お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。今回は夏季特別編として、この夏食べたい「ひんやりスイーツ」特集を4回に分けてお届け。トップバッターは、日本の夏スイーツの王様「かき氷」のおすすめ店を紹介します。
【猫井登のスイーツ探訪・夏季特別編】ひんやりスイーツ特集Part1「かき氷」
猛暑の中、かき氷は食べたいけれど、コロナ禍の下、密になる店は避けたい。炎天下行列に並ぶのも勘弁……。どこかゆったりとかき氷を食べられるお店はないものか。できればシックな店で、かき氷もちょっと特別感のあるものが……。そう考える人も多いはず。そこで、この夏に最適な「広々ゆったりと、かき氷を楽しめるシックなお店」を厳選し、紹介したい。と、その前に、かき氷を含むいわゆる氷菓の歴史を少し振り返ってみよう。
日本では平安時代に出現? かき氷の歴史
昔は冷凍庫といった設備はなかったので、氷といえば冬に降り積もった氷雪しかなかった。こういった氷雪は、はじめは食品を保存するために利用され、A.D.79年、ベスビオ火山の大爆発で埋もれたポンペイ遺跡からも氷室が発見されている。日本でも仁徳天皇時代の4世紀後半、奈良に氷室が初めて作られ、奈良の氷室神社はそのゆかりの地とされる。
5世紀頃になると、アラブ圏では、氷や雪で冷やした甘い飲み物「シャルバート」が作られるようになり、これがシチリアに伝わり「ソルベット(シャーベットのイタリア語)」となり、現在見られる氷菓へと発展していく。
日本でかき氷について書かれた文献としては、平安時代、清少納言によって書かれた「枕草子」が最初といわれている。第39段「あてなるもの」(上品なもの)の中に、「削り氷(けずりひ)に甘葛(あまづら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」という文章がある。
現代語にすると「削った氷に甘葛(蔦の樹液を煎じた汁のことで、はちみつに似た甘味料)をかけて、真新しい金属製のお椀に入れたもの」となり、シロップをかけたかき氷が目に浮かぶ。
さて、かき氷の歴史を知ったところで、本題のお店紹介へ。
広々、ゆったり空間でかき氷を楽しめる店3選
【1軒め】「東京風月堂 銀座本店」
東京風月堂は、歴史をひもとくと、宝暦3年(1753年)に創立された大坂屋から始まり、文化9年(1812年)に松平定信公より「凮月堂清白」の5文字を授かり、屋号を「凮月堂」として、明治5年(1872年)の「米津風月堂」創業まで歴史を辿ることができる老舗。
喫茶スペースは2階にあり、広々。階段を上がり、お店の正面の大きな窓からは、ティファニー、ブルガリ、ルイ・ヴィトンといった有名ブランドの店舗を望むことができる。窓際の席に陣取り、銀座の街ゆく人々を眺めながら、ゆったりとかき氷を楽しむ。
実は先日こちらのお店で、かき氷の専門家の方とお話をする機会を得た。たまたま同い年ということもあり、意気投合。いろいろと教えていただいた。そのときの会話を少し再現してみよう。
猫井(以下、猫):最近は「天然氷」を使っていることを売りにするお店が増えていますが。
かき氷専門家(以下、専):天然氷は、寒い時期に湧き水などを引き込んで凍らせて作ります。1週間から10日ほどかけて作るので、密度が高く、溶けにくい氷ができます。
猫:溶けにくいということは、氷を薄く削ることができるということですね。
専:その通りです。ただ、最近は人工の氷でもじっくりと時間をかけて凍らせる「純氷」というものもあり、硬度も変わらなくなっています。好みによりますが、純氷の方が雑味が少なくて良いという人もいますね。
猫:削り方は、いががでしょうか?
専:最近は、ふんわりと削るのが主流となっていますね。
猫:こちらのかき氷はいかがでしょうか?
専:こちらのかき氷は、上の方は粉雪のように細かく、下の方は粗くなっていますね。たぶん、削り方を3段階くらい変えているか、何度かに分けて削っているのだと思います。
猫:1杯のかき氷でも、上部と下部では、粒の形状を変えていると。
専:一般的には上から食べていくわけで、そうすると下の方はどんどん溶けていってしまう。それを防ぐために、下の方を溶けにくくしているのでしょう。
猫:なるほど。ところで、かき氷の正しい食べ方ってありますか?
専:今回だと、小倉あん、あんず、黒蜜ゼリー、抹茶アイス、それに抹茶のシロップが付いていますから、お好みで氷と混ぜながら召し上がっていただければ。氷の中には、バニラアイスも入っていますよ。
猫:かき氷って、どの瞬間が一番おいしいのでしょうか?
専:最後、ポタージュ状になったときですかね。
猫:意外ですね!?
専:見かけは良くありませんが、氷が溶け、シロップや餡、アイスなどの味わいが渾然一体となっているわけで、作り手としては、この状態でどのような味わいになるかを計算してかき氷を設計しています。
猫:なるほど。パティシエがケーキの上から下まで、すべての層が一緒になったときに、口の中でどのような味わいになるかを考えながら作るのと同じですね。最近のかき氷の傾向とかって、ありますか?
専:まあ、昔は削った氷に甘いシロップをかけただけでしたけど、氷にこだわるようになり、天然氷や純氷が出てきて、さらにシロップにこだわる店も出てきました。最近はエスプーマを使ってムース状にしてのせてみたり、主役を変えて、ほかの素材、例えば和菓子をメインに、かき氷を組み合わせたようなものが見られますね。