去る7月18日、世界27の国と地域の食の識者1,080人の投票によって、世界のベストレストランを決める「The World’s 50 Best Restaurants awards 2022」が、ロンドンで行われた。

今年は20周年を祝う特別なアワードとして、発祥の地であるロンドンに戻っての開催。例年にない盛り上がりを見せた。昨年はコロナ禍をはさみ、ベルギー・アントワープで2年半ぶりの開催となったが、今回もコロナ禍の影響は随所に見られた。

写真:アワード公式

1位に輝いたのはコペンハーゲンの「ゲラニウム」

なんと言っても今回の興味の焦点は「どこのレストランが1位をとるか」ということだった。というのも、昨年2位のコペンハーゲン「ゲラニウム」が1位に輝くか、同じく昨年4位のペルー・リマ「セントラル」が1位にジャンプアップするのか、混沌としていたからだ(一度1位に輝くと「ベストオブベスト」となって殿堂入りし、以降順位は付かなくなる)。

結果は「ゲラニウム」に軍配が上がり「The World’s Best Restaurant」 を受賞。同時に「The Best Restaurant in Europe」も獲得した。ラスムス・コフォエドシェフの料理は、季節の素材を存分に生かしながら、緻密で繊細、華麗な仕上がりで知られる。実は料理界のワールドカップとしても名高い「ボキューズ・ドール」においても、金・銀・銅すべてのメダルを獲得した実力者で、自国の三つ星と合わせて、料理界の真の王者になったと言っても過言ではない。

「ゲラニウム」チーム  写真:アワード公式

また、2位に浮上した「セントラル」の高評価も見逃せない。ヴィルヒリオ・マルティネスシェフは東京に支店「MAZ(マス)」をオープンしたばかりということもあり、その確かな実力は日本人としてもうれしい限りだ。

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「MAZ」のひと皿   出典:ゆーじむさん

「傳」「フロリレージュ」など日本勢も健闘

日本は、20位に「傳」が入賞し「The Best Restaurant in Asia」を受賞した。続いて「フロリレージュ」が昨年の39位からジャンプアップして30位に入賞、ニューエントリーの大阪の「ラシーム」が41位、「NARISAWA」が45位と4軒がランクインし、グルメ大国としての実力を知らしめた。

日本チーム  写真:アワード公式
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「傳」のひと皿   出典: hiro0827さん

スペイン、イタリアの6軒に次ぐ多勢入賞国となったわけで、日本ガストロノミー界の快挙と言えよう。しかしながら「傳」が昨年の11位から、また「NARISAWA」が19位から順位を落としたことは、コロナ禍によるインバウンドの減少が大きく響いていることは間違いない。今後はインバウンドの回復を願いたいものだ。

その中で気を吐いたのが、ニューエントリーの「ラシーム」だ。東京都内の店舗に票が集まりがちななかで、大阪というハンデがありながら国内の票をそれだけ集めたのは「アジアのベストレストラン50」でも「シェフズチョイス(シェフが選ぶシェフ)賞」を受賞したように、圧倒的な世界観と技術が評価されたと言って間違いない。

やっぱりモツが好き
「NARISAWA」のひと皿   出典:やっぱりモツが好きさん

また、アジア全体で見ると7店舗のランクインで、日本以外では24位の香港「チェアマン」、36位のシンガポール「オデット」、39位のタイ・バンコク「ソーン」にとどまった。これも、コロナ禍による入国制限の厳しさなどが大きく影響している。話が後先になるが、投票の規定に、1年半以内に訪れた店でないと投票することができないというルールがある。だからこそ、海外へ出ることや入国することが難しかったコロナ禍が大きく関係したということなのだ。

ニューエントリーのレストランが多数

もう1点、今回のアワードで目立ったのは、12軒のレストランの初登場であろう。例年にない、ニューエントリーの多さがなんといっても印象的だった。ペルー・リマの「マイタ」、南アフリカ・ケープタウンの「Fyn」、スペイン・デニアの「キケ・ダコスタ」、ポルトガル・リスボン「ベルカント」、そしてもちろん「ラシーム」などがそれである。

「ラシーム」の一皿 写真:食べログ

これも実は、コロナ禍が関係していると見られる。これまでであれば、ボーターたちの投票権は自国に6票、他国に4票であったが、海外に出ることができなかった人には、4票も自国に投票してよいという救済措置が設けられた。そのため自国のレストランを深堀りすることにより、これまで上がってこなかった店が発掘され、ランクインにつながったと考えられる。

また、日本人として喜ばしかったことの一つは、国際スポンサーに日本酒の旭酒造「獺祭」が名を連ねたことだ。これまで、美食の大国と言われながら、各国から名立たる飲料・食品メーカーが参加している中、日本を代表するスポンサーがないことは、いかにも寂しかった。それが今や、完全なグローバルワードであるSAKEの一大メーカーがブースを設け、多くの来場者が、獺祭を楽しんでいる姿はなんとも誇らしかった。そうした意味でも真のガストロノミー国家として、今回の「The World’s 50 Best Restaurants awards 2022」では、日本にとっては大きな躍進の年であったと言えよう。

「獺祭」のブース 写真:小松宏子

取材・文:小松宏子