ようこそ! たむらパンへ。オーナー夫妻の好きなものが詰まった空間

グルマンの間で今話題を呼んでいる、銀座「レカン」の元総料理長、渡邉幸司氏のビストロ「渡辺料理店」。そこで供されるパンがおいしいとの評判を聞きつけ、さっそく噂のベーカリー「たむらパン」を訪ねてみた。

まるで昭和のゲーセンのような目隠し。何屋さん?と道行く人も覗いていく

門前仲町、下町の路地裏にある隠れ家のような店。一見するとベーカリーとはわからない素っ気ない外観だ。けれど、ドアを開けると、店内には、パンの名店がひしめく東京でもハイレベルなクオリティのパンがずらりと並んでいる。

自分が作るパンを買ってくれるお客様の顔が見たいからとパン工房に窓をつけている

店を営むのは、腕利きのパン職人である田村裕二さんと、販売と料理担当の真紀子さん夫婦。コンクリート打ちっぱなしのシンプルな店内には、自宅から持ってきたというアンティークのテーブルにパンが置かれ、その向かいの壁にはアートが展示されている。

裕二さんが焼いたパン、二人が好きなアートやワイン、チーズがある店。「普段の暮らしそのまま」という空間は、「こんにちは」の声で迎え入れられると、まるで二人の自宅に招かれたような居心地の良さがある。

有名ホテルや名ベーカリーで活躍した実力派シェフが作る絶品パン

夫婦の好きな物が集まる場「たむらパン」。とはいえ、ゆるぎない柱となるのは、裕二さんの作るパンだろう。

二人のほがらかな雰囲気がより一層、店を魅力的にしてくれる

裕二さんのパン職人としてのキャリアのスタートは、北海道「ザ・ウィンザーホテル洞爺」の「オテルドカイザー」(現在は閉店)から。フランスの天才パン職人、エリック・カイザー氏と同じ粉を使用した日本で唯一のベーカリーだ。その後「パレスホテル東京」にスカウトされベーカリー部門のスーシェフに就任。

そして「これが最後のパン修業の場」として選んだのが、パン業界のカリスマ、志賀勝栄シェフがオーナーの「シニフィアンシニフィエ」だ。志賀氏とは「オテルドカイザー」時代から懇意だったという裕二さん。これまでとは違うパン作りを学ぼうと「シニフィアンシニフィエ」に入店し、6年間活躍した。

食べ疲れしない、フカフカの「カンパーニュ」

「カンパーニュ」(ハーフ)300円。写真はフルサイズ

朝7時30分オープンの店内には、すでに20種類ほどのパンが並んでいる。選ぶ楽しみを味わって欲しいからと、開店と同時にしっかりパンの種類をそろえるのが「たむらパン」のポリシーだ。

シェフの実力を実感できる「カンパーニュ」。「シニフィアンシニフィエ」から譲り受けた天然酵母を使い、国産小麦粉に国産ライ麦粉を20%ほど配合。高加水で発酵させたパンは、ライ麦がほのかに香り、食事に合うようにと少し塩味を強めにしている。力強い小麦の旨みに天然酵母ならではの酸味が加わり、深みのある味わいだ。

きめ細かな気泡がしっとり、もっちりとした食感を生む

クラスト(外皮)は薄くカリッとし、クラム(中身)は指でさわるとまとわりつくようにしっとり。けれど“高加水”過ぎないのが「たむらパン」の特徴。「食べ疲れしないカンパーニュを目指しました」と裕二シェフ。弾力がありつつも、どこかふわりと食べ心地が軽い。

芳醇な発酵バターの香りがたまらない「クロワッサン」

「クロワッサン」360円

「店のアイコン、手土産になるようなパン」にしたかったという「クロワッサン」。焼きたてが店頭に並べば、次々と売れていく人気ぶり。こちらは「オテルドカイザー」時代、フランスから派遣されてきたシェフ直伝のレシピで作られている。

層が薄く、軽やか。食べ心地の軽さは「たむらパン」のパンに共通している

こだわりは「よつ葉」の発酵バターと、バリバリではなく、ハラリと軽いクラスト。手でちぎると、バターが染みた層だけでなく、しっかりとした発酵から生まれるきめ細かな気泡が見える。小麦の旨みも味わってほしいという裕二シェフの思いの表れだ。フワッと香る発酵バターと、バターに負けない小麦の旨み。このバランスが絶妙なクロワッサンだ。

しっとりブリオッシュ生地が絶品の「メロンパン」

「メロンパン」 300円。ブリオッシュ生地のレシピは「シニフィアンシニフィエ」のもの。パンの試作には志賀シェフにも付き合ってもらったのだそう

「たむらパン」らしさを感じた「メロンパン」。ハード系パン作りの高い技術を持つ裕二さんだが、店を訪れる子どもからお年寄りまで喜んでもらえるパンを大切にしたいと考えている。

同店ならではの工夫は、クッキー生地に合わせる生地をブリオッシュにしていること。ブリオッシュ生地は卵やバターをたっぷり使ったリッチな生地だが、パサつきがちでもある。同店のブリオッシュは生地がふんわりと口どけがなめらか。バター風味のサクサク、ホロホロのクッキー生地としっとりブリオッシュ生地の組み合わせが絶品のパンだ。

ビールやワインのお供にぴったり「青唐辛子」

「青唐辛子」320円

“飲み”タイムにぴったりなパンのラインアップも充実。中でも人気なのが「青唐辛子」。バゲット生地の中から覗くのは、青唐辛子とおかかを醤油で和えたもの。元々、田村家の食卓の常備菜だったのだそう。

このほか、カシューナッツとコリアンダーが入ったパンなど、ちょっとひねった組み合わせが「たむらパン」流

真紀子さんおすすめの食べ方は5ミリほどにスライスして、カリッと焼くのだそう。ほんのり醤油が香り、青唐辛子がピリリと刺激的で、ビールと合わせると最高だ。