〈広島人のソウルフード・ローカル飯〉

1935年、大阪の「力餅」で修業をした初代の小林角蔵(こばやし かくぞう)が、本通り1丁目で「うどんと餅の店 ちから」を創業。1945年に防火対策(空襲対応)で店舗が取り壊しとなるが、1951年に鉄砲町で再開を果たした。

その後は本格的なチェーン展開を開始し、和食店やレストランの経営、コンピュータ事業などにも乗り出し多角化を行う。メインの「ちから」では、自慢のだしがモンドセレクションを受賞したり、「ザ・広島ブランド」に認定されたりと、うどんのリーディングカンパニーとして快進撃を見せ続けている。

“京都で生まれ、広島で育まれた味”。愛すべき「ちから」のルーツ

11時から20時まで営業し、昼食にも夕食にも利用できる

広島市中区鉄砲町に位置する「ちから 本店」。赤いひさしや外壁が印象的な他店と比べ、ブラウンを基調にした本店らしい落ち着いた雰囲気だ。コの字形に設えられた店内のカウンターで飲食を楽しむこともできるし、持ち帰りのうどんや生和菓子を注文することもできる。市内中心部に位置する本店は、場所柄仕事の合間に訪れるサラリーマンや、ショッピング途中に寄る主婦などの利用が多い。

本店でしか見られない、杵が刻まれた看板

「ちから」のルーツは、饅頭店として兵庫で誕生し、京都で栄えた餅と麺類や丼物を出す大衆食堂「力餅」。この店で経験を積んだ職人が各地で店を出し、系列店が今でも複数存在する。

「ちから」の創業者である小林角蔵さんは、この力餅から暖簾分けして店を持った実兄の菊次郎(きくじろう)さんに影響を受け、同じ道へと進んだのだそう。大阪の店で餅の製造方法やうどんダシの取り方を覚え、広島へと進出。本店の看板には今でもその歴史を象徴するかのように、杵(きね)のデザインが刻まれている。

店の歴史を語ってくれた、社長の小林正記さん

「私らは自分のところの商品を“京都で生まれて、広島で育まれた味”と呼んどるんです」と、代表取締役社長の小林正記(こばやし まさき)さん。「力餅から暖簾分けをしてもらった店は全国にありますが、うちは餅に特化、うちはうどんと餅の両方と、店によってそれぞれ特色を打ち出しています。『ちから』はどちらかと言うと麺を主体に置いた店で、さらに言うなら、独自にチェーン展開をした珍しいパターンだと思います」

手間暇かけた味を長年提供し続けている 写真:店舗提供(1940年代調理場)

2022年に創業87周年を迎えた同社の歩みは決して順風満帆だったわけではなく、戦時中の物が乏しい時代には、海藻うどん(ところてん)を出していたこともあったのだそう。「今も昔も変わらず約束事として定めているのは、吟味した高品質で安全安心な商品を、買い求めやすい価格で提供することです」と小林さん。特にダシには力を入れていて、化学調味料を使わず、昆布や削り節など天然素材を使用し、季節によって塩分濃度を変えるなど、細かな工夫をしているそう。

店内飲食でも持ち帰りでも楽しめる、麺類や生和菓子

肉うどん

「肉うどん」680円

まずは自慢のダシを存分に堪能できる、うどん類から紹介したい。「天ぷらうどん」「肉うどん」「カレーうどん」が三大人気メニューだが、世代を問わず好評なのが「肉うどん」。オーストラリア産の牛肩ロースを低温調理しており、噛むとジュワッと肉の旨味に甘辛い味が口の中に広がる。味付けに使う調味液は広島の老舗醤油メーカー「川中醤油」とコラボ開発したもの。

まずはダシを一口飲むのがおすすめ
倉橋島産を中心に仕入れる新鮮なネギが肉と相性抜群

麺はコシよりもモチモチ感を重視したやわらかタイプ。ダシが絡みやすく、麺をすするとダシの旨味が後からじんわり。兵庫県たつの市の淡口醤油をベースに、利尻昆布や京都ブレンドの削り節で抽出した旨味を加えて作る、身体に染みわたる味わい。ダシを引ける職人はわずか3名しかおらず、中区にある製造所で日々丁寧に作られている。全店舗で同じダシが使用されているので、どこで食べても同レベルの味が楽しめるのも魅力だ。