ワンランク上の一品料理と、そば×マグロのユニークなメニューに好奇心が止まらない「蕎庵 三たて」
“碾きたて、打ちたて、茹でたて”——。旨いそばの必須条件が、俗に言うこのそばの“三たて(さんたて)”。それを、そのまま店名にした注目店が、7月19日、麻布十番にオープンした。ここ「蕎庵 三たて」(こちらは「みたて」と読みます)は、あの高級寿司店御用達のカリスママグロ仲卸「やま幸」が手がけるそば店だ。
料理長を務めるのは、小学生の頃からそばに目がなかったという三浦幸喜さん、38歳。神田の老舗そば店「尾張屋」でそば打ちをマスターする前は、今は亡き京料理の名店「京味」でも、7年もの間修業を積んだキャリアの持ち主だ。
それゆえ、そばはもとより、一品料理の数々が見逃せない。だし巻き卵や焼き味噌、そばがき、天ぷら等々、そば屋定番のつまみをはじめ、富山産の鮑で作る蒸し鮑や北海道産毛蟹の生姜餡掛けなど、割烹はだしメニューがしっかりと脇を固めている。
中には、大葉とバジルの和風ジェノヴェーゼソースで食べさせる季節のそばのような創作的一品が異彩を放つかと思えば、和牛しぐれ煮やちりめん山椒といった「京味」のDNAを感じさせる品々もさりげなく潜み、その幅広い芸風には興をそそられること請け合い。また、先の焼き味噌にしても、そばの実の代わりに3種のナッツを入れ、卵は平飼い、豆腐は北海道産特濃豆乳で作った自家製と、それぞれにひと工夫。ワンランク上のおいしさを楽しませてくれる。
加えて、母体が「やま幸」だけに、そばとマグロを組み合わせたユニークなメニューもここならでは。突先や尾の身などマグロの各部位を使った叩き身とキャビアをのせたそば粉のガレットに、赤身・かき身・はがしで握るマグロのそば寿司といった想定外の味覚の数々が食的好奇心をかき立てる。
18時開始のディナーは1万円コース一本勝負。21時以降はアラカルトタイムに
遊び心溢れる一品料理が目を惹く反面、そばは極めて正統派。そば粉は、三浦料理長の故郷・富山や、福井の在来種。これを、客が来店してから目の前で打ちあげる。つなぎ無し、生粋の十割そばが自慢の味だ。ちなみに18時開始の第1ラウンドは、そばで〆る11,000円コースのみ。それゆえ「コースの中盤辺りでそばを打ち始めています」と、三浦さん。
せいろに盛られたそばは、幾分細打ち。取材当日は、富山の八尾在来と福井の丸岡在来をブレンド。ややしっとりしつつも水切れの良いそばを手繰れば、微かにナッツの風味を秘めた穀物感溢れる香りが鼻先を擽る。噛み締めるほどに滲み出るたおやかな甘味、品の良い旨味はいかにも北陸のそばらしい。在来種ならではの豊かな余韻も印象的だ。何もつけずとも十分美味い。が、甘さを控えたもりつゆとの相性もまずまず。
富山の濃口醤油と本味醂、黒糖と赤ワインを隠し味に加えたかえしに合わせるだしにも一捻り。従来の鰹節に加えマグロ節をたっぷり用いることで、もりつゆにより深みを持たせている。
ちなみにコースには、懐石の八寸を思わせる“蕎麦前”セットや茶碗蒸し、そば刺し等々甘味まで含めて全11品が卓を賑わせる。そばの前には、大トロ、中トロ、赤身と3種のマグロがのるミニ鉄火丼も登場するなど内容も充実。お酒も進みそうだ。
アルコールは、日本酒、ワイン共に豊富に揃うが、特筆すべきは、シャンパンの品揃え。「グラスシャンパン」1,800円の“アンリー・ジロー”他、“サロン”に至るまで実に28種がラインアップされている。
「そばの粒感にシャンパンの泡がよく合うんです。また、舌に微かに感じるそばのほろ苦さも、シャンパンの苦味成分にフィットしますね」とは、アルコールを担当した市村暢央さん。元「カンテサンス」のシェフソムリエと聞けば、説得力もひとしお。そばとシャンパンの新たなマリアージュを楽しんでみたい。
21時頃からのアラカルトタイムには「冷やかけ」1,100円や「すだちそば」1,540円、「希海の贅沢雲丹そば」3,080円に「鮪の脳天ねぎまそば(温)」1,760円etc.バラエティ豊かな種ものも勢揃い。飲んだ後の〆に覚えておきたい一軒だろう。また、土曜日は14〜19時の通し営業。そば屋ならではの昼酒もOKだ。
※価格はすべて税込、アラカルトはお通し代(500円)別