〈食いしん坊が集う店〉

食べることが好きで好きで、四六時中食べ物のことを考えてしまう、愛すべき「食いしん坊」たち。おいしいものが食べたければ彼らに聞くのが間違いなし! お気に入りの“とっておきのお店”を教えてもらった。

教えてくれる人

山本憲資

Sumally Founder&CEO。1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、自ら起業、現在に至る。スマホ収納サービス『サマリーポケット』が好評。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

喧騒から離れて客人を迎える空間は店主のこだわりで満たされる

逗子の駅前から延びる逗子銀座商店街の通りを海岸方面へ歩き、神奈川県道311号とぶつかるところを鎌倉方面へ。人と車が行き交う賑やかな街並みから静かな住宅街へと入り込む小道を行くと、飲食店が集まった小さなビルがポツンと佇んでいる。敷地に足を踏み入れれば「すし 波良(なら)」の提灯のあかりが見えてくる。

 

山本さん

湘南の海を感じる雰囲気の少し奥まったロケーションも素晴らしいですね。

控えめなつくりが好奇心をくすぐる

「波良」は2019年のオープンからすぐに逗子・鎌倉・葉山エリアの美食家たちから注目を集め、その噂が広がった現在は神奈川県外からのお客さんも訪れるという。

 

山本さん

湘南在住の知人が予約をしていて、誘ってくれたのが初訪問のきっかけでした。

「波良」の店主は寿司の名店「すし匠」系列で修業を積んだ小池彰範さん。「故郷のような海のそばで店を構えたい」という思いでこの地で暖簾を掲げた。生まれ育った家は海のすぐ横、10代の頃からサーフィンを趣味としてきた。「波良」という少し変わったお店の名前をつけたのもサーフィンを愛するがゆえのことだ。

1981年生まれの小池さん。ご出身は秋田県由利本荘市。独立前から逗子がお気に入りだった

「寿司を握るライブ感を大事にしたい」と、カウンターとお客さんが座るテーブルは同じ目線にしつらえてある。小池さんは高校時代、建築学科に籍を置いていたとのことで、このお店の図面も自ら引いたそうだ。

無垢一枚板のカウンター6席のみの潔さに心が洗われる

お店の奥には葉山在住の写真家・横山泰介さんの作品が飾られている。稲村ケ崎の波をとらえた一枚は小池さんのお気に入り。伝統を重んじる江戸前の寿司職人でありながら小池さんの自由なセンスが息づく空間となっている。

「器も好きですね。作家さんには自分から会いに行ってしまいます」。小池さんが敬愛する笠間焼の作家・平岡仁さんの作品も見どころだ

名店「すし匠」の系譜を受け継ぐコースをリーズナブルな価格でいただく

もともと海鮮を扱う地元の飲食店で働いていたという小池さん。どうせならその頂点を目指したいと思うようになり、寿司職人の道へ入ることを決意する。そこで秋田県秋田市にある「秋田すし匠」の扉を叩いたことで、小池氏の運命は大きく動くことになった。「秋田すし匠」の店主から上京をすすめられたのだ。

「秋田すし匠」は日本を代表する寿司職人と称される中澤圭二さんが創業した四谷「すし匠」の暖簾分け。そのご縁もあり、小池さんは同系列店で修業を重ねていった。「すし匠 齋藤」「すし匠まさ」「すし岩瀬」といった名店で10年ほど腕を磨き「不動前 すし 岩澤」を経て独立を果たす。

「波良」のお品書きは2万円のおまかせコースのみ。修業先のスタイルを受け継ぎつつ、小池さんの好みもあり、おつまみ1品と握り3〜4品を交互に提供するスタイルに落ち着いた。およそ15貫の握りと、10品ほどのつまみで構成し、お酒とともに堪能できるボリュームたっぷりの内容となっている。

 

山本さん

都内だとすし匠仕込みのこの内容のおまかせを2万円ではまず食べられないと思います。