猫井さんが「スイーツ系からハード系までオールラウンドにおいしい」と太鼓判を押すパン屋さんとは?

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!

食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、連載「猫井登のスイーツ探訪」でお馴染み、お菓子の歴史研究家・猫井登さんに、食べログの点数は3.27ながら、早い時間に行かないと売れ切れてしまうパンもあるほど人気だという、埼玉・浦和「パン処 麻凛堂」を教えてもらった。

※点数は2022年3月時点のものです。

教えてくれる人

猫井登

1960年京都生まれ。 早稲田大学法学部卒業後、大手銀行に勤務。 退職後、服部栄養専門学校調理科で学び、調理免許取得。ル・コルドン・ブルー代官山校にて、菓子ディプロム取得。フランスエコール・リッツ・エスコフィエ等で製菓を学ぶ。著書に「お菓子の由来物語」(幻冬舎ルネッサンス刊)、「おいしさの秘密がわかる スイーツ断面図鑑」(朝日新聞出版刊)がある。

多彩なラインアップ、実直な味で地元に愛され18年「パン処 麻凛堂」

お店は中浦和駅の東口を出て徒歩1分ほど。創業は2004年
 

猫井さん

デニッシュ系、ハード系、調理パン、全般的においしいオールラウンドのお店。彩りも美しく、味わいも素晴らしい。清潔な感じで陳列も見やすく、店員さんも親切。店主の創意工夫と情熱が感じられます。地元では大人気のお店で午前中に行かないと売り切れになるパンも多いです。

おいしいパンの秘訣を教えてくれたのは店主の宮林直次さん

「世界中に素晴らしい小麦があるから自由に使っているだけなんです。じつは……製粉屋さんの営業の押しにも弱くて」と笑う宮林さん。「パン処 麻凛堂 (マリンドウ)」の規模は決して大きいわけではないが、使用している小麦粉は14〜15種類と驚くほどバリエーション豊かだ。フランス、ドイツ、カナダ、アメリカなど海外産もあれば、北海道、岩手、長野、九州と国内産もいろいろ。

曜日ごとに入れ替わる多彩なパン。ラインアップは100種類以上

「これは神戸の増田製粉所のもの、こっちは福岡の大陽製粉ですね。日本の製粉屋さんの小麦粉は総じて高品質でおいしい。そこに優劣はなく、ただ好みの違いがあるだけ。味を大きく左右するのはミキシングや発酵といったパン作りの基本的な工程なんですよ」と宮林さん。

陳列されているパンは1種につき4〜5個ほど。多品目を少しずつ焼き上げており、使用する小麦粉や酵母はさまざま。製法も異なるため、仕込みには大変な手間ひまをかけているはずだ。

丁寧な仕事をしながら説明は必要最低限。宮林さんの実直な性格が表れている

焼き立てが最も多く並ぶタイミングは、ちょうどお昼ごろ。食パンやバゲットを求めて決まった時間に訪れる常連もいれば「たまたま立ち寄ったら惣菜パンがおいしかった」と口コミを残す人も。「どれを食べてもおいしい」と評判で、お客さんぞれぞれに「推しのパン」が異なるのも面白い。

公園散策とともに楽しむのが定番という猫井さん「推しのパン」がこちら!

公園のベンチに腰掛けて季節の定番デニッシュを堪能

焼き立てのパンを楽しむなら、お店から徒歩2分ほどにある別所沼公園が最適。噴水のしぶきがきらめく水辺、メタセコイアの並木道など美しい光景が広がるほか、地域を代表するお花見スポットでもある。猫井さんも公園の散歩と合わせてパンを楽しむことが多いそうだ。

27層が美しく浮き上がる! 季節の味も詰まったサクふわ食感のデニッシュ

「栗のデニッシュ」260円
 

猫井さん

デニッシュ生地の層の浮き上がりが素晴らしい。クリームの旨味とフルーツ類の甘味、酸味がよく調和しています。購入したらなるべく早く食べてほしいです。冷蔵庫で保存した場合は、常温にしっかり戻す、あるいはほんの少しレンジで温めると味わいがよく感じられるようになります。

「洋梨のデニッシュ」260円

デニッシュに使用しているのは、石臼挽きの九州産とオーソドックスなカナダ産のブレンド小麦粉。バターたっぷりで加水率は低め。27層に織り込むクロワッサンに似た生地だが、わざわざデニッシュ用に少し甘めにしているという手の込みよう。

「アップル デニッシュ」260円

デニッシュ生地はアーモンドクリームを敷いて焼き、さらにカスタードクリームをのせてから各種具材を加えている。2種のクリームはともに自家製で控えめな甘さながら風味はリッチ。果実の甘酸っぱさやナッツ類の香ばしさを絶妙に引き立てる。

「フルーツデニッシュ」260円

秋から冬の定番はマロングラッセ&モンブラン、洋梨のシロップ漬け&杏子ジャム、リンゴのキャラメル煮など。例年、3月末頃からメニューが切り替わり、暖かくなるごとにオレンジ、マンゴー、桃など南国の果実を使ったデニッシュが増える。

「木の実のデニッシュ」260円

どのデニッシュにも共通しているのが、サクサクとふわふわが両立している生地。層と層の境目が分かるほど美しく膨らんでいることが、見た目だけでなく食感からも伝わる。お菓子の専門家である猫井さんが推薦するのも納得の食べ心地だ。