〈大木淳夫の新店アドレス〉

6月、7月と続々と話題店がオープンし過ぎたのか(詳しくはこちらをご覧ください)、8月は少し落ち着き気味です。とはいえ、注目のお店はもちろんたくさんあるんです!

教えてくれる人

大木淳夫

「東京最高のレストラン」編集長 
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。 
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2022」が発売中。

有名店から独立したイタリアンと、元「かつや」社長のフランス大衆食堂!

星の猫王子
出典:星の猫王子さん

まずは7月の取りこぼしから。
7月22日にオープンした「Filemone(フィレモネ)」。日本におけるイタリア料理店の一大ブランド「ドンチッチョ」グループからの独立店です。外苑前「シュリシュリ」でサービスを担当していた森裕太さんと、高橋健太シェフ(現「ブラマソーレ」)、佐藤裕介シェフの下でスーシェフを務めていた新田大介さんが、赤坂小学校のそばに開いた、アラカルトで1万円前後で楽しめるイタリアン。 逸材と噂される森さんと楽しく会話をしながら、存分に食べて飲んで笑ってください。メインの「牛ヒレ肉のソテー焦がしバターソース」は出色の旨さでした。

「フランス大衆食堂ブイヨン本郷3」挽肉とじゃがいものグラタン
「フランス大衆食堂ブイヨン本郷3」挽肉とじゃがいものグラタン   写真:お店から

さあ8月です。8月26日、本郷三丁目に「フランス大衆食堂ブイヨン本郷3」がオープンしました。フレンチをもっと気軽に!という素敵なコンセプトです。経営は臼井健一郎社長の株式会社U.RAKATA。臼井社長と言えば「かつや」などで有名な外食大手アークランドサービスの元社長。テレビでも有名ですね。開店3日目、11時半のオープンとほぼ同時にうかがいましたが、後から後から人が。フロアで指揮を執る臼井さんも「貼り紙くらいしか宣伝してないんですけどね……」と驚く人気ぶりです。

「フランス大衆食堂ブイヨン本郷3」店内
「フランス大衆食堂ブイヨン本郷3」店内   写真:お店から

窓が大きく、木の質感が印象的な店内。カウンターとキッチンの明るさを調節することで、客席により華やぎを感じさせるなど、店づくりはさすがの百戦錬磨。“ブイヨン”とはフランスで大衆食堂を意味しますが、メニューも、さあ、食べるぞ!飲むぞ!という内容と値段。それでいてチェーン店にはない手作り感とぬくもりがあります。夜のメニューを見ながら、食べたい料理とワインをシミュレートしてみましたが、どう計算しても5千円以下。また行かねばです。

早くも味坊の新店が! 恵比寿には期待大の香港料理店が登場

おおはら
「蒸籠味坊」ラムレバーの油淋ソース   出典:おおはらさん

中華ではなんと「6月の新店アドレス」で、秋葉原の「香福味坊」オープンをお伝えしたばかりの味坊集団が8月8日、今度は代々木上原に「蒸籠味坊」を開店しました。店名が示す通り、こちらの特徴は「蒸し料理」。なんともマニアックなメニューにそそられるのですが、駅ビル内ということもあり、小さいお子さんを連れたママたち、会社の飲み会、一人客、カップルと客層は多彩。“おいしくカジュアルな中華料理店”として賑わっています。マニアだけでなく、どんな人でも楽しめることこそが、味坊系列店の良さかもしれません。

個人的には「干し豚肉と千枚豆腐蒸し」から溢れ出るアジアの香り、締めに食べた「蓮の葉蒸し御飯」の豊潤さに心打たれました。そして、厨房の活気あるセッションを見ているだけで、お酒が進むこともお伝えしておきましょう。

kimi@フードアナリスト
「E360°」香港焼味(チャーシュー)セット 1,200円   出典:kimi@フードアナリストさん

8月22日、恵比寿にオープンした香港料理店「E360°(イーサンロクマル)」も注目です。コロナ禍で閉館した、千葉県一宮のオーベルジュ「EN 燕 the garden」のレストランスタッフがこちらに。香港の「Lei Garden」や東京の「全日空ホテル」(現在は「ANAインターコンチネンタルホテル東京」)でも活躍した、ワーケイ チャウ料理長が、広州から取り寄せたという釜で焼き上げるチャーシューは素晴らしい味でした。ランチでうかがったのですが、付け合わせの野菜炒めや大根の酢漬けまで、しみじみ旨い。

カウンターもある肩肘の張らないカジュアルな店内は、築51年の歴史あるマンションの1階だけに、妙にマッチしていて落ち着きます。ちなみにかつて、店の前のトゥクトゥクで有名だったタイ料理店「マイタイ」があった場所です。

8月末現在、夜は3,200円のコースを頼んで、足りなければ単品も、というシステムですが、近いうちにアラカルトのみも可能になる予定とのこと。とても優秀な若きサービスの女性曰く「夜は紹興酒のソーダ割も人気です!」だそうです。

一皿でも楽しめるアシェットデセール専門店と、一軒家のベトナム料理店

海原雄コ♡
「ルルベ デセール」トゥーショコラ   出典:海原雄コ♡さん

スイーツ部門では8月13日、赤羽橋と麻布十番の間にオープンしたアシェットデセール専門店「ルルベ デセール」でしょう。作りたてのデザートを楽しめるアシェットデセール。コースで出すお店はありますが、1皿からでも食べられるというのは珍しい試みです。

私は先月オープンして以来、偏愛している恵比寿の「青ちょうちん」でおでんと日本酒を堪能したあとにうかがって、カカオパルプのメレンゲを器にした「トゥーショコラ」とポートワインをいただきましたが、幸せになるほど完ぺきな締めでした。2軒目に絶品デセール&食後酒というのは絶対ありだなと。ラストオーダーが22時というのもうれしい限りです。

オーナーシェフの宇野澤惟さんは、数々の有名店で修業した実力派。この場所で開いた理由は「新しいスタイルを受け入れてもらえる土地だと思いまして」とのこと。地元の皆様、ぜひ。

近年、ホテルのアフタヌーンティーは大ブームですし、高級スイーツを五感で贅沢に楽しむことはますます広がっていきそうです。

スイーツはもちろんですが、ベトナム料理も不思議と女性比率が非常に高いジャンルです。人気店に食べに行ったら男性は私一人、なんてこともありました。

「ラトリエ ドゥ スタンドバインミー」スイカのピクルス
「ラトリエ ドゥ スタンドバインミー」スイカのピクルス   写真:お店から

8月1日、自由が丘にオープンした一軒家のベトナム料理店「ラトリエ ドゥ スタンドバインミー」は木を基調とした店内で、無添加・無化調の料理とナチュールワインを楽しめるということで、早くも女性に大人気。無漂泊の皮を使った「大山鶏生春巻き」、鶏ガラスープで炊いたジャスミンライスと鴨肉のコンフィの「コムガー」などの定番はもちろん、季節限定の「スイカのピクルス」といったそそる一品もあり、どの料理もおいしいだけでなく、後味がとてもきれいで、気持ちよく帰路につけます。料理好きの方は店内で販売されている、自家製の辛味調味料「サテ」を。万能です。