予約の取れない中目黒の人気店「鮨おにかい」「鮨おにかい+1(たすいち)」は食べログマガジンでも注目のお店として紹介してきた。そんな「鮨おにかい+1」のお隣の個室スペースに、完全予約制の店舗「吉次蟹蔵(きちじかにぞう)」が2021年4月1日にグランドオープンした。
もともと「鮨おにかい+1」が営業している場所は蟹鍋をはじめとする鍋料理の専門店「吉次蟹蔵」があったところ。人気店だったが新型コロナウイルスの影響もあり、鍋業態での営業は一旦閉店とし、寿司屋として再出発した。しかし、あの蟹鍋が食べたいというリクエストも多く、個室スペースを使って完全貸切の新店舗として時代に合わせた形で復活した。
席は全6席と非常にコンパクトながら、どの席からもカウンター内での調理を眺めることができ、和気藹々とした雰囲気が醸成されやすくなっている。予約は4名から可能で、その場合2席は空席のまま、グループごとの完全な貸切での営業が特長だ。
店主を務めるのはミシュラン一つ星を獲得した「天婦羅みやしろ」の二番手、岡野氏。ホテルでの和食経験もある岡野氏が先付からお造り、天ぷら、鍋、デザートにいたるまで全て1人で調理をこなす。それゆえボトルのドリンクはセルフで店内の冷蔵庫から選び、抜栓も客が行う。飲み物の持ち込みも1本2,000円から可能なので仲間と好きな酒を楽しみたい。
コースは「天ぷらコース」が12,000円、「名物毛蟹大根鍋」が1台4人前で12,000円。天ぷらと鍋で一人当たり15,000円が目安だ。毛ガニ鍋が名物ではあるが、天ぷらコースだけでの利用も可能。
先付は「帆立とホタルイカと春の山菜」。先付を食べている間にカニを捌く時間を確保するため、あえて多めのポーションに仕上げている。フレッシュな山菜に醤油ベースのドレッシングがよく合って、さっぱりといただける。
先付けを堪能している間にどんどんと毛ガニを捌き、土鍋に火が入れられる。
「鍋」と言っても全て岡野氏が作って取り分けてくれるので、座って完成を待つだけでいい。
次に提供されたお造りは鮪の漬け。目の前でさっと漬けにする過程も至近距離で眺められる。
寿司屋と同系列の強みで、ネタは間違いない。
お楽しみの天ぷらは車海老の頭部分からスタートし車海老の身へと続く。海老はむきたてではなく、時間をおいて甘みを引き出す。
油は「天婦羅みやしろ」と同じく、米油、太白胡麻油のブレンドでカラッと軽く仕上がる。
天ぷらにつける塩は昆布だし、椎茸だし、三温糖を加え煎りなおしたオリジナル。甘みと旨みのある天ぷら専用塩だ。
「鮨おにかい」「鮨おにかい+1(たすいち)」の名物メニュー「海老天海苔巻き」もコースで提供されるのがうれしい。こちらでは甘みを抑えたタレを使うため、違いが楽しめる。あおさの入った有明海苔がパリッと香ばしい。
海老は定番だが、魚や野菜は季節によって旬のものが使われる。この日の魚は「太刀魚の大葉巻き」。数時間寝かせて旨味を引き出した太刀魚はふわっと軽やかだが水っぽさは皆無。
野菜は春らしく竹の子、蕗の薹やタラの芽などの山菜が提供された。
天ぷらの味が間違いないのは予想通りだが、もう一方の主役「名物毛蟹大根鍋」もオリジナリティ溢れる味わいだ。“丸ごと一杯の毛ガニ”を贅沢に使った鍋は、前半・後半の2回に分けて提供され大根の煮込みの変化を楽しむ趣向だ。
鍋の大根は昆布出汁に輪切りの唐辛子を入れ下茹でし、味噌は創業以来300年以上、東京深川で作られ続けている「ちくま味噌」を使用。さらにバターを加えることで蟹味噌の風味と相まって濃厚な味わいになっている。前半では昆布出汁の風味、後半では味噌が染み込み違った味わいに変化する。
一番のお楽しみと言っても過言ではないのが〆の雑炊。さらに追いバターをしてコクを出し、仕上げにいくらをアクセントに加える。思わず白ワインが欲しくなる、濃厚なリゾットのような唯一無二の雑炊だ。
まだまだ外食するのに気を配る時代が続く中、気のおけない仲間と少人数でおいしいものを味わうニーズは今後も高まるだろう。そんな今の時代にピッタリなお店の誕生は嬉しいニュースだ。