天ぷらの神様の教えを受け継ぎ、進化させた天ぷら

谷口さんは、江戸前天ぷらの名店「みかわ是山居」の店主であり江戸前天ぷらの神様とも呼ばれる早乙女哲哉さんのもとで、研鑽を積んだ料理人。卒業後に上京し、最初に入った「みかわ」で22年間、天ぷらと向き合ってきた生粋の江戸前天ぷら職人だ。

天ぷらは、揚げ時間0.5秒、揚げ油の温度1度で食感などが異なっていく繊細な料理。

天ぷらは衣をつけて油で揚げるだけというシンプルな料理。シンプルなだけに素材のポテンシャル、衣の厚さ、揚げるタイミングなど、わずかな違いが大きな味わいの違いを生む。天ぷら職人は一人ひとり己が理想とする揚がり具合、おいしさがあるそうで、同じものを揚げても皆違うものになるという。「みかわ」で修業した谷口さんも、師匠である早乙女さんや兄弟子とは、揚げる温度やタイミングにわずかな違いがあるそうで、奥が深い。

「天ぷら やぐち」2000円のランチ天丼
2,000円の天丼。一つひとつの食材を楽しみながら食べることができる。

もちろん、丼にのせる天ぷらと夜のコースの天ぷらでは、衣の濃度も変えている。丼はつゆにくぐらせご飯と一緒に食べるため、とろみを高めて少し厚めに衣がつくようにする。一方、一品一品、揚げてすぐに提供する夜のコースでは、薄くつくようさらりとした衣にし、サクっとした食感も楽しめる。

「天ぷら やぐち」内観
店内は8席のカウンター席のみ。緩やかなカーブで揚場を囲んでいて、揚げたてが食べられる。

そう聞いてしまうと、やはり夜のコースが気になる。夜は13,200円のコースのみで、途中に箸休めの小鉢を挟んで全10~11品の天ぷらが提供される。コースの最初は「みかわ」同様、揚げ方にこだわった車海老だ。こちらは2匹のうち1匹は塩でいただきたい。広島・呉の藻塩で、柔らかな塩気が旨味を高めてくれる。そのあとは天つゆでもいいのだが、そのまま塩でいただく人も多いそうだ。

コース内容は季節や仕入れによって変わる。この日は良い白魚が手に入ったとのことで白魚の天ぷらをいただいた。淡い味わいながらも甘みがたっぷりと引き出された白魚は、思わず酒が進んでしまいそうだ。締めは貝のかき揚げをのせた小天丼か天茶漬け。皆、かなり悩むそうで、どちらも同じくらい人気がある。

「天ぷら やぐち」夜のコース(抜粋)
普段は1人前ずつの揚げたてが供されるが、こちらの写真は2人前の白魚。