「みかわ」の文字に名店の誕生を予感させる!

壁には名付けてくれた早乙女氏直筆の店名を刻んである

最新食エリアとして注目の的の虎ノ門ヒルズ界隈に、静かにオープンした「あらたみかわ」。その謙虚さとは裏腹にグルメたちをざわつかせています。それもそのはず、こちらは当代きっての天ぷらの名手と謳われる「みかわ是山居」の早乙女哲哉氏から卒業証書を授与し、独立した小川比佐男さんの店だからです。

店主の小川比佐男さん

小川さんは「みかわ是山居」に7年、「けやき坂通り店」ではランチで揚げ場に立ち4年勤め、早乙女氏から免許皆伝、独立に至りました。地元が門前仲町の小川さんにとって「みかわ」は高嶺の花。自分がそこで働くなど夢にも思っていなかったそうです。

「みかわ是山居」を彷彿とさせる色調の内装

「面接の時はみかわの旦那(早乙女氏)の威厳に圧倒されましたが、できないからといって怒鳴ったりすることは一切なく、どんなことでも優しく教えてくれました。また、私たちが雑用だと思ったことが実は必要なことで、旦那は決して手を抜くことがありません。板場はいつも片付いていて掃除も誰よりもきれいにされます。そういう意味で仕事としては厳しかったけれど、技術も人間性も本当に尊敬できる。だからとにかく旦那の真似をすれば技術も料理人としての姿勢も理解できると思いました」と。

壁には早乙女氏直筆の免許皆伝書が飾られている

そうやって目の前の仕事を懸命に励むことで実力をつけていった小川さん。「みかわ」で10年、揚げ場で4年が経ったことで独立する決心がついたそう。「店名は“新しいみかわ”という意味で旦那につけていただきました。みかわで日々やってきたことを変えずに続け、新しい食材にも挑戦していきたい」と、意気込みを語ります。

車海老、鱚、烏賊、師匠譲りの圧巻の技!

車海老の筋は切らずに抜く(のす)とダメージを与えず真っ直ぐに揚げられる

天ぷらの顔といえば「車海老」ではないでしょうか。バットから飛び出してしまうくらいの活きの良い車海老の頭と身を分け、頭のツノと尾のトゲと背ワタを取り、素早く殻を剥きます。水分が溜まっている身の真ん中は“のし”て、尾の先端は切り落とします。味噌も水分が多く、つけたまま揚げると油が焦げて臭みが出てしまうので使いません。この潔さがおいしさにつながるのです。

頭は衣を先端に少しだけつけて揚げる

油はうまみと香りをつけるための「太香胡麻油」と油を傷めず高温を保つための綿実油をブレンドしています。車海老の頭は触覚を持ってブランコのように2、3度振り、余分な粉を落として油に投げ込みます。油が傷まないようにすぐに揚げ玉をすくい、ゆっくりと火入れします。

「車海老」

「みかわ」に倣い、身、頭の順に2つずつ供されます。はじめは塩で、次に天つゆで食すのがおすすめ。サクッといい音がし、噛むごとに海老と油が融合した香りがどんどん広がってきます。あぁ、なんという口福!

油の泡も細かい!

「鱚」は切った断面から水分が抜けるので、皮と身が均等に揚がるように身の方だけ生粉をつけます。表面にあがってこようとする水分をこまめに返すことで中に閉じ込めていきます。火加減を調整しながら仕上げは皮面を上にして高温になったところで引き上げます。

「鱚」

この美しいアーチ状に揚がるのが鱚の皮面に油が溜まっていない証です。サクッとした歯切れ良い衣の後からくるフワッとした食感は蒸しでもなく焼きでもなく、異次元の感覚です。「水分の含有量でおいしさが決まります」と小川さん。最後のひと齧りまで湯気が立つのは名人技!

「新烏賊」

今の時期しか味わえない「新烏賊」はサッと揚げるのが鉄則。ほんの数十秒なのにさっくりとした歯応えの後に感じる「新烏賊」ならではのやわらかさ、たまりません!