〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドの増加や食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

料理と酒のペアリングがウリのイタリアン

「和食と日本酒」「洋食とワイン」など、専門料理には各ジャンル特有の“料理と酒”の相性のよい盤石の組み合わせがある。「ペアリング」という言葉もすっかり定着した感が強い。もちろん、相性のよい組み合わせはそれだけではない。例えば、「和食とワイン」「洋食と日本酒」といった、ひと昔前は珍しかった組み合わせを深掘りする店も増えてきている。

予算5,000円ほどの“自腹飯”の店ながらも、料理と酒の魅力的な組み合わせを提案して人気なのが、2019年8月に東京・学芸大学にオープンした「町ビストロGGD」だ。地元に根づく店を目指して「町ビストロ」と命名。一方の「GGD」は学芸大学のローマ字表記を略したものである。同店の料理はフレンチの技法も取り入れたイタリアン。ビストロと掲げるものの料理はフレンチにこだわらず、いろいろな要素を柔軟に取り入れている。

店は東急東横線学芸大学駅前にある。

店舗は縦長の造りで、中に入るとすぐ10人がけの大テーブル席が登場。これは1人客も、2~3人の客も、グループ客もみんなで大テーブルを囲み、同じ時間と空間を楽しくシェアしてもらおうと考えてのもの。また同店は、ワイン以外のドリンクがこれでもかと充実している。

店内入ってすぐの10人がけテーブル席。その奥はオープンキッチンになっている。

日本料理からイタリアンまで様々な店で修業する

シェフの岩崎満矢さんは高級日本料理店で料理人生活を始め、その後、洋食に転向。ピッツェリア、トラットリア、ビストロなどで修業を積み、現在に至る。その間、何度もイタリアに渡って各地のレストランを食べ歩き、自らの引き出しを増やしていった。幼少期にはフランスに5年間住んだこともあり、そのときの原体験も少なからず生きている。

シェフの岩崎満矢さん。日本料理を皮切りに、その後、イタリア料理をメインに修業を重ねる。同店は業務用酒販店の会社が手がける店だ。

名物! 皿一杯の生ハムにあわせるのはぬる燗?

さて、同店のメニューで必ず注文したいのが、「イタリア産12ヶ月熟成生ハム大盛」。皿一面に生ハムを盛った目玉商品で、満足感も高い。生ハムの口溶けのために0.1㎜の薄さにスライス。薄く切る分、水分もとびやすく時間が経つとパサついてしまうので、注文をうけてからスライスするというこだわりだ。「剣菱」のぬる燗を相性のよい酒としてオススメする。

口の中で溶けるように、透けて見えるほどの薄さに切る。

生ハムを口に含んでしっかりとした味わいの日本酒を飲むと、ぬる燗の熱で生ハムの脂が口の中に広がり、実にうまい。同店では燗酒の魅力を知ってもらおうと「生ハムとぬる燗はいかがでしょう」と提案している。また、生ハムはあえて12ヶ月熟成のものを使用。これより熟成期間の長いものだと香りも芳醇になるが、少し食べただけで満足してしまう。そこで、食べ飽きない12ヶ月ものにしているのだ。日本酒は他に、冷酒でおいしいものも各種取り揃えている。

「イタリア産12ヶ月熟成生ハム大盛」500円には、「剣菱」1合980円がよく合う。

インパクトの大きい真っ赤なサラダ

日本酒とイタリアンの意外な組み合わせも新鮮だが、やっぱりワインとのペアリングも楽しみたいもの。そんな人には、「赤いサラダ パンツァネッラ」と赤ワインがオススメ。“赤”同士の組み合わせで、後々まで強く印象に残ることは間違いなし。

 

「赤いサラダ パンツァネッラ」は、加熱したビーツ、トマト、赤玉ネギ、トレビスをボウルに入れ、塩、白胡椒、ケッパーをふって混ぜ、冷蔵庫でひと晩寝かせる。これに小さく切ったパン、ブロード(出汁)、フレンチドレッシング、エクストラバージンオリーブオイルを加え、混ぜ合わせて仕上げる。イタリアの家庭料理を真っ赤に仕立ててインパクトを強めたものだ。ビーツの甘味が生きていて、軽やかな赤ワインとの相性もよい。

「赤いサラダ パンツァネッラ」880円には、アルプスワインの「にじいろベリーA(ウラプスver.)」650円を。同店用に特別に無濾過、非加熱で瓶詰めした、亜硫酸無添加のワインである。

ビールは厳選したグラスに注ぎ、泡までこだわる

日本酒も、ワインもいいが、やはりビールが欠かせない。そんな客向けに同店では、「サッポロ黒ラベル」「月替りビール」の2種を揃える。グラスにもこだわり、スタッフがさまざまな形状や厚みのグラス約20種で「サッポロ黒ラベル」の飲み比べをし、一番おいしく感じたタンブラーを採用している。注ぎ方もクリーミーな泡の口当たりのよい一杯に仕上げている。

「フランス産そら豆ペコリーノ」580円と「サッポロ黒ラベル」500円の相性は抜群だ。

このビールに合うのが、「フランス産そら豆ペコリーノ」。塩茹でしたそら豆に半熟玉子をのせ、ペコリーノをたっぷりかけて粗めの黒胡椒をちらす。半熟玉子をつぶしてからめることで口当たりもなめらかになり、そら豆の甘味もグッと引き立つ一品だ。

半熟玉子をつぶしてからめ、全体のまとまりをよくする。

飲めない客も大切にして、ノンアルでもペアリングを楽しんでもらう

酒は他に、クラフト焼酎や茶割、サワーなども揃える。茶割は「アールグレイ」「ジャスミン」など7種。サワーは「国産レモンサワー」「ハーブモアハーブ」の2種を。最近はビールより茶割やサワーなどを好む傾向にあるため、同店では種類を充実させている。メニューによってお茶との相性を提案しているので、茶割×イタリアンのペアリングが体験可能だ。

 

また、茶割とサワーはノンアルコールでも提供できるようにしており、飲めない客にも充実の品揃えで満足感を高めている。このようにノンアルコールでもペアリングを堪能できるのが、同店の大きな強みである。

「和牛の温かいカルパッチョ盛り合わせ」1,880円と相性のよいのは、ノンアルコールの「ハーブモアハーブ」680円。炭酸水とハーブを合わせたドリンクだ。

ノンアルコールとも味がピッタリなのが、「和牛の温かいカルパッチョ盛り合わせ」。牛肉は茨城県産黒毛和牛の常陸牛をメインに用い、スライスした肩三角ととうがらしを半分ずつ盛り合わせる。ローズマリーを漬け込んだオリーブオイルを注文ごとに熱々に熱してかけ、加熱する。これでサシが溶けておいしさもアップ。スライスした生のマッシュルームを一面にちりばめ、ローズマリーとレモンを添える。

主に茨城の常陸牛を用い、肩三角ととうがらしを50gずつ盛り合わせる。ローズマリーを漬けたオリーブオイルを熱々に熱してかけ、加熱する。

入口も表側と裏側で“2つの顔”を使い分ける

このようにイタリア料理だけでも、これほど多彩なペアリングを楽しむことができる。さらに、飲めない人にも同様にペアリングを楽しんでもらおうとする心配りが堪らない。店舗はビストロの雰囲気に合わせた洋のデザインだが、店内奥のテーブル席のエリアは和のテイストを採用。和のドリンクも提供するのに合わせ、店舗も洋と和に分けたデザインに仕上げている。

店内奥のエリアは和のデザインに仕上げる。

そして奥の壁には、高さ1m、幅60cmの小さな扉がある。「何だ、これは?」と思いながら扉を開け、身をかがめて外に出ると、何とこちら側も入口になっている。しかも、外観は和のデザインである。つまり、店舗の表側は洋風、裏側は和風と“2つの顔”を持つ造りになっており、間口を広げることで幅広い客を迎え入れているのだ。どんな客も懐深く受け入れて満足させる「町ビストロGGD」。この町にどっしり根づくのも、そう遠い日のことではないだろう。

裏側の入口は、表側とは違って和のデザインに。高さ1mの扉を開け、くぐりながら入る面白さも好評だ。

 

【本日のお会計】
■食事
・イタリア産12ヶ月熟成生ハム大盛 500円
・赤いサラダ パンツァネッラ 880円
・フランス産そら豆ペコリーノ 580円
・和牛の温かいカルパッチョ盛り合わせ 1,880円■ドリンク
・剣菱一合 980円
・アルプスワイン 赤 にじいろベリーA 650円
・サッポロ黒ラベル 500円
・ハーブモアハーブ(ノンアルコール)680円
合計 6,650円

※価格はすべて税抜

 

取材・文:印束義則
撮影:松村宇洋