【おいしいパンのある町へ】

Vol.7 東京・根津「Bonjour mojo2(ボンジュール・モジョモジョ)」

大人になると、なかなか手に取る機会がない動物パン。幼い頃におねだりした記憶を持つ人も、多いのでは? 今回訪れた「Bonjour mojo2(ボンジュール・モジョモジョ)」の看板商品は、20種類もの動物パン。パンの専門誌やパン特集などに引っ張りだこの人気店だ。

店があるのは、上野からほど近い文京区・根津。自転車がギリギリすれ違えるほどの細道に、アフロヘアのイラストが描かれたキュートな看板を発見。手書きのメニューに心躍らせながら窓を覗くと、びっくり。イラストと瓜二つのオーナー、大平由美さんが出迎えてくれる。

趣味として始まった、動物パン作り

祖父、父ともにパン屋を営む家系で、小さい頃からパンに囲まれて育った大平さん。地元・福島県を離れ東京で料理を学んだ後、イタリアンレストランに就職し東京での生活を続けていた。「料理だけでなく、とにかく“もの作り”が好きで。友人たちが自由にアート作品を展示する活動をしていたので、私も趣味として動物パンを作って、展示していたんです。すると訪れてくれた方たちから、“食べてみたい”というリクエストを多数いただいたんです」

 

 

せっかくなら売ってみようか、と思い立ったときに、谷中にあるレンタルスペース「貸はらっぱ音地」の存在を知ったそう。「気が向いたときに自由に出店できるという利便性から、ここだ!と。仕事をしながら大量のパンを作るのは大変なので、出店するのは月に1回のみでした。それでも続けるにつれてどんどん常連さんが増え、わざわざ次の出店日をメモして帰ってくださったりして。そんな人々との触れ合いから、谷中の街へ愛着を抱くようになりました」

子どもが小銭を握ってパンを買いにくる。そんな光景を守りたい

レンタルスペースでの販売を続けるうちに、「パン屋をやってみたい」という思いが強くなったという大平さん。根津神社に訪れた際、谷中に住む友人と遭遇し何気なく話してみると、おすすめの不動産屋を紹介された。そんな偶然から谷中から徒歩圏内の根津にある、現在の店舗との出合いを果たした。「雰囲気は気に入ったのですが普通の住宅だったので、店舗にするのは難しいな、という印象でした。でも友人たちから“なんとかなるよ!”と諭され、ノリで契約しちゃったんです。のちに両親に報告したら、叱られましたけど(笑)」

玄関横の窓を売り場にし、リビングをイートインスペースにリフォーム。オーブンの置き場所や配線などの困難も無事乗り切り、2011年に無事オープンを果たす。「今でこそ周りにお店が増えましたが、当時は正真正銘の住宅街でした。急に店を設けることで雰囲気を壊してしまうのではと不安もありましたが、近所のみなさんから、すごく温かく迎え入れていただきました。今ではしょっちゅうおかずを分けていただくし、先日雪が降った日などは、早朝から雪かきまでしてくださったんです」

古き良き人情を感じられる根津に、すっかり魅了されたと語る大平さん。取材中もひっきりなしに訪れる常連客のなかには、幼稚園や小学生の子どもたちも少なくない。小銭を片手にやって来て、じっくり吟味して選んだ動物パンを、うれしそうに握りしめながら走り去る。そんな後ろ姿を見届けながら「今の時代、こんな光景は、なかなか見られないですよね。ずっと続いてくれるといいなあ」と、満面の笑みを浮かべた。

祖父から代々伝わる製法で再現する“昔ながらの味”

福島県・いわき市でパン屋「ボンジュール大平」を営む父のレシピをそのまま生かしている大平さん。そこには代々伝わる製法を継承したいという思いだけでなく、昔ながらのパンへの愛が込められている。「新しい技術や機械を取り入れて、年々変化を遂げているパン。新鮮な味覚ももちろん素晴らしいですが、どこかホッとできる、なつかしい味わいも残していけたら素敵だなって」。店先に並ぶ愛らしいパンの数々より、人気の高い商品を教えてもらった。

オープン当初から人気No.1を維持し続ける、うさぎのクリームパン

コッペパンの生地をベースに作られる、動物パン。同じ味を再現するために代々贔屓にしている製粉業者から、発注を受けてから挽かれた小麦粉を仕入れる。それゆえのフレッシュな香りが特徴。「父が作るパンと唯一違うのが、卵。レストランで働いていたときに知った千葉県・茂原市の農場で生産される卵が大のお気に入りで、どうしてもパン作りに使いたかったんです。普通の卵よりもコクが出て、もっちり感がアップします」

 

 

業者から仕入れるカスタードクリームのフィリングは、数多くを試食して出合った逸品。「パンと馴染むよう、なめらかさを重視して選びました。濃厚なのにしつこくなく、クリームだけでも充分おいしい。ご年配の方からお子さんまで、圧倒的な支持を誇る人気商品です!」(200円)

カニクリームコロッケが、パンに変身!

カニクリームコロッケのフィリングを使ったこちらの商品にも、アツい支持が。「父の店ではカレーパンのように揚げて提供しているのですが、ヘルシーにアレンジしてみました」

 

 

フィリングは贅沢に、ズワイガニを使用。カニの身はもちろん、野菜の食感をしっかりと感じられ、本格カニクリームコロッケにも勝る味わい。オーブントースターで温めるとクリームがなめらかさを増し、さらにおいしく! (200円)

ママのハートをわしづかみにする、さつまいもパン

子連れのお母さんたちからラブコールが集中しているのが、こちらのネコちゃん。割ってみると、中にはさつまいもの餡がぎっしり! 「スイートポテトのような味わいの餡は、個人的にも大のお気に入り。豆などは一切混入せず、さつまいものみを使用しています」

 

 

しっかり甘いのにしつこさゼロの餡は、冷めてもふっくら。食べ応えバッチリで、スイーツ感覚も味わえるのがうれしい。(180円)

素朴なしっとり生地が癖になるソフトフランス

「オープン当初は動物パンのみのラインナップだったのですが、自分が食べたくて、大好きなソフトフランスも仲間入り(笑)。外はパリッ&中はパサッとしたフランスパンに比べて、外も柔らか&中はモチッとした食感が特徴です」

 

 

バターの代わりにショートニングを使うことで、素朴な味わいを再現。生地に砂糖を加えて旨味を出す代わりに、フィリングは甘さを抑えてバランスを調整しているとか。チョコはほどよくビターで、大人な味わい。(160円)

 

 

ボンジュールモジョモジョ(Bonjour mojo2)
東京都文京区根津2-33-2 七弥Bハウス 1F
営業時間:11時〜売り切れまで
定休日:月、火、第1・第3日曜+不定休

 

大平由美さんに聞く、根津周辺の一押しグルメ

「とにかく食べることが大好きで、ほぼ毎日、外食しています」という大平さん。グルメな店主を唸らせる、根津の名店をチェック!

気取らないのにちゃんとおいしい! 「レストランMOMO(モモ)」

「カジュアルな雰囲気で、気軽に行けるのがうれしい」という大平さんが足繁く通う、フレンチレストラン。「何を食べてもハズレなしで、どれも本当に美味しいんです。私のお気に入りは、コースに含まれる前菜の盛り合わせ。9、10種類の前菜がちょこっとずつ盛られたプレートを見るたびに、心が高鳴ります。デザートの手作りアイスも忘れずに!」

夜食ならココ! ビアカフェ「Bon Fire(ボン ファイアー)」

ビール党の旦那さま一押しのビアカフェ。「クラフトビール数種類を生で提供しており、店内はいつもビール好きで賑わっています。私はお酒を飲めないのですが、こちらは定食も絶品なんです。鮭ご飯、ソーセージ、ハッシュドポテト、アイスクリームがセットになったキッズプレートが大好物で。恥ずかしさを堪えながら注文しています(笑)」

 

もっと知りたい根津の“おいしい”

食べログでキャッチした、根津のグルメ情報はこちら

 

 

取材・文:中西彩乃
撮影:山田英博