「銀座 うち山」の姉妹店で味わう贅沢ランチ

銀座三丁目のビルの一角に、「銀座 うち山」の姉妹店である「嘉祥 うち山」がオープンした。店を任されたのは、「銀座 うち山」で店長を務めてきた狩野迅門さん。本店の流れを踏襲しながらも、狩野さんらしさが随所に表れた料理を披露する。なかでも注目はお手頃価格で楽しめるお昼のメニュー。「銀座 うち山」でも人気の「鯛茶漬け」は、本店と同様に1,500円とは思えないクオリティで、さらに「嘉祥 うち山」オリジナルの胡麻だれも新しく登場。季節の食材を盛り込んだ、5,000円のコース料理も見逃せない。

カウンター席に座り、一流の技を目の前で堪能する

カウンターのみの全9席。白木や季節のあしらいが美しい。

「嘉祥 うち山」の板場を任された狩野迅門さんは、「銀座 うち山」で12年にわたって修業を積み、店長を務めてきた。オープンにあたり特別な宣伝はしていないため、現時点で店を訪れるのは「銀座 うち山」からの狩野さんファンがほとんど。料理に向き合う真剣な眼差し、そしてゲストへの細やかなおもてなしは人々の感動を呼ぶ。カウンター9席のみと狩野さんとの距離も近く、一流の技を目の前で眺め、その味を存分に楽しめる贅沢なひとときがここにはある。

2種類の胡麻だれを食べ比べできる、絶品「鯛茶漬け」

「鯛茶漬け」1,500円。「焼き胡麻豆腐」、「季節野菜の出汁巻き」、「お漬物」がセットになっている。

お昼の人気メニューは何といっても「鯛茶漬け」。「銀座 うち山」の名物料理でもある。

目を惹くのは、胡麻だれが2種用意されているところ。青い器が「銀座 うち山」の胡麻だれで、赤い器は「嘉祥 うち山」オリジナルの胡麻だれ。2つの味を食べ比べできるのは、同店だけの楽しみだ。

まずは鯛をひと切れとり、胡麻だれに少しつけて刺身でいただく。それぞれの胡麻だれを食べ比べてみると、「銀座 うち山」の胡麻だれは醤油が強くカシューナッツやクルミの風味が漂う。一方「嘉祥 うち山」の胡麻だれは甘めの仕上がりで、その分、醤油の醪(もろみ)を合わせてコクを加えている。どちらも甲乙つけがたく、「鯛茶漬け」をどう食そうか悩んでしまうはずだ。

「鯛茶漬け」にするときは、鯛の切り身にたっぷり胡麻だれを絡めるのがおすすめ。

「鯛茶漬け」の食べ方に正解はないが、胡麻だれをたっぷり絡めてご飯にのせるのが定石。鯛をたれに絡ませると、胡麻の芳香がただよってくる。どちらかの胡麻だれを選んで味わってもよいし、ご飯をおかわりして2つの味も食べ比べてみるのもよい。2種を混ぜ合わせて、自分好みの味に調えることもできる。

鯛をご飯にのせたら、薄めに淹れた煎茶を注いでいただく。

鯛をご飯にのせたら、煎茶を注ぎ入れよう。鯛が煎茶の熱で白く染まっていく様子も美しい。ひと口いただくと、上品な胡麻の香りと鯛の風味が広がる。

ちなみにお米は、やや小粒な新潟県産コシヒカリを土鍋で炊いて提供している。鯛を保存しているのは、電気ではなく氷を入れて温度管理をする保冷庫。そのほうが食材にとって最適な温度に細かく調整でき、なおかつ一定に保てるからだ。ひとつひとつの食材に、細やかな気配りがあるからこそ、絶品の「鯛茶漬け」が完成するのだ。

狩野さんの個性が光る、お昼のコース料理

5,000円のコース料理から「焼き胡麻豆腐」。醤油とワサビでいただく。

「鯛茶漬け」も素晴らしいが、狩野さんの真骨頂はコース料理にある。「銀座 うち山」の味を受け継ぎつつも、狩野さんらしいエッセンスが散りばめられている。今回は、一番お手頃にいただける、5,000円のコース料理を紹介する。

最初の品は、本店でも人気の「焼き胡麻豆腐」。白胡麻をすり、葛粉、出汁を火にかけてよく練って2日ほど冷やし固めた胡麻豆腐に、片栗粉をまぶして焼いている。アツアツの状態で提供され、外はかりっと香ばしく、なかはとろとろ。上品な胡麻の香りがたまらない。

八寸仕立ての「前菜」。天魚(あまご)の南蛮漬け、鯛の手毬寿司、桜麩、百合根、そら豆の蜜煮、鯛の子煮、車海老、笹麩、ブルーベリーとキイチゴの白和え。

前菜は、季節の食材をふんだんに使った八寸仕立て。ひと皿にひとつの料理で客を魅了する「銀座 うち山」では、あまり見られないスタイルだ。

この日の料理は、酸味が心地よく骨まで食べられる「天魚の南蛮漬け」、小ぶりで愛らしい「鯛の手毬寿司」、酒の肴にもぴったりの「車海老」や「鯛の子煮」、春を演出する「百合根」と「桜麩」、口直しになる「そら豆の蜜煮」や「笹麩」などだった。注目なのは「ブルーベリーとキイチゴの白和え」だろう。豆腐にクリームチーズを合わせ、ブルーベリーとキイチゴを和えた、狩野さんのアイデアが光るひと品。和食の真髄である五味を取り入れ、季節の彩りを美しく表現している。

焼き物「桜鱒」。新タマネギとウルイをのせ、煎り酒を注ぎピンクペッパーを散らす。

この日の焼き物は、春の美味である桜鱒。炭火でじっくりと焼き上げていく様子をカウンターから見られるのも楽しい。ふっくらと焼いた桜鱒に、新タマネギとウルイを添える。古来より日本料理で用いられてきた調味料・煎り酒を注いでコクを加え、ピンクペッパーをあしらう。

脂ののった桜鱒に、みずみずしくシャキッとした食感の春野菜、そして煎り酒のうまみが調和する。味わい深くもありながら、さっぱりと食べられる塩梅が絶妙である。

炊き合わせ「白魚と季節野菜の玉締め」。

炊き合わせは「白魚と季節野菜の玉締め」。白魚と一緒に、ワラビ、菜の花、タケノコ、木の芽を合わせ、玉子とじにしている。かつお出汁のやさしい風味に、白魚のほろ苦い味わい、春の山菜の食感と青い香りが一体となりハーモニーを繰り広げる。

 

さらにこの後、「鯛茶漬け」と〆のデザートが待っている。

狩野さんの料理は、季節野菜を複数合わせたものが多い。「銀座 うち山」との違いは、そのあたりにあるように思うが、その理由を聞くと「たくさんお野菜が入っている方が、僕はうれしいからです」と笑う。ひとつの食材のよさを極限まで引き出すのが「銀座 うち山」なら、食材の組み合わせを楽しませるのが「嘉祥 うち山」といえるかもしれない。

料理に寄り添う、キレのよい日本酒を厳選

日本酒は1合 1,400円~。料理の邪魔をしない、キレのよい味わいがセレクトの基準。

日本酒のセレクトも、狩野さんによるもの。常時6種類ほど用意しており、季節限定酒や希少な銘柄もある。この日も、新政酒造の「秋櫻 2018 -Cosmos-」や萬乗醸造の「醸し人九平次 うすにごり」、 今西酒造の限定流通ブランド「みむろ杉」などが揃っていた。

誰でも気軽に立ち寄ることのできる店に

料理人の狩野迅門さん。

狩野さんは、27歳までサラリーマンをしていたという異色の経歴を持つ。人工関節など医療用具を取り扱う企業で在庫・出荷管理の業務に携わっていたが、エンドユーザーの顔を見られる仕事をしたいと考え、料理人への道に進むことを決意する。

まったくの未経験から「銀座 うち山」に入り、自分よりずいぶん年下の“先輩”に仕事を教わって腕を磨いてきた。それから12年、ミシュラン獲得店の店長まで登り詰め、姉妹店を任されるまでになった。修業中も「人に恵まれたので、嫌な思いをすることはなかった」と本人は振り返るが、これまでにどれだけの努力があったかは想像に難くない。

 

まだオープンしたばかりで、今は比較的予約が取りやすい。狩野さんも「お客さまには、ぜひ気軽に遊びにきていただきたい」と話す。この絶好の機会に、高コスパで楽しめる一流の味をぜひ体験してほしい。

銀座に建つビルの3階に、ひっそりと佇む隠れ家。

※価格はすべて税抜

 

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2020年3月12日)時点の情報をもとに作成しております。

 

取材・文:梶野佐智子(grooo)

撮影:玉川博之