
〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
訪れたのは中目黒にある秋山具義さん行きつけのそば屋「驀仙坊(ばくざんぼう)」。そば本来の豊かな風味や食感が評判の人気店であるが、意外にも秋山さんの推しは「納豆蕎麦」だという。これまでメディアではクローズアップされていなかった隠れた名物、そのおいしさやいかに!?
教えてくれる人

秋山具義
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。広告代理店I&S(現 I&S BBDO)を経て、1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、写真集、CDジャケット、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。著書に「世界はデザインでできている」がある。2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」にランチのスペシャリストとして出演している。
そば道をまっしぐらに突き進む!? 食通たちに愛され続けるそば処

「驀仙坊」と言えば、中目黒界隈では知る人ぞ知るそばの名店。看板に掲げられた「驀」の字は、まっしぐらに突き進むという意味を持ち、「仙」や「坊」の境地に至るまでそば道を究める、といった解釈もできるが「自分の名前にある馬の字が付く漢字を選び、あとは語感と勢いで名付けたので、そんなに深い意味はないんです」と店主の馬場淳一郎さんは笑う。

求道者的な店名から寡黙な職人を想像していたが、馬場さんは説明上手で非常に物腰柔らか。その人柄が反映されてか店内の居心地も良く、昼間からそば前で一杯飲むにも丁度よい雰囲気。ランチタイムはいつも席が埋まっているものの、通し営業なのでピークを外せば待ち時間なく入店できるのも魅力だ。

そばがおいしい店は揚げ物のクオリティも高いもの。例えば、ピンと背筋の伸びた車海老の表面側にだけ、細かな衣が逆立っているのは「花揚げ」という技法。天そばや天丼にする際に天つゆが染み込みやすいうえ、時間が経ってもサクッとした食感を残すこともできる。
上質な枯宗田節に鯖節を加えることでバランスを整えた天つゆと味わうも良し、フランス産ゲランドの塩で素材の味を楽しむも良し。そばへの期待をより高めてくれる、そば前に適した一皿だ。


秋山さん
最初に行ったのは、中目黒に住み始めてしばらくした2000年代前半だと思います。おいしいもの好きのレジェンド芸人が常連という噂も納得のそばのおいしさに魅了されました。冷水でキリッとしめられたそばは、コシがあってのどごしも素晴らしいです。
玄そばの挽きぐるみで食感を出すには、育ちの良い実の粘りが必須!

扱うのは、たんぱく質が豊富な粘りのあるそばの実だけ。この粘りが強くなければ、独特のコシやのどごしは生まれない。今シーズンは青森県十和田産の階上早生という在来品種を使用しているそうだ。

いつでもひきたてのそば粉が使える環境だが、馬場さんはあえて数日寝かせて空気を抜くという。この工程を挟むことで水回し(粉に加水する作業)の際に、生地と水が適度に馴染み、最低限のつなぎでも切れにくいそばとなる。

非常に大きな鍋を使用しているが、一度に茹でる量は最大でも8人前まで。湯量は多く麺量は少なく茹でるのもおいしさの秘訣だ。沸騰する流れに乗せてそばをちらせば、より均等に火を通すことができるそう。

インタビュー中は柔らかい目つきだった馬場さん。そばを茹で始めてからの眼光は鋭く、洗練された所作は求道者そのもの。そばに関する知識も豊富であり、店名こそ勢いで名付けたというが、そば道を究めんとする姿勢は随所から伝わってきた。
