年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。表参道の日本料理店「太月」の店主が選んだ名店とは?

〈一流の行きつけ〉Vol.20

日本料理「太月」表参道

高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。

当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。

第20回にお話を伺ったのは、日本料理「太月」店主の望月英雄氏。2017年を皮切りに7年連続でSilverとBronzeを受賞、「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店」にも選出されている同店は、ミシュランガイドでも2015年から連続して星を獲得する名店中の名店。そんな望月氏の気になる行きつけとは?

立地や業態は変わっても父母の店を守り継ぐ

ジェームズオオクボ
コンクリート打ちっ放しのビルの地下1階に店はある   出典:ジェームズオオクボさん

神奈川県秦野市に生まれ、地元で父母が営むしゃぶしゃぶとステーキの店を間近に見ながら育った望月氏。子どもの頃は野球一筋で店を継ぐ気持ちはあまりなかったというが、肘を痛めたことをきっかけに料理の道に進み、新宿の懐石料理店「龍雲庵」、人形町の老舗料亭「玄冶店(げんやだな) 濱田家」、麻布十番の日本料理店「割烹 喜作」で修業を積み、2013年に「太月」をオープンさせた。

「もともとは両親の店を継ぐつもりで修業を始めたのですが、母に病が見つかり、秦野の店をたたむことに。ですが、そのままさらに修業を続け、立地や業態は違っても父母の店の屋号を継いで独立しよう、母に自分が開いた店を見せてあげたい、との思いで2013年に『太月』をオープンさせました。母の病状は思わしくありませんでしたが、開店をとても喜んでくれました」(望月氏)

ちなみに「太月」は、父である望月 太二氏が自身の名前4文字の中2つを逆に入れ替え付けたものだ。

ジェームズオオクボ
赤杉の色と木目がやさしく温かみのある雰囲気を漂わせる   出典:ジェームズオオクボさん

店があるのは、地下鉄表参道駅から徒歩5分の好立地。表参道というと賑やかなイメージがあるが「太月」は国道246号から一本路地に入った閑静な一角に立つビルの地下1階で営まれ、落ち着いた雰囲気で食事を堪能できる。

オープンから丸10年を迎え、約3カ月かけて行ったのは店内全てを造り替える大規模な改装だ。

「日本料理というと白い檜をふんだんに使った空間を思い浮べる人が多いと思いますが、そうではなく、赤杉や御影石などのいい素材を使って町家のような雰囲気に。大切な水回りと空調も費用をかけて、しっかりしたものを作ってもらいました」と望月氏。全てを見せるオープンキッチンで、リニューアル後に来訪した客人の評価も上々だ。

正統派の日本料理を広めるためなら海外へも行く

ジェームズオオクボ
だしの基本となる鰹節を削り出す店主の望月 英雄氏   出典:ジェームズオオクボさん

改装のため店を閉めていた間、望月氏が飛んだのは台湾、シンガポール。そして改装後もマレーシアに行くことが決まっていると教えてくれたのだが、その目的はホテル内レストランでのコラボディナーだ。

「先方から声をかけていただき、正統派の日本料理を味わっていただく好機と思い渡航しました。コラボとはいえ、ほとんどがうちのメニューで、先方が寿司店でしたので食事や八寸に寿司系のものも取り入れました」と望月氏。現地の方の反応はとてもよかったと手応えを感じた様子だ。

ジェームズオオクボ
一枚の絵のように美しく盛りつけられた秋の八寸   出典:ジェームズオオクボさん

「太月」では、ランチ、ディナーとも旬の食材をふんだんに取り入れた四季を感じるコース料理が味わえる。料理の基本となる大切なだしは、水出しとお湯出し2種類の昆布だしと、本枯節血合い抜きの鰹節を毎日ていねいにとって使う。

豊洲などで仕入れる食材のほか、春は山菜や筍、花山椒、夏は鮎、秋は松茸や天然のきのこ、冬は蟹、聖護院大根など、全国各地から食材を直接取り寄せるのも「太月」のこだわり。産直の食材は通年で3、4割を占めるなど、季節感をいかに大切にしているかがよくわかる。

互いに思い合いながら日本の食文化を発展させたい

Hiro45316
長良川産の天然鮎。懐石料理のメイン1品目「鉢肴」の塩焼きに   出典:Hiro45316さん

望月氏が貫くのは、どこまでもクラシックで、営業スタイルも含めて後世にきちんと引き継げるような日本料理だ。

「かつての飲食には、“お客様は神様です”といった時代もあれば、お茶の精神のように主人と客が同じ立場などいろいろな時代がありました。お店がお客様を思うのはもちろんですが、茶道に見られる関係性のように、お店とお客様がお互いを大切に思い合いともに楽しむ、そうなればいいなと感じます。その方が文化としてもっと発展すると思っています」(望月氏)

goro58397
シャケのハラスと紫蘇の実のご飯。季節の土鍋ご飯もお楽しみ   出典:goro58397さん

接待やお祝い事、頑張った自分へのご褒美、友人とのランチなど、店に訪れる目的、連れ立つ人はさまざま。「太月」では、来店の目的に合わせて間のとり方を変えるなど、細やかな心遣いで限りなく客に寄り添い、総合的なおもてなしで心地よいひとときを楽しませてくれる。

料理はランチとディナーともに利用できるコース料理が22,000円から。ランチのみ9,900円のコースもある。茶懐石で培った望月氏の繊細な技と、リピーターの舌を唸らせる料理の数々を堪能しに、予約を取ってぜひ出かけてみてほしい。