2004年にオープンし芸能人やセレブがプライベートで訪れるほど人気を博しながら惜しまれつつも閉店した「ポ・ブイユ」が、フランス料理をベースとしたノンジャンル料理を提供する店として今年3月、広尾にリブランドオープンしました。店名にプラスされた“HIROO STAND”の文字も気になる!

恵比寿から広尾へ! 食通の大人たちが集う「ポ・ブイユ」がリブランドオープン!

店名に“HIROO STAND”の文字が新たに加わった!

2004年、恵比寿にオープンした「ポ・ブイユ」は「ラ・ビスボッチャ」「オー・バカナル」「モレスク」など次々と人気店を世に送り出した飲食業界の重鎮、福島直樹さんが手がけたお店です。恵比寿のわかりづらい場所にありながら連日大盛況。芸能人やセレブからも人気の的だった東京を代表するビストロでしたが惜しまれつつも2018年に閉店。ところが5年の月日が過ぎた今年の春「名店復活!」のニュースが巷に飛び交ったのです。

うっかりすると通り過ぎてしまうほどひっそりした佇まい

その噂を聞きつけた「ポ・ブイユ」ファンをはじめ、食通の大人たちが我先にと訪れ、早くも賑わいをみせています。恵比寿の時は隠れ家と言われていた「ポ・ブイユ」。広尾に移って大通りに面しているものの、目立つ看板はなく窓はブラインドでガードされ、秘密めいた店であることに変わりはありません。こういうところも大人のハートをくすぐるのです。

障子の向こうに個室があります

以前はテーブル席がメインのパリのビストロ風な内装でしたが、こちらはジャンルレスな料理をイメージするレンガがあれば障子もある和洋折衷。メインのカウンターは奥行きが80cmと広く、内側に椅子を置いて向かい合わせに座ればグループで楽しめます。プライベートな食事には奥にある4人までの個室が便利。また角にはスタンディング席が設置され、「行きたい!」と思ったらふらりと訪れることが可能に。なるほど、ロゴにプラスされた“HIROO STAND”の意味はここにありました。

ワイン以外にもウイスキー、日本酒、焼酎、スピリッツなどが揃います

店内はアースカラーの壁にダークブラウンのカウンターといったシックな色を基調としています。照明を落としたグッと大人な雰囲気の空間はバー使いもしたくなります。

全制覇したくなる料理がずらり

場所も内装も変わりましたがいちばん変わったのは料理でしょう。フレンチ、イタリアン、和食、中華にアジアなど世界の料理がミックスされた“何でもあり!”なメニューは想像しただけでお腹が空いてきます。

ひとりで厨房に立つ與那覇 実シェフ

シェフは30年間福島さんと仕事をしているという與那覇 実さん。18歳からフランス料理の世界に入り、代官山「シュシュ」、青山「ロアラブッシュ」、六本木「ブラッスリー ル・デュック」などで研鑽を積みました。白金高輪「酒肆SHIROKANE」ではこちらの前身とも言えるジャンルレスな料理で外食経験値の高い大人たちの舌を魅了し、今年3月「ポ・ブイユ」のシェフとなりました。では與那覇さんのオリジナリティあふれる料理をいくつかご紹介しましょう。

ジャンルを超えた自由で遊び心のある料理

「玉子焼き アラビアータソース」(1,200円)

「酒肆SHIROKANE」でも大人気だった「玉子焼き アラビアータソース」はこちらでも提供しています。

トマトソースの酸味と甘さが利いている

オムレツのような玉子焼きは時間が経ってもふわっふわでとろとろ。秘密は少しだけ水を加えることだそう。

甘みの強いミニトマトを使います

実はこのメニュー、フレッシュトマトが嫌いな與那覇さんが、トマトソースならトマトをおいしく食べられるからと作ったそう。イタリア産唐辛子ならではのマイルドな辛さがこの玉子焼きにピッタリです。

「ポテトサラダ半熟卵」(1,200円)

定番の「ポテトサラダ」はビストロ料理の「ウフマヨネーズ」と和食の「ポテトサラダ」を組み合わせて新感覚に! 茹でたジャガイモにベーコンとトマトとタマネギでシンプルなポテトサラダを作り、半熟卵をのせたら生クリームを入れたリッチテイストのマヨネーズソースを上からたっぷりと。最後にオリーブオイルを回しかけ、豊かな香りをまとわせます。

ナイフを入れると中から卵黄がとろ〜り

この皿のおもしろいのは卵をポテトサラダと混ぜて完成させること。半分にカットして半熟卵として食べるのもよし、細かくして一体化させるのもよし、自分好みのポテトサラダができあがります。厚切りベーコンのゴロゴロした食感と、噛めばジュワッと溢れ出す脂のうまみも重要なアクセント。これは“ポテサラファン”ならずとも食べたくなります。

モロッコ風揚げ春巻き「ブリワット」(1pcs 500円)

エスニック料理も與那覇さんの得意とするところ。羊のひき肉とスパイシーな香りが魅力の「ブリワット」、モロッコでは「イルワルカ」という薄い皮を使うそうですが春巻きの皮でアレンジ。脂の少ない羊肉にはジャガイモをつなぎに使い、しっとりとした餡に仕上げています。

「シイタケタルトフランベ」(1,200円)

仏アルザス地方の名物料理「タルトフランベ」は小麦粉で作った薄い生地にフロマージュブランというチーズを塗りタマネギとベーコンをのせてパリッパリに焼くのがポピュラーなレシピ。タマネギとフロマージュブランを使うところは本場と同じですが、具材に椎茸を使い和のテイストにチェンジ。うまみがグッと増し、本家本元に勝るとも劣らない味わいです。

ワインにもビールにも合う!

炒めたタマネギから甘みが十分に引き出され、椎茸から出るうまみとともに口の中でじんわりと広がります。椎茸は薄くスライスしているので和食感が強すぎず食感も絶妙! 生地にはインド料理の「ナン」を使い、手で持てるのもいい! まさに“與那覇ワールド”を象徴するひと皿です。

訪れるごとに楽しさが増す!

「食べたいものは何でも作ります!」と頼もしい

與那覇さんの料理には見た目で何かわかるけれど、ひと工夫もふた工夫もされたおいしい驚きがあります。こうあるべきと決めつけることがないから、自由で遊び心のある料理ができる。それでいて味のバランス、食感がいい塩梅で、いつまでも食べていられるのは40年のキャリアを持つ與那覇さんならではの“料理センス”によるもの。「メニューにないものも作りますよ」というライブ感も食を楽しむ大人には魅力的です。

恵比寿から受け継いだポスター

ここは與那覇さんとサービスを担当する池田 陽さん、そして居合わせた人たちでおいしくて楽しい時間を作っています。ただし自由を楽しむには節度が必要であることをお忘れなく。訪れるほどに絆が深まり口福度も増していく……、行きつけにしたい店が広尾に誕生しました。

※価格は全て税込

文:高橋綾子、食べログマガジン編集部
撮影:溝口智彦