【定食王が今日も行く!】

創業100年の鮮魚店が、鯖食1400年の歴史を変えた!?

 

日本における鯖食の歴史は古く、平安時代の書物には、「鯖の糖味噌焼き」が言及されている。また鯖は傷みやすく獲れる量も多く、漁師が早口で数えるので数が合わなくなるため、「サバを読む」という言葉が生まれたほど、昔から大量に食されていた食材。そんな日本人の食卓の定番「鯖の味噌煮」の概念を変えたのが、明治中期から100年続く渋谷の老舗鮮魚店「魚力」だ。

 

初めて訪れたのは、渋谷界隈に住んでいた12年前のこと。まだ神山町が“奥渋谷“と呼ばれるずいぶん前だ。私の記憶が確かならば、タモリさんが「いいともが終わった後に行く店」として紹介していたのがきっかけだ。

 

一見すると魚屋にしか見えないので、初来訪だと見逃してしまうかもしれない。入店すると入り口にある、発泡スチロールのメニュー札を選んで取るシステムになっている。

 

ちなみにこのメニュー札は裏に番号が書いてあり、店内に貼ってある当たり番号と一致すると、サイドメニューの小鉢が無料で一つもらえる。雨の日には当たりが増えたりするのが、町の魚屋さんらしいおもてなしだ。

 

 

「カミ」か「シモ」か?骨までトロける!

ペットボトル級の極厚さば

 

この店のさば味噌煮には二種類ある。柔らかめの上半身「カミ」と、尾っぽよりでやや引き締まった下半身「シモ」で、こちらは豆腐入りで提供される。昔は2枚におろして煮込んでいたが、骨が付いた側だけが人気があるため、真ん中で切って調理するようになったそうだ。

 

 

骨付きが人気なのもうなずける。なぜならこの店のさば味噌煮は骨までトロトロなのだ。それでいて新鮮で、ぎっしり身の詰まった鯖は充分な食べ応えがある。

 

深さのある器で提供されるため、一見するとその厚みがわからないが、実は500mlのペットボトルほどの肉厚さだ。(※上の写真はカミ)

 

それを少しずつ身をほぐし、白飯の上に乗せて口の中に入れると、味噌の甘みとネギの香りが広がる。この店の他のメニューを紹介した『孤独のグルメ』では、主人公・井之頭五郎が「食べ始めたばかりなのに、ご飯不足が当確」と発する。このセリフが言い表すように、白飯が止まらなくなるような旨味、風味、甘味そしてとろみとプリプリの食感が次々に飛び込んでくる。(ちなみにご飯を残すと、500円の罰金というルールがあるので要注意だ)

 

この柔らかさの秘密は、15時間かけてじっくり煮込むこと。圧力鍋を使わずに水から12時間煮込み、その後に香りづけのネギを加え、味噌で2〜3時間煮込むというこだわりようだ。

 

 

 

ご飯がすすむ小鉢に、旬を食べる

豊富なランチはリピート必至

 

この店にはとにかくご飯がすすむメニューが豊富だ。くじで当たる豊富な小鉢だけでなく、テーブルに常備されたひじきは食べ放題。それはいわゆる甘く煮込んだものでなく、醤油で味付けした、海藻の塩気が引き立つ素朴な味だ。魚屋ならではのしじみ汁もおかわり自由なのがうれしい。夏と冬で味を変えているそうで、汗をかく夏場は塩分を濃くしているという気遣いも。

 

 

さば味噌煮以外にも、看板メニューがいくつもある。脂が乗って、とてもジューシーな鮭ハラス焼や、今が旬のあじなめろう、秋には秋刀魚、冬になれば『孤独のグルメ』に登場したブリの照り焼きにも出会えるかも!?   もちろん、新鮮な魚をふんだんに使った海鮮丼も種類豊富だ。毎回飽きることなく、旬の味をリーズナブルに堪能させてくれる名店だ。実は奥渋には隠れた老舗の名店が数多くある。ハンドドリップコーヒーやおしゃれなカフェだけでなく、何度も通ってほしい老舗の一つが、この「魚力」なのだ。