クセになる自家製発酵白菜を使った料理や、白米との相性を追求した麻婆豆腐

同店の料理の中でも森脇さんが愛するのが、自家製の「酸菜」を使った料理。酸菜とは、発酵させた白菜のことで、冬場に野菜が取れない中国東北部において冬季用の漬物として重宝されてきた食材だ。

「酸菜と羊肉の鍋」

月居 赤坂では、秋から冬にかけてはこの酸菜を使った料理として「酸菜と羊肉の鍋」が提供されることがある。2週間程度発酵させた発酵白菜を炒めて紹興酒を加え、鶏と豚のガラから取る毛湯(マオタン)スープと、別で2〜3時間炊いておいた羊のスペアリブ(骨付きバラ肉)を加え、強火で30分ほど煮込む。最後に唐辛子やネギを振りかけて完成だ。

酸菜は毛湯スープなどと煮込むことで酸味の角が取れ、白菜のうま味を伴う酸っぱさが、どこか野性味を感じる羊の脂を印象深い後味へと変えてくれる。素材のうま味と栄養が溶け出した滋養豊富なスープは、コショウもたっぷり使用しているからか、体の芯からポカポカと温まる一品だ。

 

森脇さん

酸菜の酸っぱさがクセになります。特に羊や豚の脂との相性はばっちり。乳酸発酵の酸味が脂っこさを緩和してくれます。

さらに残ったスープには、平打ち麺を加えてくれるサービスもある。水と小麦粉だけで作り上げたかなり太めの平打ち手延べ麺は、サッと30秒ほどゆでただけのアルデンテな仕上がり。ザラッとした麺の表面にとろみを帯びたスープが絡み、小麦粉のもっちり感やシンプルな仕立てが、中国の家庭料理を思わせる。麺料理は季節や、客のニーズに応じて様々な形で提供されるが、麺を割いて仕上げるジャージャー麺も秀逸だと森脇さんは言う。

 

森脇さん

特に手打ち麺で作るジャージャー麺は、他では見ないスタイルです。

おまかせコースでは基本的にシェフのその日のおすすめが登場するが「今日の締めは麻婆豆腐がいい」という声があればニーズにも応えている。

「麻婆豆腐」

麻婆豆腐はオーソドックスな作り方だが、ピーシェン豆板醤と家常豆板醤をブレンドして油で炒め、ひいた唐辛子と八角、ラー油や山椒油を合わせて仕上げる。たっぷりの花椒をトッピングしており、口に含んだ時の痺れが鮮烈だ。そして特筆すべきは木綿豆腐ではなく、絹豆腐を使っていること。麻婆豆腐単体としてのおいしさだけでなく、白米と合わせた時の口溶けの良さやおいしさで絹豆腐を選んでいるのだ。

 

森脇さん

ご飯が進むといえば麻婆豆腐も然り。木綿豆腐ではなく絹豆腐を使っているので、さらにご飯に馴染みやすい。本場さながらの辛さから食べやすい辛味までゲストに合わせて調整してくれます。

四川から湖南、広東や北京、上海まで、中国各地のバリエーション豊かな料理を、旬の和食材を使って変幻自在に生み出す船倉シェフ。中華の基礎がありつつ、新たなジャンルの中国料理にも挑戦しているため、モダンに感じる面もありながらも、地に足のついた実直な料理が魅力だ。「この名物料理を食べたい」というよりは、シェフに一任にして月替わりのショーを楽しむようなスタンスで訪れると、食体験の幅が広がるだろう。

※価格は税込、サービス料(10%)別

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影:大谷次郎

文:中森りほ、食べログマガジン編集部