タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載がスタート。若者たちに客上手になってもらうべく、食に関する知識だけじゃなく、攻略法もお届けする。裏テーマは“青年よ、大志を抱け”。
外食力の鍛え方〜客上手になろう~
人は鮨屋が怖いという。
なぜ、あらゆる飲食店の中でダントツに怖いと思う人が多いのだろう?
「怖い」と答えた人は、以下の理由を挙げる人が多い。
1. 外から店内の様子が見えない。
2. 注文の仕方がわからない。
3. ネタ札が読めない。
4. 目の前に店主や職人がいるのに、何を話していいかわからない。
5. 相応の知識なり教養がないと職人に失礼じゃないだろうか。
6. いくら取られるかわからない。
7. 無口で頑固そうなご主人が多い。
8. さらには、怒りっぽい人が多いような気がする。
9. 主人が怖い上に、他の常連客たちの視線も怖い。
確かにそうである。しかし今に比べて、30年前はもっと怖かった。
何しろおまかせコースというものがない。お客さんは、銘々が好き勝手に頼む。
つまみで飲む人もいれば、握りから入る人もいる。
目の前にネタ札が下がっているものの、値段は明記されていない。
今のように店内の写真や握りの写真、他人が訪れた感想や払った金額が、事前にはわからない。情報は口コミか、数少ないガイドブックだけ。
こういう状況の中で、あそこの鮨屋が美味しかったからと、いきなり行く人はいなかった。
たいていのサラリーマンのカウンター寿司デビューは、上司に連れて行かれると決まっていたのである。
「今日のコハダは締めが浅いね」「おっ。つきんぼうがあるのか。それをもらおうか」「おぼろを巻いてちょうだい」と、意味不明な言葉を連発し、寿司職人と談笑する上司を見て「いつかは俺もああなりたい」と、憧れを抱くのであった。
接待でもよく使われ、老練な一人客もいる。
だから鮨屋というのは、長らく男性偏重の社会であった。
こんな場所に、20〜30代の若造が一人で行くなんてとんでもないという不文律もあって、行く場合は常連客か行きつけにしている上司と行くというのが成道であったのである。
しかし今は違う。十数年前からのおまかせコースは、酒の値段とともに明記され、予算が立てやすい。
若い職人も増え(前は、早くて40歳過ぎてからの独立だった)、若い客も増え、女性同士やお一人様もいる。
それでもまだ怖いというイメージがあるという。ならば10の秘訣を伝えよう。
1. 一軒の店に通う
2. 若い店主の店を選ぶ
3. 昼のお決まりを狙う
4. お好みなら、トロと雲丹、赤貝以外を全部おまかせ
5. 現金を多目に携える
6. 一番上等な服を着る
7. 出されたらすぐ食べる
8. 箸に自信がなければ、手で食べる
9. 口に入れたら目を閉じる
10. ほめるなら香りを
以上。それぞれの説明は次号にて。
マッキー牧元の「今週はここに行け」
■お財布に優しい鮨屋
「やすみつと読む。基本おまかせコースは若主人が付け場に立つが、このご主人が気さくでとても良い。ケッコウ飲んで食べて二万円以内」
■奮発したいときの鮨屋
「基本お好みでお願いする。ネタ札に値段表記なし。いぶし銀のような技を持つ老主人が一人付け場に立つ。江戸前の仕事が美しい」