていた。
こうした論争に正解は無い。どちらが正しいマナーかということもないと思う。飲食店において、出された料理は客のものであり、ほかの客に迷惑さえかけなければ、マナー違反ではない。
では僕はどうするのかというと、一部の例を除いて外さない。絶対外さない。なぜならその方がおいしいからである。(ちなみに、一部の例とは、希少部位が人数分無いときなど。それでも相手が許すなら外さない)。
せっかく焼き鳥屋に入って、お金を出して払ったものを無駄にしたくはない。それは皆そうだろう。それは僕にとって「串を外さない」ことなのである。
理由は後で述べるとして、以前僕は雑誌の取材で「焼き鳥の仕事」を習ったことがある。師匠は銀座「バードランド」の和田利弘さんである。
鶏肉を掃除し、切る。串に刺す。下味をつける。焼く。どれも当然ながらプロのようには行かない。しかしその中で最も難しかったのが、串打ちであった。
要領さえ覚えれば、肉にすっと串を入れることはできる。しかし刺した肉の表面が凸凹になってしまうのである。凸凹になるとなにがまずいか。一本で火の通りにばらつきが出るのと、飛び出た部分が焦げてしまうのである。
こうして一流の焼き鳥屋は、焼くことを考えて串を打つ。だから所々焦げてしまった部分を、料理バサミでカットするなんてことはしない。
串は外さない方がいい3つの理由
ではなぜ外さない方がおいしいと思うのかその理由を述べよう。理由は3つある。
まず第一に、焼けた鶏肉の状態を考えてみよう。熱せられた鶏肉は中に熱い肉汁を抱えながら、出来上がる。熱い肉汁は今すぐにでも鶏肉から出たいと考えている。
そこで串から外すと
「肉汁が流れ出る」
「冷める」
という二つのデメリットが生じるのである。
焼き鳥屋は、熱い肉汁を噛んで味わって欲しいと願っているわけであり、それを台無しにする行為なのである。焼き鳥の最大の魅力を損失することになってしまう。
中には一本を、どうしてもシェアしたい。串で手が汚れるのが嫌だ。極端な猫舌であるという方もいるだろう。それでも串を外さない方がいいですよとは言わないが、このデメリットがあることだけは承知しておこう。
第二の理由として「手の味」というのがある。おにぎりを箸で食べる、バゲットをナイフフォークで食べると、どうもいつもより味気なく感じるのは、「手の味」というものがあるからである。
古の時代から手食をして暮らしていた我々は、手でものを食べることが一番安全で美味しく感じられるということが、潜在的に残っているのではないだろうか。
串を手で持ち、歯でしごくようにして肉を食いちぎって噛む。途端に口の中は肉汁で満たされる。鶏脂の甘い香りが鼻に抜けていく。
一方で串から外した鶏肉を、箸で摘まんで食べる。その方が上品には見えるが、野性味というか、“肉を食らう”という醍醐味が薄れてしまうのである。
第三の理由は、焼き鳥屋さんの気持ちである。第一の理由で述べたように「串を外す」というのは、焼き鳥のここの部分を味わって欲しいという焼き鳥屋の焼き手の気持ちをないがしろにしてしまう行為である。
焼き鳥屋も人間である。串を外して食べている人間と、串にかじりついている人間と、どちらに気合が入るかは明白である。その店で美味しい焼き鳥を食べたかったら、串から外さない。これが正解なのである。
ちなみに様々な焼き鳥屋さんに話を聞いたところによると、串から外す人は食べるペースが遅く、串に齧りつく人は一定のペースでリズミカルだという。
焼く方も次々に食べてくれると、気分がいい。その人に焼く気持ちが乗ってきて、知らず知らずのうちに最高の焼きを目指すようになる。
焼き鳥名人になるための作法
他にも少しだけ焼き鳥屋のお作法を紹介したい。
最初からいきなり串を頼むと、焼き鳥屋も焦ってしまう。早く出そうと、まだ完璧ではない状態のものを出してしまうことにもなる。何か一品一番廉価なものでいいから頼む方がいい。
次に出てきた焼き鳥は直ちに食べるのが、最良の美味しい味わい方である。そして食べる前に七味や山椒はかけない。一口食べて足りないなと思ったときかけるか、皿の上に出してつけて食べる。
その際のかけ方だが、片手でかけない。よく見かけるひょうたん形の七味入れは、両手を使ってこそ調整できるのである。片手で持ってかけると、最初なかなか出ず、時にガバッと出て、かけすぎてしまう。
片手で七味容器の下を支え、指をストッパーにして傾けて人差し指でトントンと下から叩くか、振り下ろす。この容器はこうすると量が調整でき、少しずつ出せるように設計されているのである。ひょうたん型以外の、缶型や竹筒型も同様にした方が調整できる。
さあ目指せ、焼き鳥屋名人。