フードライター・森脇慶子が注目の店として訪れたのは、東京・三越前「蟹王府」(シェワンフ)。日本初上陸となる上海蟹料理専門店の実力はコースのみならず、アラカルトやランチも抜群との噂を聞きつけ、いざ実食!
【森脇慶子のココに注目 第31回】「蟹王府 日本橋店」
上海蟹といえば、中国料理の秋冬を代表する旬の味。だが、それを一年を通して楽しめる専門店が、昨年12月、日本橋三越前にオープンした。
上海でミシュランの一つ星を誇る名店「成隆行 蟹王府」(セイリュウコウ シェワンフ)の日本初上陸店「蟹王府」がそれだ。世界的に著名な美食家・蔡爛氏も、「一生に一度は訪れるべき最高のレストラン」と絶賛する人気店だ。
専門店を謳うだけに、上海蟹料理の定番の「蒸し蟹」や「酔っ払い蟹」はもちろんのこと、そのレパートリーの広さはさすが。店で扱う上海蟹は、すべて太湖にある自社の養殖場で育てている。
しかも、安心・安全を第一に年に4回抜き打ちの免疫検査を行い、品質を保っている点もポイントが高い。東京店へは、毎週2回、火曜日と木曜日に生きたまま空輸されてくるそうだ。
残念ながら、「姿蒸し」は一月いっぱいで終了予定だが、スペシャリテの「氷結蟹」など、そのほかの上海蟹料理はいつでもOK! なかでも、「蟹王府 特製氷結蟹」一杯3,500円は、同店のオリジナルだ。
生きた上海蟹を、ニンニクや香菜などで下味を付けた後、マイナス40℃で瞬間冷凍したもので、溶けかかってきた蟹にしゃぶりつけば、シャーベット状の食感の中、ほのかに香るニンニクの香りが食欲をそそる。舌にひやっと感じた後、舌に残る身の繊細さは、火を通した上海蟹とはまた一味違う味わいだ。他所にはない逸品ゆえ、ここに来たなら、一度は味わってみたい一皿だろう。
これら、様々な上海蟹料理が並ぶコースは、25,000円〜50,000円。だが、もう少しリーズナブルに楽しみたい、あるいは、自分の好きなものを好きなように食べたいという人は、アラカルトを試してみるのも一案だ。
そこで、おすすめしたいのが、日本橋限定の「手羽先の蟹肉五目詰め」一本1,000円。広東料理で見かける“手羽先のフカヒレ詰め”のアレンジ版で、中には、上海蟹の身とメスの蟹味噌、餅米を入れ、生姜の粉をまぶして揚げてある。
ぷっくりと膨らんだ手羽先は、思いのほか食べ応えがある。揚げたてアツアツの皮はパリっと香ばしく、もっちりした具とのコントラストには思わず笑みがこぼれそう。手羽先自体にもニンニクや生姜で下味を付けてあり、こうした細やかな手間暇が、後を引くおいしさを引き出しているのだろう。店で食したあと、在庫をすべてテイクアウトした強者もいたそうだ。
食べ応えのある料理なら、「蟹肉入り春雨土鍋炒め」もいい。3〜4人前で3,000円とお値段もリーズナブルなうえ、ボリュームも充分。
たっぷり入った蟹肉もさることながら、この料理の主役は、ある意味春雨。鶏の白湯と清湯で戻しつつ下味を付けたそれは、上海蟹の旨味を更に吸い込み、滋味豊かな余韻を舌に残す。
また、上海料理の名菜“獅子頭”(大きな肉団子の煮込み)と上海蟹とのマリアージュを味わえるのが、「国産豚肉団子の蟹肉あんかけ 酸味スープ添え」2,500円。味噌入りの蟹肉あんの濃密な旨味もさることながら、驚かされるのは、空気を含んだかのようなエアリーな豚肉団子の柔らかさ。
聞けば「赤身と脂身の比率がポイント」と、上海の本店から来日した張志文(チョウ シブン)総料理長。脂身4に対して赤身6が黄金比率だそうで、粘り気が出るまで必ず手で練り、ゆっくり3時間かけて茹でる手間暇もソフトな食感の秘訣だろう。
添えられた一口スープは、胡椒風味の酸辣湯。絹糸の如く細く浮いているのは、細く手切りにした豆腐。こうした何気ない一品にも、卓越した技が光る。
手羽先揚げと獅子頭は一人前ずつだが、氷結蟹と春雨の料理は、ゆうに3〜4人で楽しめる。このほか、小籠包や肉饅(もちろん上海蟹肉入り)を追加するもよし、「蟹肉入り坦々麺」で〆るもよし。これなら、飲み物は別として一人10,000円〜15,000千円程度で楽しめそうだ。
ちなみにランチには、担々麺をメインに上海蟹入り小籠包と前菜が付いて2,800円と同店にしてはお手頃価格。まずはランチから試してみるのも一計だろう。辣味とごまだれスープの深みが程よく混ざり合う担々麺は、麺も自家製。担々麺好きの日本人のために張総料理長が考案した一品だという。
また、コロナ禍の折、ほぼすべての料理はテイクアウトが可能。個数が間に合わなかったり、時間がかかったりする料理もあるため、事前予約が賢明だ。
※価格はすべて税・サービス料別