【食を制す者、ビジネスを制す】
ハンバーガーで始まった安倍・トランプの首脳会談
11月5日から7日にかけてトランプ米大統領が来日した。もともと彼は生き馬の目を抜くニューヨークの不動産市場で生き残ってきた名うてのビジネスマンだけあって、政治の交渉現場においても“ディール”を重視する傾向にあると外交専門家から分析されてきた。
それだけに各国のリーダーはトランプ大統領とどのように関係をつくるのかに腐心している。日本も例外ではなく、安倍首相は初めて会うときから、用意周到にトランプ大統領をプロファイリングすることで、どうすればトランプ大統領に好かれるのかということに細心の注意を払ってきたという。
今回のトランプ大統領の訪日でも、それが垣間見られた。来日早々、訪れたのは名門ゴルフ場の霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)。トランプ大統領は一緒にゴルフをすることで、その人がパートナーとして信用できるかどうかを判断するらしい。実際、その評価を少しでも高めようと、トランプ大統領の要望で松山英樹プロに参加要請し、同ゴルフ場のコースの一部を、トランプ大統領の友人が改修・設計したことを紹介することも忘れなかった。
クラブハウスでは首脳同士のランチに珍しくハンバーガーが供された。それも単なるハンバーガーではない。こちらも念入りに選ばれたものだった。それが港区芝公園にあるハンバーガー店「マンチズバーガーシャック」の「コルビージャックチーズバーガー」(1,200円)で、シェフが出張してつくったという。
首脳会談で使われる名物の飲食店とは?
続いて夜のディナーは高級鉄板料理店の「銀座うかい亭」で開かれた。食事はコース料理で、伊勢海老のソテーや和牛極上ステーキなどが供されたという。トランプ大統領は事前に「和食」はNGで、「肉」をリクエストしていたために、ランチもディナーも肉尽くしとなった。トランプ大統領の好みの肉の焼き方はウェルダンだという。ちなみにこの店はTVドラマ「ドクターX」のロケでも使用されている。
翌日6日は東京・元赤坂の迎賓館でワーキングランチ。夜も同所でマツタケの茶わん蒸し、伊勢海老サラダ、佐賀牛のステーキなどが振る舞われたという。
こうした首脳会談は、今も昔も相手国のリーダーに新鮮なサプライズを与えるべく、店選びでもきめ細かい配慮がなされてきた。昨年の伊勢志摩サミットでは、志摩観光ホテルが使われたが、こちらもドラマ「華麗なる一族」のロケで使われた名門ホテルだ。同ホテル内にあるレストラン「ラ・メール」の名物メニューである「アワビのステーキ」は昔から有名人たちに愛されてきた。当然ながら、サミットでもこのアワビのステーキが各国首脳にもてなされたという。
さらに小泉首相時代には、蜜月関係にあった当時のブッシュ・ジュニア米大統領との仲を演出すべく、こちらは掟破りでフレンチや和食ではなく、西麻布の居酒屋「権八」が選ばれている。
世界の歴代リーダーが愛した天ぷらの味を体験する
肉好きのアメリカ大統領が和食に魅了されたこともある。当時のビル・クリントン米大統領は来日の際、天ぷらの名店「天一 銀座本店」(以下、銀座天一)を訪れたが、その際、椎茸の海老詰め天の旨さに魅せられ、退任後もその味が忘れられず再来店したという。
そもそも「銀座天一」は古くから日本の政財界人に愛されてきた名店だ。海外VIPでもクリントン元大統領のほかに、ゴルバチョフ元ソ連書記長やシラク元仏大統領、シュレーダー元独首相、さらに今も米政界に大きな影響力をもつ伝説的な外交戦略家であるキッシンジャー元米国務長官など世界の歴代リーダーたちが訪れている。
こうしたVIPが集う名店のコース料理は1万5,000円~2万円がスタートラインだ。そこにビールや日本酒を頼み、税とサービス料が合算されると、2人で5万円超は覚悟しなければならない。もし日本酒ではなく、それ相応のボトルワインを頼めば、少なくとも10万円の予算を見ておかなければならないだろう。
そこでお薦めしたいのが、「銀座天一」のランチメニューの一つである「天丼」だ。税込み4,860円。これがこの店では一番安い。しかし、うまいことに変わりはない。天丼はテーブル席でのみ出されるので、サービス料は取られない。だから、4,860円ポッキリ。歴代の世界のリーダーたちが楽しんだ味を、その値段で味わうことができる。
高級店で一番安いものを頼むと卑屈になりそうだが、そうでもない。実際、天丼のみを注文するお客さんは多く、お金持ちそうな中高年の人たちにもファンが多い。瓶ビールを1本頼めば、格好もつく。一流の味を知ることは、一流の仕事を知ることにも通じる。修業のつもりで一度は訪れてみてほしい。