〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、山本憲資さんがおすすめする“今のスタンダード”を味わえる焼き鳥店をご紹介。

教えてくれる人

山本憲資
1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、Sumallyを起業、2023年10月末に代表を退任し顧問に就任。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

予約の取れない焼き鳥屋を築いた、あの名店の店主がカウンターに立つ

美食家たちが贔屓にする名店が数多く立ち並ぶ麻布十番。商店街の脇道には知る人ぞ知る美食店も点在し、舌の肥えた大人たちの“お気に入り”にリストアップされている店も多い。
仙台坂下近くのビル内に2023年12月にオープンした「とり 難波」は、早くもそのリスト入りを予感させる一軒だ。

店内はスタイリッシュで落ち着いた雰囲気。仕切りの奥には半個室風のカウンターが隠れている

場所は、麻布十番駅から商店街を抜け、仙台坂下方面に少し歩いた綱代通り沿いにある、ピッツェリアや焼肉店など話題の店が入居するビルの5階。表に看板はなく、隠れ家のような雰囲気の佇まいである。入店すると、食通たちなら見覚えがあるであろう、あの人気焼き鳥店の店主がにこやかに出迎えてくれる。

店主が毎日磨いているという、銀杏の木を使用したピカピカの一枚板カウンター
 

山本さん

「中目黒 いぐち」に何度か伺っていて、興味がありました。スタイリッシュな内装の居心地もいいです。

焼き鳥界のレジェンドが新たにチャレンジする “驚きと感動を届ける焼き鳥屋”

その人物とは、昨今の焼き鳥ブームを牽引したひとりである「中目黒 いぐち」の井口勝広さん。これまで大衆店か老舗の高級店しか選択肢のなかった「焼き鳥」のジャンルで、スタイリッシュで斬新な大人の焼き鳥を提案し、「中目黒 いぐち」を予約の取れない人気店へと押し上げた。その焼き鳥界のレジェンドが「いぐち」グループを離れ、麻布十番で新たな挑戦に踏み出したのが「とり 難波」だ。

店主の井口勝広さん

「この店で提供したいのは“楽しんでもらう”こと。家族とも友達とも来られる雰囲気と料理を大事にしています。『中目黒 いぐち』は、店内がムーディーで一串のポーションも小さめなデート向きの焼き鳥店でしたが、『とり難波』の串は大きめのポーションで食べ応えを重視し、しっかり食べて『おいしかったね』と思ってもらえる店づくりを大事にしています」(井口さん)

焼き鳥職人歴30年の熟練の技が光る

料理人としての出発点であり19年修業した「原宿 鳥久」では、技術はもちろん接客のイロハを身につけ、「中目黒 いぐち」では流行を生む店のつくり方や経営を学んだという井口さん。同店はそんな井口さんの“やりたいこと”を注ぐ集大成でありながらも「常に『これでいいのか?』と自問自答しています」と、客に楽しんでもらえる焼き鳥を日々追求しているという。

 

山本さん

井口さんの常に工夫をし続けているスタンス、素敵です。 

「昔は1本からお好みで食べるのが焼き鳥の主流でしたが、今ではコースが当たり前の時代。時代によってスタンダードが変わるように、自分の焼き鳥も“今”のスタンダードを提供していきたい」

そう話すように、「とり 難波」では王道に井口さんらしいエッセンスを加えた楽しさと驚きに満ちたコースを体験できる。