全20品からなるおまかせの中の、笹岡さんイチ押しメニューはこれ

「価格は据え置きにしています」と村上さんが話す季節のおまかせコースは、ここでしか味わえない品ぞろえ(約20品、12,000円)。
旬の素材を駆使した一品料理と握りが、日替わりで供される中「天候次第である時とない時がありますが……」と村上さんが話す、この店の名物メニューがコチラ!

泳ぎイカを目の前で姿造りに!

泳ぎイカの造り(おまかせコース12,000円の中の一品。写真は3人前)。実は「墨や」の母体は、イカ専門の卸業を営んでいる。だからこそ鮮度抜群のイカをはじめ、選りすぐりのネタを味わえる
 

笹岡さん

一品料理は、やはり新鮮なイカの造りが秀逸です。半透明で美しく、甘くて味わい深い。入荷があるかどうかは運次第です。

店先の水槽で悠々と泳ぐ剣先イカ。ストレスをかけないよう素早くそっとボウルに移し、瞬時にさばく

ついさっきまで店先の水槽で泳いでいた剣先イカを、見事な手さばきで造りにする村上さん。その身は、じつに艶やか。しかも表面に細かな包丁入れがなされ、見惚れてしまうくらい繊細で美しい。
まずは塩をはらりと振り味わえば、シャクッとした食感が心地よく、すっきりとした甘みが印象的。お次は塩と酢橘の搾り汁で。さっぱりとした味わいに、より一層、箸が進むというもの。「ゲソはこの後、塩焼きもしくは天ぷらで味わっていただけます」と村上さん。
造りで、焼きや揚げ物で、イカの魅力を余すところなく味わい尽くすことができる。

おまかせコースの前半は、ぷっくりと張りのいい「タラ白子」など、鮮度重視の一品料理が続く

真っ黒のシャリで握る「イカ」は消える魔球!

イカ卸業を営み、イカの取り扱いには人一倍自信がある「墨や」。そこでイカ墨を使った黒いシャリを考案した

真っ黒のシャリもまた「墨や」ならでは。
米は、古米をはじめ3種を用いる。赤酢に米酢をブレンドして、塩と砂糖を少々。そこにイカ墨を加えてシャリにするという。赤酢のふくよかな香りとまろやかな味わいに、イカ墨の旨みが調和する。
「黒シャリに合わせるネタは、イカのほか、甘鯛や平目など白身魚とも相性がいいんです」(村上さん)

剣先イカの握り。1日寝かせ甘みを引き出したイカは、裏表にごく細かい隠し包丁を入れている
 

笹岡さん

イカ墨を用いた黒い酢飯とネタとの相性は抜群。目も舌も楽しませてくれます。

黒と白のコントラストが実に美しい、剣先イカの握り。頬張れば、濃厚な甘みが口の中に広がり、まろやかな酸味のシャリとともにハラリとほどけた! イカ墨がもつ旨みで、シャリの酸味が和らぎ、ネタと見事なハーモニーを奏でる。

自家製のイクラ醤油漬けも黒シャリと共に。イクラの濃厚な旨みが黒シャリと混じり合う。擦りたてワサビの鮮烈な香りがアクセント
 

笹岡さん

握りだけでも10貫以上。酢飯も変えて提供され、いずれも新鮮で美しいんです。

白シャリは、マグロや穴子など脂のりの良いネタと共に

さっぱりとした酸味が心地よい白シャリは、しっかりと脂がのったネタと絶妙な相性を見せる。
ネギトロ巻きは、白シャリにトロの濃厚な甘みがなじみ、海苔の香ばしさが渾然一体に。このほか、マグロの漬け、煮穴子、赤貝の軍艦巻きなどに白シャリを用いる。

黒と白、味わいも表情も異なるシャリと、旬のネタとの相性をじっくり堪能したい。

独学で我が道を行く、女性寿司職人の心意気

女性寿司職人・村上さんは、名店での修業経験はないが、「たくさんの方に教えていただき、今の私があります」とにこやかに話す。店が休みの日には、話題の店へ食べに行くことも欠かさない。寿司に関しては「関西と江戸前の、いいとこ取りですね(笑)」。研究熱心な村上さんならではの味と技が、食べ込んだ客を魅了し続けているのだろう。

「味づくりはもちろん、価格帯や品数、狭い店やこの界隈の空気感もひっくるめて楽しんでいただきたいです」(村上さん)
「墨や」を訪れたことのある客は、その言葉に納得するだろう。

 

笹岡さん

店の隣にスナックがあり、スナックのお客さんの歌声を聞きながら、お寿司をいただく。昭和レトロな雰囲気もごちそうです。

味も雰囲気も唯一無二の「墨や」。予約は半年先のようだがとっておきの朗報が!

狙うは穴場の姉妹店! 2023年4月にオープンした「墨や」淡路島店へ

 

笹岡さん

淡路島に誕生した姉妹店は、予約が取りやすい穴場のようです。

2023年4月、淡路島・西海岸にオープンした、Ladybird Road(レディバードロード)。淡路島の食材を用いた飲食店や、島内各所から直送された食材の専門店などが集まった食のシーサイドモールに「墨や」が出店!
自慢のイカの握りはもちろんのこと、淡路島で水揚げされる鯛、サワラ、ヒラメなど地物を用いた握りを堪能できる。
穴場、とはいえ週末は多くの客で賑わうスポットなので土・日曜は事前予約がおすすめだ。
(予約:080-6323-2785)

※価格は税込

文:船井香緒里、食べログマガジン編集部 撮影:東谷幸一