新たなタネで新境地を開く!

「銀杏」

秋の味覚「銀杏」も天ぷらで人気のタネ。翡翠色が美しい「新銀杏」の持ち味である苦みともっちり感が存分に引き出されています。これから黄色く色づき、うまみが増してくると揚げ方も変えるそう。それも楽しみ!

「春子」

「みかわ」では供することがなかった「春子」は優しく揚げ、ふんわりとした食感に。江戸前のタネが獲れなくなってきたこともあり、今まで使っていないタネを「みかわ」の技術でおいしくする、これが“新しいみかわ”だと話します。次は「蛤」がお目見えするかも?

クライマックスは箸でパンッと割る「穴子」、そして「〆飯」へ

「穴子」はじっくり、ゆっくり火を入れる

「穴子はクセが強いので身はふっくら、皮は焼いたように香ばしく揚げたいんです」と、時間をかけて油の中で泳がせます。仕上げは皮面を下にして火力全開にして待つこと数十秒。しっかりと揚げきってからステンレス箸に持ち替えて引き上げます。

薄過ぎず厚すぎずの絶妙な加減の衣

さぁ、待ち焦がれたその瞬間がやってきました。箸を上から落としてスパッと真っ二つ! 中からふわ〜っと立ち上る湯気に歓喜の声があがります。衣はサクサクとしっとりが共存し、皮はカリッと香ばしい。その奥からフワッフワのふっくらとした身が現れます。塩も天つゆも必要ないくらいしっかりとうまみを閉じ込める技術は、さすが名手のお墨付き!

「天丼」と大きなしじみが入った「赤だし」

〆は天丼か天茶をチョイスします。均等に火を通すため卵を多めにした衣を纏った「青柳の小柱のかき揚げ」はサクサクとした軽い仕上がり。砂糖を使わず味醂で味を調えた「かえし」は甘さを感じさせず、小柱のうまみを際立たせます。

天ぷらの“三種の神器”は衣、タネ、油

この太い木製の「花菜箸」で粉を混ぜる人も少なくなったそう

天ぷらの根幹をなすのは「衣」「タネ」、そして「油」です。小川さんは、振るった小麦粉、卵、水は冷蔵庫で1日寝かせ、一定の温度にしてから作ります。「卵と粉を“混ぜないように混ぜる”のです。みかわの旦那はこれを“粉を解く(と)く”と言いますが、グルテンを発生させないよう、上半身と肘を使って粉をほどくように混ぜます」と、独特な動きで衣を完成させていきます。

「混ぜ方も量もひたすら繰り返すと体が覚えてくれます」

「ボウルの中の衣はタネをつける上の部分が一番濃厚で、底にいくに従って薄くなるように層ができています。揚げはじめは上の層しか使えないのですが時間と共に粉が沈んでいき、だんだん底の層も上と同じくらい濃くなって使えるようになるので、衣を作り足す必要がない。これが『みかわ』の技術です」(小川さん)

色といい艶といい、タネの素晴らしさに惚れ惚れする

「はじめはよくわからないまま作っていたのですが、お客様の人数、食材の大きさ、温度、湿度……、一本一本の揚がった状態を見て衣がどう変化したのかを記憶に留めていくと、自ずとどうすれば良いか感覚で掴めるようになります」とも。衣作りは少しのミスが命取り。混ぜ方一つ間違えただけで作り直すしかありません。それだけに毎回、膨大な記憶のデータをもとに緻密な計算をして完璧な衣を作り上げるのです。

揚げ終わった衣液は底までもったりとする

「天ぷらは揚げあがりの時間を計算して油の温度と量を決めています。ゴールをイメージしないとスタートできない」と言う小川さん。それは個々の揚げ始めと終わりのことだけでなく提供するタネ全体に対しても言えること。揚げているタネのことに集中していながら頭では次に揚げるタネのことを考えているそう。衣も油も感覚的だと思いきや、実は論理的だと知り、驚くばかりです。

小川さんの笑顔はほんわかとした空気感を作る

「『みかわ』出身の店は何軒もありますが、スタイルは確かに『みかわ』でも、衣、油はそれぞれの性格が出ます」と言うように、小川さんの衣は最初のアプローチはサクサクと軽く、その後にしっとりとしたベールのようにきめ細か。また油のくどさを感じさせないので食べ疲れることがありません。おそらくあっという間に予約困難店になる予感! その前に是非とも味わっておきたい!

※コース:17,600円(税込)


文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:溝口智彦