酒巻 祐史氏のおすすめ4軒

3代目が飲食店に足を運ぶのは、自身の信条“一生勉強”のため。「おいしい店ならたくさんあるが、おいしくて勉強になる店はなかなかない」と話す酒巻氏が教えてくれた4軒が気になる。

ディナーのおすすめ①キノシタ

現在「鳥茂」がある新宿駅南口は住所にすると渋谷区代々木。同じ代々木にあり自店からも近いフランス料理店が、「食べログ百名店」や「ミシュランガイド」の“ビブグルマン(コスパの良い良質な店)”にも選ばれている「キノシタ」である。

代々木乃助ククル
外観は欧州のレストランのような佇まい   出典:代々木乃助ククルさん

「オーナーシェフ木下氏のトレードマークはスキンヘッド、ぱっと見こわもてですが、仕事熱心で来る度に深化した料理を楽しませてくれ勉強になります。マダムとお弟子さん3人のバランス、雰囲気がとてもいいですよ」(酒巻氏)

shinn679
チーズのせバゲットを浸しても美味な「スープドポワソン」   出典:shinn679さん

酒巻氏が「濃厚でギリギリまで攻めている味」と評するお気に入りは「スープドポワソン(魚介のあたたかいスープ)」。味に深みがあり、チーズをのせたバゲットをスープに浸して味わうと、チーズとスープが一つになり、まろやかなうまみに変わる。

みすきす
酒巻さんが火入れを絶賛する「牛フィレ肉のロースト」   出典:みすきすさん

「火入れの仕方が絶妙です」と賞賛するのは「牛フィレ肉のロースト」。肉質を生かすように丁寧に火入れされ、ピンク色の断面も美しく、柔らかでうまみと香りも堪能できる絶品に仕上がっている。一皿ひとさらのクオリティの高さ、ボリュームに対し驚くほどリーズナブルなのも人気の理由だ。

・プリフィックスコース、酒類 予算~10,000円以下

ディナーのおすすめ②スタミナ苑

2軒目に挙げてくれたのは「鳥茂」とは同業種にあたる焼き肉店「スタミナ苑」。最寄り駅から歩くと30分かかり、タクシーか都営バスを利用するしかないなど、交通の便がいいとは言い難い立地にありながら行列が絶えず、予約不可の来店順というのも行列にさらに拍車をかける。

pateknautilus40
創業は1967(昭和42)年、昭和の郷愁漂う雰囲気がたまらない   出典:pateknautilus40さん

「ホルモン焼きや内臓料理がメインのお店で、おいしくて新鮮で下処理も完璧です」と酒巻氏も太鼓判。「自分の親の代からやっていらっしゃって、昔から建物も同じで実にレトロ。店を大切に守り、清潔に丁寧に営業されています」

むとかん
鮮やかな彩りと異なる食感が楽しい「ホルモン盛り合わせ」   出典:むとかんさん

酒巻氏がよくオーダーするのは「ホルモン盛り合わせ(ミックスホルモン)」。「ハラミ、タン、シマチョウ、ギアラなど、どれも甲乙つけがたく、少しずついろいろな部位を楽しめるのがいいですね」と酒巻氏。冬でも氷水でうまみをおとさぬよう洗い、わずかな筋も見落とすことなく筋切りするなど丁寧な下処理が施され、実に柔らかく食べやすい。

特盛ヒロシ
間違いない組み合わせの「特選上カルビ オンザライス」   出典:特盛ヒロシさん

バラ肉「カルビ」もお気に入りの一品だ。「たれの味と肉のバランスがとてもいいんです。歳を重ねると脂が多めのカルビは敬遠されがちですが、ここのカルビは、まるで若返ったように白いご飯を組み合わせてガッツリ食べられます」と絶賛する。

・ホルモン盛り合わせ、特選上カルビ、ライス、酒類 予算:~10,000円

ディナーのおすすめ③北島亭

3軒目は、四谷の王道フレンチ「北島亭」を挙げてくれた。奇をてらわず、素材のよさを実直に生かした骨太のフレンチで知られ、料理のポーションもダイナミック。長年、日本におけるフランス料理界を牽引する北島シェフによる、シンプルかつ迫力ある一皿が楽しめるレストランである。

ミッキーマウスだよ
焼き上がり直後の「オーストラリア産仔羊背肉の岩塩包み焼き」   出典:ミッキーマウスだよさん

酒巻氏が「羊の火入れが素晴らしい」と教えてくれたのは「北島亭」のスペシャリテの一つ「仔羊の岩塩包み焼き」。棒状の仔羊の肉をクレピーヌ(網脂)で巻き、ハーブと合わせた岩塩で包んで焼き上げた一品で、シンプルながら素材のうまみが極限まで引き出され、多くのファンをうならせている。

tomomin826
コンソメジュレと白いソースの色合いも美しい「北海道産生ウニのコンソメゼリー寄せ」   出典:tomomin826さん

もう一つの「北島亭」の代名詞、「北海道産生ウニのコンソメゼリー寄せ」も酒巻氏のおすすめ。ジュレで固めたコンソメの中には濃厚なウニがたっぷり、その周りにはカリフラワーの甘く白いソースがかけられ「口中で混ざり合う一体感が素晴らしい」と酒巻氏を虜にする。

正統派フレンチの格式は保ちつつクラシカルでくつろげる雰囲気が漂う
正統派フレンチの格式は保ちつつクラシカルでくつろげる雰囲気が漂う   写真:お店から

店は四ツ谷駅の喧噪を離れたオフィス街の一角にあり、客席はテーブル10席。白と茶を基調にした落ち着きある空間で、肩肘張らずに正統派のフレンチを楽しめるのも魅力だ。

・コース料理 予算:15,000~30,000円

ディナーのおすすめ④鮨 いまむら

知己の寿司店のおすすめで足を運んで以来、月に1度は出かけていると教えてくれたのは、白金台にある完全予約制の店「鮨 いまむら」だ。

オールバックGOGOGGO
シンプルかつ端正な店構え   出典:オールバックGOGOGGOさん

店は恵比寿駅と白金高輪駅の中間、閑静な住宅街にあり、L字の白木のカウンター9席で営業。丁寧に仕込まれたつまみから握りに移行するスタイルで「食べログ 寿司 TOKYO 百名店」にも選ばれ、王道の江戸前寿司が堪能できると人気がある。

ドラノログ
酢の香りの後に魚のうまみが広がる「コハダ」   出典:ドラノログさん

「その日その日で魚の状態は違うが、酢飯に合うよう、手間と時間をかけたいい下処理をして完成されている」と酒巻氏が話すのは「コハダ」。ため息が漏れるように美しく、脂がのって肉厚で、しっかりめの赤酢のシャリとの一体感も秀逸だ。

うめけん1002
ふっくらふんわり、口に含むとホロホロとほぐれる「穴子」   出典:うめけん1002さん

仕事柄、火入れには特に敏感な酒巻氏。握りの最後に出るふっくらした「穴子」もお気に入りだ。「簡単なようで難しいのが火入れ。慎重にやらないといけない仕事ですが、こちらの穴子をいただくと、いつもいいなと思います」

メニューはいつも基本的にお任せというが「行く度に1品、2品、必ず違うものが出てきます。進歩しようという心を感じ、我々も勉強になります」と話してくれた。

・おまかせコース 予算:25,000~30,000円

※価格はすべて税込です。

取材・文:池田実香(フリート)