〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回訪れたのは、食べロググルメ著名人・柏原光太郎さんがおすすめするそば店「勝どき よし田」。名店仕込みの技が光る3つのそばを紹介しよう。

教えてくれる人

柏原光太郎

日本ガストロノミー協会会長。大学卒業後、出版社に勤務し、グルメ本を手がけたことで食の奥深さに目覚める。料理は作ることも食べることも大好きで、一人娘の弁当を毎日作っていたことも。料理好きのための食の発信基地としての役割を担うべく2017年12月社団法人「日本ガストロノミー協会」を設立。

有名店で研鑽を積み満を持して開店

国内の高級鮮魚が集結する豊洲市場や月島もんじゃストリートのそばにある、下町情緒漂う「勝どき」。「勝どき よし田」は、「勝どき駅」に直結する便利なビルの2階にある。和が香る引き戸を引くと迎える和モダンの空間には、ヒノキの一枚板の重厚なカウンターとテーブルが配され、くつろぎのひと時を演出する。

ベージュを基調とした、割烹料亭風のしっとりとした佇まい
テーブルに合わせたモダンな椅子は座り心地も抜群
壁には、作家・伊集院静さんや漫画家・ちばてつやさんが描いた絵などが飾られている

2019年にオープン以来、食通をうならせているのは、当然そのクオリティの高さにある。店主・秦さんの修業先は、惜しまれながら閉店したそばの名店「一番町吉田」、著名人が足繁く通う神楽坂の「お座敷天ぷら 天孝」なのだ。会得した技に秦さんの独自の感性を加えたそばと本格和食を同時に堪能できるとは、うれしいかぎりだ。

 

柏原さん

「勝どき よし田」は今はなき「一番町吉田」の暖簾分けですが、「一番町吉田」には頻繁に通っていたため、味をよく知っています。「勝どき よし田」の「鴨南そば」も良質の合鴨肉を使用していて、負けず劣らず本当においしい。

これまで学んだ料理の哲学を礎に渾身の力を注いで調理

要のそばは、北海道幌加内産の挽きぐるみのそば粉を使用。実を丸ごと挽いた挽きぐるみを用いることで、通常に比べて味や香りが強いそばを味わえるのが特徴だ。しかもよりそばのおいしさを出すため、ゆで時間は40秒とこだわり、サッと水で締める。「これにより風味に加えて、冷でも温でもこしと歯ごたえを兼ね備えたそばに仕上がるんです」(秦さん)。

さらにつゆは、北海道利尻産の昆布や厳選した鰹節で取ったダシに返しを入れて半日寝かせることで、素材の旨味がたっぷり詰まった上品な甘辛味を生み出している。

配合は、小麦粉1に対してそば粉10の外一。ゆで時間にも注意を払うことでそばの弾力も出す
洗う工程は温かいそばも同様。水で締めた後に湯通しすることで、つゆの温度が下がらないよう工夫している
 

柏原さん

そば粉の香りがしっかりと立っていて、温・冷どちらにも合います。

「一番町吉田」に通っていた客も絶賛の「鴨南そば」

柏原さんが特におすすめする“推し麺”は、3つのそばだ。まずは「一番町吉田」の味と技を引き継ぐ「鴨南そば」(ランチ1,800円)。

「合鴨肉は食べ比べた結果、やわらかくて肉本来の旨味を備える岩手県の花畑ファームのものを選びました」(秦さん)。1cmの厚さに切り、ゆでても身が縮まないよう脂身部分に細かく包丁を入れるが、徹底ぶりはそれだけではない。つゆに合鴨肉の灰汁が出ないよう、吉野葛をまぶして下ゆでする手のかけようだ。

合鴨肉は一切臭みがなく、脂の滋味が程よく染み出たつゆとこしのあるそばとのからみ合いも絶妙。すすったそばは合鴨肉の香りとともにふわりと喉元へ落ちていき、長く余韻が残る。

合鴨肉を口に運べばすっと噛めるほど肉質がやわらかく、本来の旨味がじんわりと広がる
秦さんは妥協せずに合鴨肉の一枚一枚に細かく包丁を入れる。この作業がおいしさを生む
くたくたに煮たネギが甘く、添えられたゆずの香りが鼻孔をくすぐる
 

柏原さん

何より鴨がおいしい。ネギとのバランスもよく、一切れ添えられたゆずの香りが利いている。つゆは醤油が前に出過ぎず、合鴨肉自体の脂の美味がしっかりと溶け込み、渾然一体となったおいしさになっている。