4. 日本一のミンチカツカレー「洋食屋 双平」

ここまで、印僑と華僑のイチオシを紹介しましたが、神戸カレーを語るうえで欠かせない食文化がもうひとつ。それが洋食です。港町であることから、古くからの洋食店が無数にあり、そのうえでこぢんまりとした個人店が多いのも神戸の特徴とか。その中でカレー細胞さんが最も好きなのは「洋食屋 双平」。

「南京町の脇道にあるお店なのですが、ブラウンソースがベースのコク深いカレーで、特に『ミンチカツカレー』が最高なんです。カリッと揚がった衣の中に、何とも言えないうまみの詰まったミンチがフワリ。ほんのり甘辛な英国風カレーとの相性も抜群で、神戸洋食文化の実力を見せつけてくれます」

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「洋食屋 双平」のミンチカツカレー850円   出典:ropefishさん

カレー細胞さん曰く、神戸の洋食に大きな影響を与えた店のひとつが「神戸オリエンタルホテル」。マリリン・モンローとジョー・ディマジオが新婚旅行で泊まった名門中の名門です。1995年の阪神淡路大震災で全壊し、その後2010年に再起を遂げた同ホテルの名物カレーを復活させたのが、2013年開業の「Sion」です。

「旧オリエンタルホテル出身の名シェフが集結して蘇ったSionのカレーは、ねっとりとしたテクスチャーとフルーティーな甘みが調和した贅沢な味わい。さまざまな食材を30時間以上煮込んで作る、奥深いコクもたまりません。神戸の洋食カレーの名店として、歴史的に重要な存在だと言えるでしょう。 なお、移転が多いのですが『レードル』という間借りカレー店もおすすめです」

5. ファンの後押しで復活したソウルフード「サヴォイ」

神戸の洋食カレーには、そこから派生した欧風喫茶店カレーも存在します。中でも、ソウルフード的カレーとして愛されているのが三宮の「サヴォイ」。「食べログ カレー WEST 百名店」選出店でもある、1988年創業の老舗です。

「『サヴォイ』は神戸屈指のターミナル、三宮駅に直結した『さんちか(三宮地下街の愛称)』の良心。サイズを選べるビーフカレーに、卵トッピングの有無があるだけという潔さからして素敵です。味わいは、牛肉を使う洋食カレー的なコク深さに、16種類の多彩なスパイスが同居。飽きの来ないおいしさが身上です」

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「サヴォイ」のビーフカレー+玉子 750円   出典:shxkxさん

同店に魅了されたファンは数知れず。それを物語るエピソードもあるとか。

「2019年に一度閉店の報が流れたのですが、常連の後押しで1カ月後に復活した愛されるお店です。変わらない味を提供し続けるうえ、ファンのアドバイスで冷蔵カレー通販もスタートしました。こちらもおすすめですよ!」

6. 一品集中型の究極のチキンカレー「サトナカ」

最後に紹介するのは、カレー細胞さんが“究極のチキンカレー”と称する「サトナカ」です。カレーメニューはチキンのみ。そのうえで辛さ、量、トッピングを選べるという、徹底的にこだわった一軒です。

「タッチはほどよいシャバ感。玉ネギの甘みとじんわり来る辛さ、そこにクミンやカルダモンなどのスパイスがフワッと香り、さらに鶏ガラ、昆布、椎茸といった和出汁のうまみ、カシューナッツの香ばしさが加わった好バランスなカレーとなっています」

チキンへのこだわりは、具材としての調理法にも。肉はカレーソースと別で仕込み、低温調理でうまみを凝縮。やわらかいギュッとした噛みごたえと、そこから染み出す力強い鶏の肉汁が、重すぎないもののスパイシーで深みがある味わいを生み出しているのです。

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「サトナカ」のチキンカレー(並盛り、辛さ普通、チーズ、半熟煮玉子)850円   出典:よし0016さん

「スプーンが止まらなくなる、カレーとチキンの無限ループ。隙のないビジュアルも相まって、もはや芸術の域です。ある種究極のチキンカレーと言えるでしょう!」

この「サトナカ」をあえて一般的なカテゴリーでくくるなら、スパイスカレーとのこと。その延長線上で、神戸スパイスカレーのおすすめも教えてもらいました。

「若手のカレー職人を束ねて、“神戸をカレーの街に”という活動をされている『神戸カレー食堂 ラージクマール』は外せません。また最近では、大阪スパイスカレーの重要店「旧ヤム邸」出身の方が2019年に開業した『大衆スパイス酒場 ニューヤスダヤ』も要チェックです」

故郷の味への“里帰り”にも行こう!

カレー細胞さんは故郷・神戸のカレー名店を振り返る中で、今のご自身をつくり上げた原風景的なお店についても教えてくれました。

「通学していた高校近くの商店街にあったのが『印度屋本店』。“インド人もビックリ”をウリにしたカレーライスのお店でしたが、ブラックペッパーが利いたピリ辛系で、またコーヒーも絶品でした。僕が黒胡椒好きで、カレーの食後にコーヒーが飲みたくなるのは間違いなくこのお店の影響です。震災ののち、『おらが茶屋』として復活したあと2012年に店主の引退で幕を閉じましたが、思い出の一軒ですね」

「もう食べられなくなる」ということも珍しくない昨今。新店巡りはもちろん、故郷の味への“里帰り”もお忘れなく!

※価格はすべて税込です。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

監修/カレー細胞(松 宏彰)
取材・文/中山秀明