【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回は、世界各地で盛り上がりを見せる焼鳥店の新星が登場。焼鳥の激戦区・五反田にオープンしたばかりだが、早くも話題となりつつあるその店の魅力を探る。

Vol.20 仕込みに妥協一切なし!肉と串編

意外に思われるかもしれないが、日本人の食肉消費量の割合は、牛肉、豚肉を抜いてダントツで鶏肉が1位なのだという。ヘルシーで高たんぱく、料理の汎用性が高い鶏肉は、昔から日本の食肉文化を支えてきた。

 

世界各地には鶏を使った料理が数えきれないほどあるが、日本だけではなく、海外でも大ブームを巻き起こしている鶏料理といえば、焼鳥だろう。アメリカ版のミシュランガイドには、焼鳥では唯一、6年連続で一つ星を獲得している店が掲載され、昨年11月にパリの11区にオープンした焼鳥専門店は、連日大盛況だという。

肉に串を打ち、炭火で焼くというシンプルさゆえ、素材や下処理、職人の腕前が問われるが、東京にもまた新たに“進化し続ける日本の焼鳥”を堪能できる店が登場した。

 

有名店も数多い、焼鳥の激戦区、五反田にこの3月にオープンした「とり口」。「丁寧な仕事がそのまま味に繋がる」と話す店主の西口和樹さんは、稀少部位を早々にメニューに取り入れるなど、新しい焼鳥文化を確立した「鳥よし」の出身。同じ銘柄の鶏でもカットや下処理で味が格段に変わると、仕込みにかける手間を一切惜しまない。

現在、使う鶏は大山どりと山梨の信玄どり。クセが少なく、味がブレないため、焼鳥店ではお馴染みの銘柄だが、圧倒的な鶏の旨みを感じられるのは、丁寧な下処理と的確な火入れの為せる業だろう。

 

ささみは芯に火が入るギリギリのところで焼き台から上げて、ほんのりレアに。レバーは、ふわっとした食感に仕上げるためこまめに返す、ももや手羽は余分な脂だけを落としながら、芳ばしさも感じられるように焦げ目がつく直前まで火を入れる。コース(5,800円)の内容は10の部位を使った串と、小鉢や一品料理も10種登場。

からすみをまぶしたポーチドエッグや鶏だしが香るにゅうめんなど、気が利いたメニューにもコースならではの楽しさを感じる。

焼鳥と一緒にお酒もゆっくり楽しんでほしいという思いから、純米酒やワインも厳選。神亀、山形正宗など、お燗にすると味がより膨らむタイプのお酒も揃えており、旨みを湛えた焼鳥との相性は抜群だ。埼玉の蔵元が造るオリジナルのにごり酒を、トニックウォーターとソーダで割った“英雄トニック”は爽やかな飲み口で、タレ系焼鳥にもぴったり。ワインはイタリア産に重心を置き、焼鳥店の枠を超えたラインナップでゲストを魅了する。

 

海外でも人気を集める焼鳥が日本の職人の技と知識によって、ますます進化していくのは間違いない。そう確信する新生店へ、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

 

写真:上田佳代子
取材・文:小寺慶子