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〈今夜の自腹飯〉
予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?
大阪の中国家庭料理店「溢彩流香」の分店が恵比寿に誕生
大阪・摂津富田に店舗を構える「溢彩流香(イーサイリューシャン)」は、「食べログ 中国料理 WEST 百名店」にも選ばれる中国家庭料理の名店。リンさんの愛称で親しまれる中国・広東省出身のオーナー・叶朝陽(イエ・チャオヤン)氏が作り出す料理は、どこでも手に入るような奇をてらわない食材を使いながらも、アイディアと卓越した技術によって、優しい味わいでありつつどこかオリジナリティが光る。特に人気なのがここでしか食べられない餃子。大阪を中心に、各地からリンさんの餃子を求め訪れる人は多く、1日で1年分の予約が埋まってしまったこともある超人気店だ。
そんなリンさんの餃子を少しでも多くの人に食べてもらいたいと2022年9月2日にオープンしたのが、分店となる「溢彩流香 餃子小厨 恵比寿(イーサイリューシャン ギョウザショウチュウ エビス)」。2021年10月8日に阪神梅田本店「阪神バル横丁」内のバルゾーンにオープンした分店に続く2号店だが、餃子製造ラボ併設の飲食店としてランチだけでなくディナータイムもお酒と共にゆったり食事を楽しめるレストランとなっている。
水晶のように透き通った美しい焼き餃子と、2種の餡から選べる水餃子
溢彩流香の餃子は、にんにく不使用で、素材本来の味を引き出しているのが特徴だ。本店一番人気の「水晶餃子(焼き餃子)」は、皮が小麦澱粉に片栗粉を加えて作られているため、水晶のように透き通っていて、中のエビのピンクやニラの緑が透けて見える。生地は焼き目が粘度を帯びたカリッと食感、蒸された部分は驚くほどモチモチしており、見た目だけでなく、食感の面白さも魅力だ。中の具材はエビやニラのほか、白菜、豚肉、そしてシャキシャキとした食感のクワイが入っている。
食べやすい一口サイズの水晶餃子は、生地のアイコニックな食感、シャキシャキの白菜とプリッとしたエビの食感のコントラストも楽しい。赤身と脂のバランスまで指定されているという豚肉のうま味が豊かで、後から土っぽさやとうもろこしのようなニュアンスを感じるクワイの味が広がり、知らないはずの中国の故郷の味を思い起こさせる。リンさんいわく溢彩流香の料理は、リンさんの出身地の広東料理の味、リンさんの旦那さんの出身地・西安の料理の味、そして流行を取り入れたオリジナルの味を掛け合わせているそうだ。
リンさんのオリジナル配合でブレンドした粉からつくる皮、素材本来の味を引き出し食感にこだわった食材のカットや水切りなどの下ごしらえ、餡の練り、包みまでの工程には、リンさん独自のアイデアが詰まった調理法やスタイルが踏襲されている。そんな、細部に至るまでリンさんが監修を行った水晶餃子と水餃子は、レストラン奥の餃子製造ラボで作られているのだ。
水餃子(茹で餃子)は「牛肉とセロリ」「イカと豚肉」という2種類の餡から好みで選べるほか、ハーフ&ハーフもオーダーできる。
「牛肉とセロリ」の水餃子は、リンさん独自の配合で赤身と脂身を合わせた国産の牛肉とセロリのみというシンプルなつくり。セロリの鮮烈な香りと味わいが、牛肉のうま味を引き立て、シャキッとした食感が楽しいリズムを生む。
皮にイカ墨を練り込み、淡黒の見た目に仕上げた「イカと豚肉」の水餃子は、イカの下処理方法や豚肉の赤身と脂身の配合割合にもリンさんのこだわりがあるそうだが、豚肉独特の脂のうま味と甘みが強く、ジューシーな肉汁とイカの磯のうま味を一口で頬張れる喜びで満ちる。
ちなみにこれらの水餃子は、焼き餃子バージョンもありこちらも人気だ。「水餃子の皮が破けてしまったり、形が崩れてしまったりしたら焼いてしまう」というリンさんのアイディアを引き継いでいる。中国では余ってしまった水餃子を翌日焼き餃子にして食べる習慣もあるという。いただいた命を大切にいただく、食べ物を余らせず最後までおいしくいただく、その姿勢が貫かれているようだ。
和と中華を掛け合わせた恵比寿店オリジナル料理にも注目
溢彩流香 餃子小厨 恵比寿ではリンさんの餃子のほか、餃子のやさしいテイストに合わせ、中華の枠にとらわれずに自由に考案した、和と中華を掛け合わせた一品料理も多くそろう。この日の「本日の前菜盛り合わせ」では、中華くらげのだしびたし、刻み奈良漬けとクリームチーズのポテトサラダ、冷やししじみ大根、ズッキーニのナムル、人参のマリネ、干し豆腐の桜海老とザーサイのXO醬和えの6種が和の趣の小鉢に盛られ振る舞われた。
中華くらげには鰹節がふりかけられていたり、定食の小鉢の定番でもあるポテトサラダには揚げワンタンがトッピングされていたり、和食のような中華、中華のような和食といった印象だ。彩り溢れる野菜をメインに、優しい味付けの料理を少量多種で味わえる盛り合わせは、リンさんの料理に敬意を示し、メインである餃子を引き立てる意図があるのかもしれない。
温菜も「揚げ海老団子の海老マヨ風」や「季節野菜のせいろ蒸し 山椒味噌添え」「ネギ生姜ダレ油淋鶏」など、お酒が進みつつも滋味溢れる料理が並ぶ。
注文を受けてから30〜40分かけてバーミキュラの炊飯器で丁寧に炊き上げる、ご飯ものも見逃せない。イチ押しは「骨付きスペアリブのお出汁炊き込みご飯」だ。五香粉の香りをしっかりまとわせてトロトロに煮込んだスペアリブを香ばしく焼き、だしで炊いた日本米の上にのせて提供される。五香粉に含まれる八角やシナモン、花椒、クローブ、ちんぴの香りが豊かで、スペアリブの脂を吸ったお米がツヤツヤと輝き、噛む度に生き生きとしたスペアリブのうま味と米の甘さが広がる。適度に入ったザーサイがアクセントになっていて、スペアリブの脂の重たさを軽減してくれるのもいい。
ちなみに食べきれなかった場合、おにぎりにして持ち帰れる。最後までおいしく、余すところなく食べてほしいというリンさんの思いが受け継がれているように感じた。
餃子×チャコリ、餃子×ナチュラルワインのマリアージュも楽しめる
唯一無二の餃子や小料理には、スペイン・バスク地方のワイン「チャコリ」や、専門店と相談してセレクトした「ナチュラルワイン」を合わせてくれる。ナチュラルワインは入荷状況によって内容が変わっていくが、ボトルを常時10種類以上、グラス6種類をそろえる。
チャコリはグラス650円、ナチュラルワインはグラス750円〜と手の伸ばしやすい価格帯だ。
ディナーは1品580円〜で楽しめるアラカルトだが、ランチも定食スタイルで餃子と小鉢2種、スープ、腸詰の中華風混ぜご飯を1,380円〜で味わえるなど、お手頃価格で満腹になれるのがうれしい。おひとりさまでも友人同士でも、恋人や家族でも気軽に訪れられる懐の深いお店だ。
ちなみに大阪の溢彩流香は約13年間の幕を一旦閉じ、リンさんはかつてからの夢だった田舎暮らしを実現すべく移住を決意し、田舎の溢彩流香を準備中。リンさんの餃子を気軽に味わえるのは、しばらくこのお店と梅田の分店だけになりそうだ。
※価格はすべて税込