おつまみの海苔巻きは修業先の一品をアレンジ

今回は盛りだくさんのコースの中から店主のおすすめと、山本さんのお気に入りを紹介する。

まずは、コースの序盤で登場するおつまみ、アジの海苔巻きから
 

山本さん

ご主人の小池さんはすし匠で修行されていたこともあって、つまみも充実。そこもまた楽しいポイントでした!

「すし匠」でもおなじみのイワシの巻物を「波良」ではアジで用意。塩と酢でしめたアジの上にすりごまをふり、大葉、細かく刻んだ沢庵漬け、繊維に沿って千切りにしたミョウガをのせて巻き、カット。断面の美しさにも目を奪われる。

修業先のおつまみを、小池さんがおいしいと感じる食材で表現した

ほんのり酢っぱくジューシーなアジに、ザクザク、シャキシャキとした食感の豊かな香味が一つになり、佐賀有明海から届いた海苔が香ばしいうま味を添える。修業先とまったく同じではなく、自分なりに解釈してつくるという小池さんの腕前を見事に発揮した一品だ。

地元・相模湾で取れた地魚もお目見え

逗子の面する相模湾は日本三大深湾に数えられるほど深い海域が広がり、遠方まで船を出さずとも30~40分ほどの近海で魚が豊富に取れることで知られている。そんな土地の利を活かし「波良」では三浦半島の長井・佐島を中心に水揚げされた地魚をコースの中に3~4品ほど組み込む。

 

山本さん

ローカルの素材も活かしながら丁寧で洗練されたお寿司で、また来たいなと思いました。

この日は相模湾から獲れたカマス、アカハタ、そして巨大なアワビが入荷
熟成されたアカハタの握りは、煮切り醤油と軽く絞ったスダチでいただく

上品な脂の甘みをまとったアカハタは噛むほどに染み出るうま味としっとりコリコリの分厚い食感を楽しみたい。「何を食べているのかしっかりと感じてほしい」という小池さんが、アカハタの身を惜しみなく切り出して握ってくれるのもうれしいところだ。

「波良」では赤酢と白酢を混ぜてできるブラウン色の酢飯を使う。酸味はマイルドになり、寿司タネのよさを引き出す

食べ比べてこそ魅力が際立つ2種のウニ

「波良」のコースではウニが2度登場する。この日は岩手三陸のムラサキウニと佐賀唐津の赤ウニの2種を海苔巻きと握りでいただいた。

ムラサキウニの海苔巻きは舌にのせると淡い甘みとうま味を残しながらやわらかに溶けていく。ウニ、酢飯、海苔が同化する繊細な口あたりにも驚く。序盤で登場したアジの海苔巻きとは違う海苔を使用するのもこだわりの見せどころ。ウニの海苔巻きで使う海苔は、小池さんが旅先で訪れた宮城石巻の寿司店で見つけた。

ウニの儚い味わいにも存分に浸れる海苔巻き
こぼれ落ちそうなほどどっさりとのった赤ウニ。貴重な食材が「波良」に集まるのは仲買さんとの信頼関係を築いているから

漁獲量が少なく、九州からはほとんど出回らないという赤ウニは、ビターな風味を帯びた濃厚な甘みがたまらない。1度のコースでウニを2度もいただけるのはちょっとしたサプライズだろう。小池さんは「食べ比べたらなおさらウニのおいしさがわかるでしょう?」と笑う。

絶品の寿司と誠意のこもったおもてなしで予約困難店に

海を愛し、魚のおいしさを究めてきた小池さん。美味なる寿司を客と共有することに心からよろこびを感じているようだ。「おいしいなと思っていただけたお客さんにはぜひまた来てほしいので、一見さんにも話しかけますよ」と、細やかな気づかいも欠かさない。

さっぱりと誠実な人柄と時折見せるユーモアがお客さんの心をつかむ

「修業先で学んできたことは江戸前寿司の技術だけではありません。人間性を磨くことも大切だと教えられてきました。お客さんの前に立つ仕事だからこそ、人として大切なことは忘れてはいけないなと思います」

2022年9月現在、半年先まで予約がいっぱいとなった「波良」。どれだけ待ったとしてもまた訪れたくなる理由を垣間見た。

※価格はすべて税込。

※本記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています。

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撮影:岡村智明
文:宇野美香子(フリート)