時代の新たなスタンダードを創る革新的レストランが誕生!

「アンディ・ウォーホル」。かの名画にインスパイアされたひと皿。黄色いシートはバナナから抽出したエキスをアガーで固めてゼリー状にしたもので、なかにはフォアグラのムースが。sanmiのコース料理(8,333円)の一例

時の流れは早いもので、令和もあっという間に2年目に突入。オリンピックを控えた記念すべき年とあって、今年もレストランのオープンラッシュが止まらない。

 

時代の変化とともに、レストランの在り方もどんどん多様化しているが、これからの新しいスタンダードを生み出す店として注目を集めているのが、今年1月30日に虎ノ門にオープンしたばかりの「sanmi(サンミ)」だ。

もともと赤坂で会員制のレストランとして営業していたが、そのときからオーナーソムリエ・野口良介さんの辣腕振りが話題に。クラウドファンディングで会員を募集するなり、瞬く間に資金調達額の日本記録を樹立。

 

2018年に開業した店は住所非公開、完全紹介制にもかかわらず「知る人ぞ知る美食空間」として食通の憧憬を集めたが、このたびそのコンセプトをさらにブラッシュアップし、新天地で華々しいオープンを飾った。

シェフの玉水正人さん

「新店ではフランスの2つ星で部門シェフを任された玉水正人をはじめとした、3人のシェフによる複合コースという形を取っています。毎月、それぞれが11皿ずつのコースを考案し、チームの評価が高かった料理を組み合わせてひとつのコースを構成します」と野口さん。その“三位一体スタイル”もユニークだが、旨味や塩味に代表される五味のなかでも酸味に重点を置いているのもポイントだ。

壁一面のトランクと、現代美術家・名和晃平氏の作品『Direction#182』が印象的な空間

野口さんいわく「最近は海外でも旨みがフォーカスされることが多いですが、旨みだけを強調した料理は食べ疲れてしまう。バンドにたとえると、旨みがヴォーカリスト、甘みがギタリストなら酸味はベーシストみたいな役割があると思うんです。全体の音がびしっと締まって、より深い余韻が生まれます。僕たちの料理にとって、酸味はなくてはならない存在なんです」。

控えめな価格は「ガストロノミーを身近に」というメッセージ

全20席のsanmiとは対照的に、sanmi Labは全83席と大箱。予約なしでも楽しめるカジュアルさがうれしい

併設する「sanmi Lab(サンミ ラボ)」はアラカルトが主体で、「sanmi」はコースのみの提供。いわゆるイノベーティブな料理に軸足を置いているが、全11皿登場するコースが8,333円という価格設定にも高騰傾向にあるイノベーティブへの挑戦が感じられる。

ふらりと立ち寄れるsanmi Labのカウンター席は、お一人様にもおすすめ

料理人の技術や叡智が集約されたオリジナリティのある料理には、もちろん相応の価値があるが「ガストロノミーを身近に」というメッセージに好感を持つ人は多いはず。

“味的好奇心”をくすぐる料理の数々

低温で火を入れたフォアグラのテリーヌ、キムチのピューレ、バルサミコ酢を加えたホワイトチョコレートをひと皿に。sanmi Labのメニュー「フォアグラ キムチ チョコレート」1,233円

誰もが知る料理をモダンに構築したひと皿には新しい発見があり、33という数字になぞらえたサラダやカレーなど、食べ手の好奇心と想像力をかきたてる逸品も多数。

「飲」と「食」を同時に堪能したときに生まれる“第三の味”をもっと深く、楽しくというテーマのもとに考え抜かれたペアリングは5,333円からで、グラスワインも33種揃えるという盤石ぶりだ。

sanmi Labのメニュー「革新的酢豚」2,333円。豚肉以外は一切、動物性食材を用いていない革新的な酢豚。鳥取県産の旨みが濃厚なトトリコ豚を使用している

ちなみにsanmi Labの人気メニューのひとつ、革新的酢豚(イノベーティブ酢豚)は、煮詰めた甜麺醤とソース、バルサミコ酢に人参や黒大蒜のピューレやパイナップルにアニスを加えたソースが添えられた玉水シェフの意欲作だが、これに黒酢やプラム系の果実のニュアンスがあるスイスビールを合わせると驚くほど味がふくらむ。これぞイノベーティブの楽しさ、ペアリングの醍醐味。

古典料理、レギューム・ア・ラ・グレック(ギリシャ風ピクルス)をモダンに昇華。sanmiのコース料理(8,333円)の一例「33vegetable」

sanmiの赤坂時代からのシグネチャーメニュー、33vegetableは33種の野菜を3種のビネガーとコリアンダーなどでマリネし、そのうえからトマトと昆布のスープをかけると、色が変化するというプレゼンテーションにも創意を感じる。

マリネした33種の野菜に昆布とトマトのソースをかけて仕上げる

「レストランはつねに変化するべきものなので、こうでなくてはいけないという感覚は持たないようにしています」と野口さんが言うように、それがいまの東京のレストランのおもしろさ。

29歳のオーナー野口さん(左から3番目)を中心に、活気あふれる若手のスタッフたち

時代に合わせてしなやかに変化していくことは、これからのレストランには必要不可欠なことだ。自分たちの手で自由にレストランをクリエイトする次世代の活躍から目が離せない。

 

※価格はすべて税・サービス料別

 

 

 

写真:松園多聞
取材・執筆:小寺慶子