〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回訪れたのは、ライター・大石智子さんがおすすめする「馬子禄 牛肉面」。一度食べたら虜になる、中国蘭州ラーメンの味を紹介します。

教えてくれる人

大石智子

出版社勤務後、フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。バー巡りも欠かさない。スペインに行く頻度が高く、南米も好き。拠点は東京だが地元静岡にも毎月滞在し、主に中部エリアを食べ歩く。柴犬愛好家。Instagram(@tomoko.oishi)

神田神保町に中国人客4割という牛肉面の名店があった!

立地は神保町駅から徒歩1分の靖国通り沿い。「蘭州拉麺」という縦看板に中華好きは目を奪われるはず。そして「馬子禄 牛肉面」と大きく掲げられた店名を見たら、筋金入りは小躍りしてしまうだろう。ここは知る人ぞ知る老舗蘭州ラーメンの暖簾分けとなる店。看板が旨いと物語っているのだ。

「ガチ中華」にしてコンサバな店構えなので誰でも入りやすい
蘭州はシルクロードの入口であるため、壁にはシルクロードやムスリムを写した写真が飾られている
 

大石さん

看板の上には“清真”と大きく書かれています。それは中国でハラルを意味する言葉で、ハラルに則った料理は“清真料理”と呼ばれるそうです。なので、このお店の立ち位置が一目で分かる。中は若い女性ひとりでも入りやすい綺麗な空間で、ハラルというピンポイントなニーズがありながら幅広い層に合ったお店です。

一度食べたら虜になる、蘭州ラーメンとは?

日本でも昨今人気を集めている蘭州ラーメン。それは中国北西部蘭州発祥のハラル麺料理で、現地では牛肉麺(ニュウロウミエン)と呼ばれている。ムスリムが多く住む地ゆえ豚は一切使われず、牛を使用。多種の漢方と牛骨牛肉から作ったスープに、小麦と塩、水、かん水で打った麺が入る。細麺から太麺、平麺まで、麺の種類は多様だ。

さらに蘭州ラーメンには明確な基準があり、それは「一清二白三紅四緑五黄」であること。分解すると下記のようになる。

一清=透き通ったスープ
二白=白い大根
三紅=赤い辣椒
四緑=緑のパクチーと葉ニンニク
五黄=黄金色の麺

5つの色が器に入っていることで蘭州ラーメンとみなされる。その老舗として100年以上現地で愛されているのが「馬子禄 牛肉面」であり、中国以外で初の暖簾分けとして神保町店が2017年夏に開業した。瞬く間にリピーターを集め、同店は蘭州ラーメンブームの火付け役となった。

5色の素材が混じった香りもたまらない。「馬子禄 牛肉面」で9種ある麺のうちこれは幅広平麺「寛(クワン)」

100年以上続く味を日本で広めたいと、蘭州で弟子入りした日本人

「馬子禄 牛肉面」を神保町に上陸させたのは清野 烈さん。高校卒業後、北京の大学に進学した清野さんは、留学中に蘭州ラーメンに出会った。味わい深さと食後感の軽さに魅了されたが、帰国すると同じ味は見つからなかった。

「自分が日本で広めたいとなった時、どうせなら蘭州で食ベて一番おいしいと思った店の味をそのまま伝えたいと思いました。蘭州には蘭州ラーメンの店が2000店舗ぐらいあって、讃岐うどんのようにブランドになっています。その中で色々試して食べ慣れてくると、辣油が辛かったりスパイスが強かったりして、しっくりきませんでした。それが、馬子禄はスープがすごく綺麗でコクもあって、日常的に食べたい感じだったんです」(清野さん)

かくして3代目となる現社長に直談判。秘伝の味を見知らぬ日本人にすぐ教えるわけにいかなかったが、通い詰めた清野さんは日本での開業を許された。そして、実店舗での修業を経て、老舗のレシピを受け継ぐ店をスタートさせた。

他のスタッフにも清野さんが麺の打ち方を伝授した

老舗の証。中国政府認定の称号とは?

入口の壁には「中華老字号(ジョンファ・ラオズハオ)」と書かれたボードが掲げられている。それは中国政府が老舗と認めた企業だけがもつ称号。「馬子禄 牛肉面」は蘭州ラーメンの店で唯一「中華老字号」に認定された店だ。

馬子禄とは100年前にこの店を始めた創設者の名前。現在は孫となる3代目が代表を務める。本店は朝6時頃から店を開け、昼の2時には営業終了。売り切れ御免、昼に閉まる店が蘭州ラーメンではおいしいとされている。

「中華老字号」の下には「中華人民共和国商務部」と記されている