ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第12回は、スゴ腕のシェフによるアメリカンビストロ、東京・北参道「E・A・T」(イーエーティー) のハンバーガーの魅力をじっくり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第12回「E・A・T

今回ご紹介するのは大変有名なお店です。「食べログ ハンバーガー 百名店 2017」にも選ばれた人気店ですが、2018年に移転されまして、現在、評価をふたたび爆上げ中のその店の名は「E・A・T(イーエーティー)」!

E・A・Tの高橋MICHIシェフと言えば有名人で、NHK「世界はほしいモノにあふれてる」でも、ハンバーガーを求めてLAを旅する姿が取り上げられました。1982年に「Chaya Brasserie Beverly Hills」の立ち上げスタッフとして渡米したMICHIさん。米国での活動は24年に及びます。「Chaya〜〜」の料理長を務めた後、「Michi Manhattan Beach」という自らがオーナーを務めるフレンチレストランを現地に開業。店内100席という大箱でしたが、これが大ヒット。「Los Angeles Magazine」のTOP10シェフに二度選ばれ、著名なハリウッドスターのホームパーティーを幾度となく任されました。

写真前列右から2人目がMICHIシェフ。ロサンゼルス郊外にあったMICHIシェフのフレンチレストラン「Michi Manhattan Beach」にて

帰国して外苑前にE・A・Tをオープンさせたのは2009年。同じ外苑前で一度引っ越した後、2018年から現在の北参道で営業しています。場所は、千駄ヶ谷大通り商店街の途中。すぐ近くに東京メトロ副都心線の北参道駅。JR中央線の千駄ケ谷駅からも歩いて7、8分で行ける、ちょっと静かで、でも、人通りのあるロケーションです。

現在のE・A・Tには“AMERICAN BISTRO”なる副題が付いています。ビストロとはフランス語で「大衆食堂」のこと。その言葉通り、ハンバーガー以外の料理の占める割合が高い、町の定食屋さんといったスタイルのお店です。ただし、とびきりスゴ腕の――。

「カモのコンフィ」1,650円。塩、にんにく、タイム、ローズマリーにひと晩漬け込んだ鴨肉を80℃のラードで2時間かけて煮込んで調理

例えば、MICHIシェフのフレンチの一面が現れたメニューに「カモのコンフィ」があります。カナダ産の鴨を低温のラードでじっくり煮込んだ一品で、エスカルゴバターで炒めたミックスマッシュルームや、ハーブと和えた粒マスタードソースが添えられ、これは赤ワインが最高の友。

「ブリトー カルニタス」ランチ1,100円。角煮状の豚肩ロースが140g。豆とライスと野菜がそれ以上に詰まった満腹必至の一品

E・A・Tは「カルメックス(Cal-Mex、カリフォルニアのメキシカン)」の店でもあります。LAでの二十数年、ずっと厨房で一緒に働いたメキシコ人直伝のメキシコ料理です。中でもカルニタス(豚)のブリトーがおすすめ。

チキンブイヨン、白ワイン、ケイジャンスパイスとともにオーブンでローストした豚肩ロースが、ワカモレやトマトサルサ、メキシコ産のブラックビーンズなどとともにフラワートルティーヤに巻かれたブリトーで、ライスは九州産の丸麦入りごはん。以前はスパイシーな味付けでしたが、今は穏やかな味わいに仕上がっています。

ランチメニュー「豚ロースカツバターカレー」1,300円。くどくないコク味のバターカレーはカカオとエスプレッソが隠し味。キュウリとトマトの自家製ピクルス付き

カレーもあります。「豚ロースカツバターカレー」はシナモンの香りが甘く漂うバターカレーと、コンフィした豚のロースカツが別々に盛られたセットで、ランチの人気メニュー。ほかにも肉ナシの「黒オリーブチャーハン」やタコライス、パスタまで、多彩なメニューが揃っており、すべてテイクアウト可能です。

「シーザーサラダ」1/2サイズ750円にシュリンプ300円のトッピング。注文の度に焼いて作るベーコンビッツ、砕いたコーントルティーヤ、黒オリーブ、パルメザンチーズがロメインレタスの上にのるだけの、シンプルにして至高の一品

なかでもぜひ食べて欲しい私のイチ押しは「シーザーサラダ」。一見何でもないサラダですが、ドレッシングとの絡みが抜群によくて、私が今まで食べた中で一番のサラダです。

「丸ごとトマトとみょうがのピクルス」850円。湯剥きした大玉の完熟トマトを白ワイン、ハチミツ、米酢などで作った液に漬け込み、みょうがとエキストラヴァージンオリーブオイルとともに提供

夏にぴったりなメニューをもうひとつ。「丸ごとトマトとみょうがのピクルス」はキンと冷えた大玉のトマトが丸1個。まるで固形のジュースを食べているかのような爽快な一品で、“ひ~んやり”としたのどごしが美味! トマトもみょうがもOKな人は鉢ごと独り占めしちゃってください!

ハンバーガーは以前よりスタイルが大きく変化しています。人気だった神戸牛のバーガーは今はお休み中で、ビーフはグラスフェッドの豪州牛パティのみ。ラム肉のパティは健在です。サイズはどちらも120g。グリルは溶岩石を敷き詰めた直火焼き。バンズは新宿「峰屋」製のあまり焼き込まないタイプの白いバンズです。

「ワカモレチーズバーガー」1,650円。極粗挽きのパティは“クリクリ”とした歯ごたえ。クリスマス島の塩が利いて、あっさりしているようで食べ口濃厚

以前はデミグラスソースやキャラメルオニオンなどでブイブイ味を利かせていましたが、今は軽めのBBQソースと、底にディジョンマスタードを塗った程度のあっさりとした作りに変化。

「チーズバーガー」などは塩コショウの利き方がはっきりクリアに感じられて、塩味だけで楽しめるバーガーに大変身しています。そこへトッピングのワカモレをのせると、とたんに大暴れ! 静から動へと大きく味が動き出す、見事な味変効果を発揮します。

「ラムバーガー」1,300円にトマトサルサ200円のトッピング。ラムにはケイジャンスパイス。底にハーブ入りの粒マスタード。“しとっ”とした生地感のバンズとラムは相性好し

価格はそのままでラム肉のパティも選べます。肉に振ったスパイスの香りが強く立って、ビーフとはまるで別物のエキゾチックな味わい。そこへ酸味の鋭いトマトサルサを後のせすれば、おいしさが一気に加速して、さらに美味!

「バレンティンバーガー」1,150円。鶏モモ肉なんと220g! 皮目を鉄板でしっかり焼き込んで油を抜いた後、オーブンでロースト。たまごサラダは粗みじんに刻んだケッパー入り

最後は鶏です。「今これがキテる! チキンサンド編」でもご紹介した「バレンティンバーガー」。元・東京ヤクルトスワローズのバレンティン選手がこよなく愛したチキンサンドは、福岡ソフトバンクホークスへ移籍後の今も健在!

看板犬のモモちゃん/撮影:食べログマガジン編集部

外苑前の頃との一番の違いはやはり“モモちゃん”でしょう。メスの3歳の豆柴です。まぁ可愛いこと! おとなしいこと! 店の看板犬を超えて、私の中では最早“名犬”です。そんなモモちゃんにも会えちゃう、都内でも有数の“burger joint”、それがE・A・Tです。絶えず変化を続けるそのバーガーのスタイルには、時代を一歩先取ったものがあるように感じます。今後とも注目の一店!

※価格はすべて税抜

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

取材・文・撮影:松原好秀