ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第17回は、「食べログ ハンバーガー 百名店」3年連続選出のハンバーガー名店「R-S」(アールズ)の魅力をじっくり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第17回「R-S」

2020年は大変な一年でした。皆さま、お疲れさまでした。そんな一年の締めくくりに、今回は特別な御題を用意しました。「国内でもぶっちぎりの名バーガー店『アールズ』は、なぜ名店なのか?」――その秘密に迫り、名店たる理由をいつもより“字数多め”でじっくり解説していきます。

アールズは千葉県松戸市の「小金原団地」の中の、商店街の一角にあります。2つある最寄り駅のどちらから行ってもバスで15分。正直アクセスは良くないですが、「食べログ ハンバーガー 百名店」に3年連続で選出され、平日でも開店前から“待ち”ができるほどの人気店です。

扉を開けると、店主・島本さんの趣味全開の「おもちゃ箱」のような店内。松戸のお隣、柏の古着屋文化の系譜とお考えください。現在、席数を増やすべく、隣の空きスペースを改装中。奥半分は妹さんが経営するドッグサロン「R」。

そんなアールズを、私はこの秋6年ぶりに訪ねて、看板メニューの「リアルバーガー」を11年ぶりに食べたのですが、これがまぁ~~おいしいこと! 「年に一度あるかないか」の傑作であることが既に9月の時点で確定した、それぐらい強烈な逸品でした。

「リアルバーガー」1,450円。後味も和牛の旨味とコゲ味。ちょっとほろ苦く締まるところもまた良し

これがその「リアルバーガー」です。国産和牛100%、170gパティのバーガー。よく焼いた和牛パティの上に目玉焼き、チェダーチーズ2枚半、テリヤキソース、卵とチーズの間にマヨ、パティとバンズの間にまたマヨ。野菜ナシ。

とにかく“肉”の味と香りがメチャクチャ良いバーガーです。粒の粗い和牛の挽肉が強めに焼かれて「ほろほろ」と口の中で芳ばしく崩れる、そこへエッグとマヨネーズが一体化して、ねっとりまとわりつくような味わい。ソースがかかっていますが、でも、テリヤキ味でもなくて、味わいの中心は“肉”。すべての材料が一歩引いて、肉の味が最も立つよう絶妙に計算された、そんなバーガー。

「ツオップ」が焼くアールズ専用バンズ。てっぺんにカボチャのタネ。濃いこげ茶色の表皮からは苦味と甘味が漂う

このバーガーをサポートするのが、名店「ツオップ」のバンズです。やわらかくて、かぶりつきやすい、収縮性に富んだ“バネ”のある生地で、“密”過ぎず、“スカ”過ぎず、中身を邪魔しない絶妙な存在感を発揮しています。何より、肉に対するこのバンズの“受け”の良さ。詳しいことをツオップさんに聞いてみました。

全国屈指の名パン店「バックシュトゥーベ ツオップ」は、アールズと同じ小金原団地内にあります。店名通りのドイツ系の食事パン・菓子パンから、あんぱん・カレーパンまで、あらゆるパンが店内狭しと並んでいますが、ハンバーガー用のバンズの製造は現在アールズの分のみ。

「食べログ パン EAST 百名店」に4年連続で選出された名店中の名店「バックシュトゥーベ ツオップ」

そのアールズ専用バンズのサイズは焼成前90g。かなりボリュームを出す、「大きく作る」系のパンで、既に発酵の段階で焼成後と変わらないくらい膨らんでいるそうです。表面の濃い焼き色は高温で焼き込んでいるため。生地にはジャガイモが練り込まれていて保湿性が高く、「もっちり」していますが、でも「べちゃっ」とはしておらず、弾(ひ)きの強さを感じます。

「ツオップのパンは味が濃い方だと思う」と、店舗を統括する総リーダーの上田怜さん。塩も砂糖もしっかり使ったリッチなパンで、だからバンズも単体で食べるとけっこう味が強いのだと。でも、リアルバーガーを食べてそう感じなかったということは、つまり、それだけ「肉も強い」ということです。強いパンと強い肉。強いモノ同士がガッツリ組み合い、その力の均衡の上にアールズのバーガーは成り立っているという、ここが大きなポイントです。

なお、頼むバーガーによっては、バンズとパティの力関係が「逆転する」場合もあります。パンを強く感じたいか。肉を感じたいか。そこを考えながらメニューを選んでみてください。

ツオップの「クリームパン」180円(税抜)。数あるツオップのパンの中でも群を抜くおいしさ!

さらに興味深いのは、まずツオップのバンズ「ありき」で、バンズに合わせて「すべて味付けを考えていった」と、島本さんが語っている点です。ところが、食べた印象はまるで逆で、リアルバーガーなどは「これでもか!」というぐらい“肉”が先に来ます。その辺が“調整の妙”と言いますか、食材それぞれの特徴を熟知した上での構築力と言いますか。つまり、アールズのバーガーはよく「設計されている」ということです。ここもポイントです。

オージービーフパティのグリル中。和牛とオージーとでは焼き方も変わるそう

次はパティの話をします。アールズのバーガーメニューは昼夜合わせて26品。パティは国産和牛170gのほかにもう1種類、オージービーフ130gパティがあり、品数の上ではオージーの方がメインです。和牛パティのすごさは十分思い知りましたが、では、オージーはどうか……。

「Wチーズバーガー」1,500円。なお、ガーリックはかかるソースによって使用・不使用が変わるそう。しかもそんなことはメニューに書いてません(笑)

おすすめは「Wチーズバーガー」。オージー130gパティ2枚のバーガーです。食べてみると……こちらも肉がおいしい!「どうだ!」と言わんばかりのわかりやすい和牛のおいしさに対して、オージーはクドクドしくなく、あっさりしていて、人によってはこちらの方が好みかもしれません。私はどちらもイケます。

しかも、リアルバーガーと同じ「芳ばしい」香りがします。このスナック感あふれる香りの素はガーリックパウダー。でも、“ガーリック味なバーガー”ではなく、牛肉らしさを巧く引き出しておいて、あとは「肉の力に任せる」といった感じの適切な用法で、BBQソースもちょろっとのっているんですが、でもBBQ味ではないという――その辺の味の組み立て方にアールズの特徴があります。あと、余計な汁気が出ないのも基本的な部分で優れたところ。

「テリヤキエッグバーガー」1,200円に手作りチリビーンズ250円のトッピングで1,450円。このバーガーと和牛パティを使った「THE・バーガー」だけがグリルドオニオンで、あとのバーガーは生オニオンという細かな使い分け

こちらもオージービーフのバーガー、「テリヤキエッグバーガー」にチリビーンズのトッピングです。チリはオージー&和牛の挽肉+和牛脂にひよこ豆、キドニー豆、炒めた玉ねぎ。メチャクチャ煮込んでこの色合い。甘くてスパイシーでパワフル。エッグの黄身のおかげでねっちょり濃厚。アールズらしい「こってり」としたバーガーの代表格です。

なお、チリを使ったバーガーは2品しかないのですが、常連の間では、リアルバーガーにチリをのせた「チリアル」なる食べ方が流行りだそう。さらに追加情報……リアルバーガーには「リアルしか食べない」という熱狂的なファンが付いていて、ついには「リアルバーガーTシャツ」まで作ってしまったという、そんな人もいらっしゃいます。

「グリルドチキンサラダ」980円。同じく白髪ネギとゴマソースを使った「サムライバーガー」というメニューも

もう一品、夜の人気メニュー「グリルドチキンサラダ」をご紹介します。これで3~4人前。ハーブ&スパイスに漬け込んだ鶏もも肉のグリルが200g近く。ドレッシングはチョレギとゴマソース。白髪ネギの辛味と、その下に隠れたコーンの甘味が良い対比です。足繁く通う常連客しか食べない、アールズの知られざる一面です。

店舗隣の空きスペース。ここを一部改装して店内を少しだけ増床する計画が進行中

アールズの名店の理由――最後は“人”です。「最初の3、4年はここじゃ無理かな」と思ったという島本さん。「独りだったらやめてたかも」というところを、折に触れ、励まし・盛り立てた新旧のスタッフたち。そして常連さん。味だけじゃない。店を持つのはすごいことだけど、それだけじゃない。流行るも人柄。続くも人柄。「最終的には人」なんだと、島本さんはそう言っておられました。そんな島本さんを支えた元スタッフ・みのるさんは現在、東京・六本木にバーガー店「アルデバラン」を構えて大活躍中です。

あとは、ツオップとアールズという名店を2つも生んだこの団地そのものに何か秘密があるかもしれません……(笑)。私の中では「千葉県最強のパワースポット」はここ、小金原団地ということになっています。どうぞ皆さまもパワーをもらいに行ってください。運気上がるかも! よいお年を!

※「アールズ」の価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年12月20日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文・撮影:松原好秀