【流行るお店はココが違う!】

行列のできるお店や予約の取れないお店など、世の中には流行るお店が存在しています。その一方で流行らないお店があることも確か。“美味しい”のに、“オシャレ”なのに、なぜかいまいちと感じてしまうお店も……。

 

ということは、味や見た目だけではない、他の理由が人気店にはきっと隠されているのではないでしょうか? そして、その理由を知ることができれば、レストラン選びでもっと賢い選択ができるようになるはず!

 

人気店ならではの特徴とはいったい何か。日々流行る店を探し続けているマーケターの舟本 恵氏に教えてもらいましょう!

 

◆プロフィール

舟本 恵(ふなもと けい) 1977年11月9日京都生まれ。大阪在住。マーケター。JR西日本SC開発(株) 業態開発室 室長。大阪のファッションビルで店舗の誘致を担当、アパレルから飲食・食品まで、ジャンルを問わず流行る店舗を探す日々を送る。これまでに数々の人気店を発掘、手掛けたバルゾーンは、今や行列の絶えない大阪のホットスポットに。肉をこよなく愛し、焼肉には一家言あり。

Vol.1 流行るお店のコストパフォーマンスを考える(前編)

本当の意味のコストパフォーマンスとは

「コスパ」という言葉が、日々SNSを伝って全国各地で発信されています。コストパフォーマンスを日本語に訳すと「費用対効果」。消費者が支出した費用に対し、得られた満足度の割合を意味します。

 

このことから、飲食店がコスパを高めるアプローチは、

 

①「消費者の支出を下げる(=商品価格を下げる)」

②「消費者の満足度を高める」

 

の2つになります。

 

①について

「消費者の支出を下げる(=商品価格を下げる)」場合、まず考えられるのは単純な安売り・価格訴求です。

しかしこれは、飲食ビジネスとしての持続可能性を考えると、得策ではありません。“持続可能な飲食ビジネス”の実現には、新規メニュー開発への投資や、優秀なスタッフの採用が必須です。そのための利益を確保するには、削減可能なコストを見いだし、その削減分を原価へ充当するのが妥当と思われます。そのやり方としては例えば、賃料の安い場所で店を開くなどが挙げられます。

 

 

②について

「消費者の満足度を高めよう」とする場合に考えられるのは以下のような要素です。

・細部まで洗練された内装デザイン

・最先端で高性能な厨房機器

・匠の技で作り上げられた食器類

・自由にコントロールできる物流網

・十分なスタッフ数

など、その選択肢は数多くありますが、高い商品原価率を維持しながらこれらを実現することは極めて困難です。

 

では、消費者の満足度を高める仕組みとして、流行るお店には何が備わっているのか?

それは「財務諸表には記載されない資産」だと考えます。

Check point! 流行る店の“ココ”が違う

「財務諸表には記載されない資産」の一例として、「仕入れの仕組み」があります。特に飲食業では、仕入れ先との関係性の構築が非常に重要です。

それは、一般的な工業製品とは異なり、食材の一つ一つは、それぞれがこの世に一つしかないものだからです。極端に言うと、どれだけお金を出したとしても、仕入れることができない食材が数多く存在します。

Case 1「西九条 安兵衛」大阪・西九条

良質な肉を食べられる人気店

大阪環状線の西九条駅の近くに、「西九条 安兵衛」という焼肉屋さんがあります。ここのお肉は鮮度が高く、かつ、とても良質。

 

西九条 安兵衛における「財務諸表に記載されない資産」とは、約50年掛けて培われた仕入れ先との良好な関係にあります。時には売上が悪く、新たに仕入れる必要がない日でも、50年間、毎日、毎日、途切れることなく仕入れ続けてきたことで、お店と仕入れ先との絶大な信頼関係を構築。希少価値の高い良質なお肉を、優先的に卸してもらえているのです。

 

ご利用の際は、必ずハラミ(1,300円)を注文することをお勧めします。口の中でほぐれる柔らかさと、甘みのある深い美味しさ。他の焼肉屋との差を感じることができる、西九条 安兵衛の代表的な一品です。

 

Case 2「肉割烹 かがやき」東京・銀座一丁目

推定原価率50%超を実現する、三拍子そろった名店

銀座一丁目に店を構える「肉割烹 かがやき」。お店は2階建てで、1階はカウンターのみ10席。10,000円のコース料理が基本で、完全予約制です。決して安くはありませんが、素晴らしい料理を数え切れないほどの品数で提供します。

 

希少価値の高い日本酒が飲み放題なうえ、予約時に相談すれば、料理の内容や量に対する要望にも柔軟に対応してくれます。商品原価率は、50%を軽く超えているのではないでしょうか。

こちらの「財務諸表に記載されない資産」もまた、仕入れの仕組みにあります。発祥が徳島のステーキハウスであることから、お肉の仕入れ先との関係性も良好なうえ、大将のご実家が三重で漁師をしているので、鮮度の高い魚介類が安価で手に入る仕組みが構築されています。

 

そのため、肉割烹でありながら、新鮮で良質な魚料理も提供可能に。加えて、希少価値の高い日本酒をそろえることができる、酒蔵との強いネットワークも脱帽ものです。

 

 

高いコストパフォーマンスの実現は新たな価値の創造にある

このように、“流行るお店”における高いコストパフォーマンスとは、ダンピングや消耗戦のような、「利益」と「費用」の限られたパイの単純な奪い合いから導き出されるものではありません。如何にパイそのものを大きくするか、すなわち「新たな価値の創造」にあります。

 

今回は、この「新たな価値の創造」を、お店と仕入れ先との関係性の観点からご紹介しました。皆さまも、お店を選ぶとき、お店の「財務諸表に記載されない資産」がどこにあるのか、意識されてみては如何でしょうか。