【噂の新店】「LʼOrangerie 光庵」

ルレ・エ・シャトー加盟ホテル「ザ・キタノホテル東京」のメインダイニングがリニューアル

東京・平河町に、2019年に開業した全70室のラグジュアリー・ブティックホテルの「ザ・キタノホテル東京」。1964年に創業した日本初のサービスアパートメントホテル「北野アームス」が前身で「ザ・キタノホテル ニューヨーク」を姉妹ホテルに持つ。2023年5月、東京のホテルとしては唯一、世界中の厳選された580のホテルとレストランが加盟する「ルレ・エ・シャトー」への加盟が認められたホテルでもある。

東京メトロ永田町駅から歩いてすぐの場所にある「ザ・キタノホテル東京」

そんな「ザ・キタノホテル東京」のメインダイニングが、2024年7月17日に「LʼOrangerie 光庵(オランジュリー こうあん)」としてリニューアルオープンした。

晴れた日はあたたかな光が差し込むダイニング

店名は、貴族の邸宅にあるようなガラス張りの温室(オランジュリー)のイメージになぞらえ、そこに日本語の「光(ひかり)の庵(いおり)」という言葉を組み合わせた。

フランスの風景を描いた石躍達哉氏の日本画が印象的な個室は全6席(要予約)

内装は黄色を基調に、浅葱色が差し色となった明るくやわらかな空間。ところどころにアートを掲げ、個室はシノワズリ風の花鳥風月の壁紙で彩りを添えた。ベーゼンドルファー製のピアノから流れるBGMに、スモールラグジュアリーホテルならではのパーソナルな居心地の良さが表現されている。

シェフは銀座「レカン」で修業後、海外で21年経験を積み「フランス農事功労章シュヴァリエ」を叙勲

レストランのコンセプトは、ガストロノミーのような質の高い料理でありながら、アラカルトも注文できる、ビストロのような気軽さも兼ね備えた「ビストロノミー」。料理長を務めるのは、フランス農事功労章シュヴァリエを叙勲した加茂健シェフだ。

加茂健シェフ

広島県出身で、フランス料理のシェフを父に持ち、城悦夫シェフの下「銀座レカン」「ヴァンサン」にて修業後、1999年に渡欧。スイスの世界的なトップレストラン「ロテル・ドゥ・ヴィル」をはじめ多数のグランシェフに師事。2007年からはカンボジア王族所有の「ラ・レジデンス」へ招聘、立ち上げより総料理長を13年間務め、各国の王族や要人をもてなした経歴を持つ。2022年より「Ryokan尾道西山」(広島)の総料理長兼副支配人を務めたのち、2024年に「ザ・キタノホテル東京」総料理長に就任した。

また、レストランのアドバイザーには、フランス料理の歴史的名店「ラ・ピラミッド」(ヴィエンヌ)のオーナーシェフであるパトリック・アンリルー氏が就任。両氏のタッグにより、正統なフランス料理の技術を基礎に、季節感や日本ならではの食材を組み合わせたメニューが、朝食・ランチ・ディナーで味わうことができる。

シアヌーク前国王が愛したコンソメスープや、彩り鮮やかな野菜のプレッセ

ディナーでは基本のコースが1つ(5品15,000円、ペアリング3品6,000円〜)あるほか、アラカルトメニューからお好みの料理を選べる。アラカルトの中でもシェフのシグネチャーともいえるのが「ラ・レジデンス」時代にカンボジアのシアヌーク前国王が好んで飲んでいたコンソメスープ「フォアグラのラヴィオリとライムを添えたコンソメ シアヌーク国王好み」2,600円だ。

「フォアグラのラヴィオリとライムを添えたコンソメ シアヌーク国王好み」

国産の牛骨や鶏ガラ、丸鶏、牛のスジでだしを取り、さらに鶏の骨を追加して煮込み、牛の赤身のスネ肉を中心にしたミンチを入れ3日がかりで作り上げている。スープには脂っぽさやくどさがなく、牛や鶏の澄んだうまみが出ている。カンボジアではスープにライムを搾って食べる文化があることから、お好みで数滴ライムを搾るのもおすすめだ。じんわりと酸味とほのかな苦みや渋みが口の中に広がり、スッと体になじむ滋養のスープになる。

スープの上に浮かぶのは、鴨のフォアグラをワンタンで包んだラビオリだ。これはシアヌーク殿下の提案がヒントになったという。ツルッとしたワンタンののど越しが心地よく、フォアグラのクリーミーで濃厚な味わいがコンソメスープに花を添える。付け合わせに添えた揚げ物も、カンボジア料理をアレンジしたもの。現地ではタロイモを使うところ、同店ではサトイモの細切れを衣にして、パンチェッタを包んで揚げた。ガリガリとした食感のクリスピーな揚げ物は、あとからサトイモと豚の甘さを感じ、コンソメスープとの対比も面白い。

「能登 高農園 有機野菜のプレッセ」

「ザ・キタノホテル東京」は世界各国からのゲストが多いことから、ヴィーガンメニューも展開している。その中でも特に存在感を放つのが「能登 高農園 有機野菜のプレッセ」3,100円だ。 ファインダイニング御用達の「NOTO 高農園」のオクラ、ブロッコリー、カリフラワーなどの有機野菜10種類を翡翠色のキャベツで包んでおり、しかもそれぞれの野菜に「NOTO 高農園」のレモンタイムとマジョラム、レモンで香り付けした瀬戸内産のオリーブオイルで下味をつけたうえで、異なる調理を施しているのだ。

例えば緑野菜は発色を良くするため茹でているが、パプリカは香ばしさをつけて味を濃縮させるためにローストしている。シイタケは炭火焼き。ナスは皮をむいてから灰汁を取り、オリーブオイルと塩とレモンタイムで味付けし、真空袋に入れてスチームコンベクションで蒸すという徹底ぶりだ。それぞれの野菜の食感や味わいが引き出されており、食べるたびにさまざまな野菜のハーモニーが広がる。添えてあるソースは、本来なら廃棄されてしまうセロリの葉を利活用したもの。セロリの葉、ヘーゼルナッツ、オリーブオイルを使いジェノベーゼのようなイメージで仕上げたというが、ジェノベーゼよりも爽やかで後味が軽やかな印象だ。

瀬戸内レモンを使ったリゾット、食後感も軽やかな和牛の炭火焼き

広島出身で「Ryokan尾道西山」で総料理長を務めた加茂シェフの料理には、瀬戸内の優れた食材がふんだんに用いられている。「瀬戸内塩レモンのリゾット」は、その代表的な料理だ。

「瀬戸内塩レモンのリゾット」2,800円

リゾットに使用する瀬戸内産のレモンは、火入れをしても香りが飛ばないように八角やブラックペッパー、シナモンスティック、クローブ、ローリエなどのスパイスやハーブと一緒に3カ月以上発酵させている。

お米は広島県と島根県で栽培されているという「越宝玉」という品種を使用。和菓子に使われることが多いお米で、一般的な日本米より少し大きく、モチモチした食感で、リゾットに仕上げたときにも味わいが豊かだという。

中国地方の塩レモンとお米を合わせ、パルミジャーノレッジャーノで乳化させ、カンボジア産の無農薬栽培の「クラタペッパー」とパルミジャーノレッジャーノを削りかけ、アマランサスをトッピングしたらリゾットの完成だ。 口に含むと、レモンの味と香りがほとばしる。塩レモンは酸味の角が取れて、まろやかな味わいで、パルミジャーノレッジャーノがレモンの味にコクを添えている。爽やかな柑橘系のニュアンスを感じる「クラタペッパー」も良いアクセントだ。

「岡山県岩本牛の炭火焼き」4,600円

「岡山県岩本牛の炭火焼き」も加茂シェフが「Ryokan尾道西山」時代に出合った牛肉を使った一品だ。ホルモン剤を使用せず、独自の餌で飼育している岩本牛は、赤身の味がしっかりと濃く、胃がもたれないという。牛肉にそこまで関心がなかった加茂シェフがその味に惚れ込み、少ない生産量の中、仕入れを許された貴重な銘柄牛だ。

備長炭の香りをまとった岩本牛のイチボ

取材日はイチボを使用。牛肉は52℃で低温調理をしてから、備長炭で炭の香りをまとわせた。そこに牛の切れ端やスジを炒めて臭みを取り、鶏のブイヨンや赤ワインを加えたジュを回しかけている。表面を備長炭で香ばしく焼かれた岩本牛は、赤身でありながらやわらかい肉質で、噛みしめても噛みしめてもうまみが染み出てきて、味の余韻が長い。「NOTO 高農園」の炭火焼き野菜からも、力強い大地の恵みを感じる。

「LʼOrangerie 光庵」ではコース料理に合わせて、アルコールのペアリングとノンアルコールのペアリングも展開。体に優しい加茂シェフの料理に合うよう、ソムリエが厳選したナチュラルワインを多く備えるほか、獺祭スパークリングなど日本のお酒も豊富に揃う。 取材中も朗らかな笑顔で、世界各地の生産者や食材、食文化や食にまつわるストーリーを語ってくれた加茂シェフ。その優しい人柄が反映された料理は、日本人の舌にも身体にも優しく寄り添う。

※価格はすべて税込、サービス料(15%)別

撮影:佐藤潮

文:中森りほ、食べログマガジン編集部