職人ごとでまったく食味が異なる天ぷらの奥深さ

「江戸前天ぷら」として谷口さんが大切にしているのは、加工していない素材を使うこと。寿司で江戸前といえば職人の仕事を施したものだが、江戸前天ぷらは良い素材をそのまま使い、いかにその素材が一番おいしい状態で提供できるかにかかっているというのが師匠・早乙女さんの教えだ。

例えば、江戸前天ぷらに欠かせない海老は火入れが難しく、海老の出来具合が天ぷら店の実力の見せどころでもある。一般的には海老の背が丸まらないよう包丁で切り込みを入れるが、みかわ流は指で関節を外す(のす)。切り込みという加工をすることで、わずかでも火の通りが早くなってしまうのを防ぐためだという。これも、鮮度の良い「活きている海老」を極力最高の状態で提供するための、みかわ流のアプローチなのだ。

「天ぷら やぐち」
2,000円の天丼の食材。ピーマンの苦みがアクセントとなり、いくらでも食べ進めることができる。

食材は、江戸前天ぷらの基本は東京近郊の海で上がる魚介類が中心だが、今後は「みかわ」でも使っていなかったような素材に挑戦したり、新しい野菜も試したりしてみたいという。

数百年もの間、培われてきて今もなお残る「天ぷら」「天丼」という料理。これからもまだまだ進化をしていくのかもしれない。

「天ぷら やぐち」のランチ天丼2種
深めの丼でボリュームがあるが、あっさりした丼つゆと絶妙な揚がり具合でさくっと食べられる。

※本記事は取材日(2021年1月21日)時点の情報をもとに作成しています。

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取材・文:岡崎たかこ(grooo)

撮影:松村宇洋