タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載。鮨屋の攻略法を教えていただいた「鮨屋なんて怖くない」の次のテーマは、人によってはさらにハードルが高いであろう「一人飲み」です。

 

 外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

今回は、マッキー牧元さんが講師を務める丸の内朝大学「出世酒場クラス~ビジネスの出世極意は酒場で学ぶ!~」のフィールドワーク第3回のお写真も織り交ぜてお送りします。普段は写真厳禁の湯島「シンスケ」ですが、フィールドワーク用に提供していただいたお料理を紹介するということで、特別許可をいただきました。

 

「タベアルキスト」という仕事をしている関係上、年間の外食は600回ほどになる。

 

ほぼ毎日が昼夜の外食である。予定も先々まで決まっていて、夜の予定は、3ヶ月先まで埋まってしまう。自分自身が「予約の取れないレストラン」になって、一体どうするんだ状態である。だが、必ず1ヶ月に1日は予定を入れず、ブロックする日を作るようにしている。

 

その日の外食予定は、事前に決めない。昼過ぎに、「今日はどこに行こうかなあ」と思案する。

 

行くのは、必ず居酒屋である。必ず一人である。一人飲みである。

 

この独酌タイムが、僕にとってはとても大切で、これがないと少し行き詰まってしまう。できれば1週間に一回以上設けたいくらいである。

 

しかし世の中には、「一人飲み」ができない人が多いという。聞けば、さまざまな理由がある。

 

一人で飲むなんてわざわざ外でやらなくてもいい。家でTOEICの勉強をしながらビールを飲む俺の方がかっこいいぞ、と思う人もいるだろう。

 

その気持ちはわかるが、それでは得られないことを得られるのが、一人飲みなのである。もう三十数年間、一人飲みをして来た実感である。黙って自分のペースで飲み進めることに魅力があり、それによって次第に、都会や日常の垢や汗が剥がれ落ちていき、自分だけの時間が戻ってくる。これがメリットである。

 

また、一人飲みなんて渋いこと、40、いや50過ぎてからでいいじゃないかと思うかもしれない。しかしそれでは遅い。

 

私の周りにも50過ぎてもなお、一人飲みできない人たちがいる。彼らは基本的に、「一人で過ごす」ということが大変苦手である。

 

もちろん家でも、一人で過ごす、自分の時間を持つということはできよう。

 

しかし居酒屋という公共の場に身を置きながら、一人の時間を噛みしめながら酔うという時間は、掛け替えのない体験であり、人生の幅を広げてくれる。

 

地位もあって会社で威張ってきた人が、定年退職して家に入り、「一人では何もできない」「一人でレストランも行けない」となるケースが多いと聞くが、そうなることを避けるためにも、一人飲みは若い頃から始めた方が良い。

 

20代で、おっさんの常連客が多い老舗居酒屋で一人飲む。最初は戸惑い、居場所がない感じで、辛いだろう。かなりのアウェー感も感じるだろう。緊張もし、せっかく行ったのに、飲んだ気も食べた気もしないかもしれない。

 

しかし世の中、ぬるま湯に浸かっているより、あえて熱い湯に飛び込んだ方が、学ぶことが多いのも事実である。

 

まあ慣れてしまえばどうということもない。慣れてしまえば、実にイイものである。誰へ気兼ねすることもない(といっても年配の常連客への配慮は忘れずに)。好きなものを注文して、自分のペースで飲むだけである。

 

それでは、そのお作法をいくつか挙げよう。

「一人飲み」のお作法

1. 格好

やはり老舗居酒屋は、Tシャツ短パン、ビーサンはまずい。せめて襟つきシャツと綺麗なジーンズとスニーカーで。

2. 店選び

下記に名店を挙げておいた。難度(格式高く、年配の紳士が多い)も書いてあるので、好みに応じて出かけると良い。

3. 滞在時間

最大二時間。長っ尻はしない。

4. どこに座るか。

空いているなら、断然カウンターである。難度は高くなるが学びの多いのはカウンターである。

5. 姿勢

猫背、背もたれよりかかり、腹出し姿勢、脚組み禁止。背筋を伸ばし、すくっと座ろう。その方が酔わないし。お酒もたくさん飲める。

6. おちょこ、盃の持ち方

「出世酒場クラス~ビジネスの出世極意は酒場で学ぶ!~」より

 

男性ならば、親指と人差し指、あるいは親指と中指の腹でつまむように持ち、そのまま親指の上に唇をつけるのではなく、少し手首を返して親指と人差し指(または中指)の間から飲むと、かっこいい。唇も隠れて上品。

女性の場合、同じようにして閉じた逆側の手を盃に添えて飲むか、親指と人差し指、中指を天に向け、その上にちょこんと盃をのせるようにして、逆側の手のひらで、隠すように添える。

7. 会話

黙っていればいい。カウンター内のご主人と話す必要も、料理や酒の感想を伝える必要もない。姿勢良く黙って飲むだけでかっこいい。

8. 酒の注文

好きなように飲めばいい。ただ常連客を見てみよう。大抵が燗酒である。若い客が来て、ビールも焼酎も頼まず、「ぬる燗お願いします」と言われたら、これまたできるやつだなと思ってしまう。

自分の酒量をわきまえておくこと。平均は、お酒三合といったところだろう。1合を20〜30分かけてじっくり飲むペースが良い。

9. 肴の注文

「出世酒場クラス~ビジネスの出世極意は酒場で学ぶ!~」より

 

 

一度に頼む皿数は2品がベスト。最初は、刺身や青菜のおひたしなど味が軽いもの。続いて江戸の居酒屋からの定番「ぬた(わけぎなどと魚介を酢味噌で和えた料理)」があれば必ず。野菜の煮物や魚の煮物、揚げ物と重量級の料理に移り、最後は酢の物やお漬物など軽いものに移行すると美しい。

「出世酒場クラス~ビジネスの出世極意は酒場で学ぶ!~」より

 

もちろん締めで炭水化物は、お好みで。

10. カウンターでの注意

他人の領域は汚さない。はみ出さない。自分のスペースでゆっくりと飲むが、綺麗に飲む。スマートフォンは机上に置かない。デジタルデトックスもいいものだ。

 

破ったおしぼりの袋や使わない箸袋は、こっそり自分のポケットにしまう。箸置きがない場合は、器に少しかけるか、箸袋で箸置きを作る。器の上に割り箸を渡さない。

ちなみに割り箸は、上下に引張って割る。左右に引っ張ると勢い余って人にぶつかる可能性があるため。

 

以上、本当はまだまだあるが、この基本で十分だろう。次は僕がひとり酒を始めた頃の実話を話そうと思う。

 

 

マッキー牧元オススメの老舗居酒屋

「一人飲み初心者はここへ行け」難易度★『みますや』

「上級者さんはこちらにチャレンジ!」難易度★★★『シンスケ』