〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!

インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々上がっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」に使えるハイコスパなお店とは?

舌もお腹も大満足のコースが5,000円!
「スーペルトラットリア リト」

渋谷区円山町は料亭で栄えた街のせいか、店は小さいけれど味は抜群という名店が今でも多い。「スーペルトラットリア リト」もそのひとつ。

 

イタリアで修業後、“メニューがないイタリアン”として都内のイタリア料理店を大繁盛させたシェフと、イタリアワインに精通したソムリエがふたりで切り盛りするのは、お腹がはちきれそうになるほどのコースで5,000円という驚異のコスパ店!

数々の人気店を誕生させた、凄腕シェフが独立!

ライブ感満載のシェフズテーブルと落ち着いたテーブル席

神泉駅から数分の場所に、グルメな大人たちに「週2、3回は通いたい」と言わせるイタリアンがある。扉を開けると、階下にスタイリッシュなダイニングフロアが広がる。

 

料理ができあがっていく様子を目の当たりにできるシェフズテーブルに座ると、その音と香りにテンションは上がりっぱなしだ。

ファッションの仕事から料理の道へ転身した市川大介シェフ

23歳の時に食べたイタリア料理があまりにおいしくて、スタイリストアシスタントからいきなり料理人を目指したという異色の経歴を持つ市川大介さんは、国内のイタリア料理店で5年、その後イタリアのエミリア・ロマーニャ、ピエモンテ、リグーリア、トスカーナで2年半ほど修業した。帰国後、代官山「オステリア ウララ」の料理長に就く。

 

店にメニューはなく、お客さんの好きな食材と好きな調理法を組み合わせて、即興で作るカスタマイズメニューはグルメ達を唸らせ、あっという間に繁盛店となったのである。それから総料理長としていくつかの店を立ち上げ、人気店にして独立。2018年10月、“自分が行きたくなるイタリア料理店”として「スーペルトラットリア リト」を誕生させた。

「腹八分目」「もの足りない」なんて言わせない渾身のコース!

「フォアグラのブディーノ」。アンティパストからそのおいしさに圧倒される

「イタリアンのコースって値段が高いか安いかじゃないですか? コース5,000円でシンプルで旨くて、気軽に入れるけどカジュアル過ぎず、ワインも本格的って考えたときに、自分が行きたい店がなかったんです」と市川シェフ。

 

これをコンセプトにしたコースはアンティパストからデザートまで6〜7品で、すべての皿が刺激的だ。

手打ちパスタ「ニョケッティ リグーリア風」

パスタはニョッキを小さくした「ニョケッティ」。イカや水タコをミンチにしてカルチョーフィ(アーティチョーク)やトマトと一緒に煮込んでいる。トピナンブール(菊芋)のニョケッティは硬めに手打ちしているので、しっかり煮込んでも崩れず、小麦粉では作れない芋の香りと食感がクセになる。

 

少しだけ辛味がピリッとくるが、魚介の出汁がベースの優しい味わいはいくらでも食べられそうだ。

野菜たっぷりのスープ「リボリータ」

「リボリータ」はトスカーナの郷土料理で、ミネストローネとパンを一緒に煮込んだ粥のようなスープ。家庭ではメインにするくらいずっしりと重い料理だが、市川シェフはパンの代わりにグリッシーニをクルトンのように砕いて、野菜が主役の軽いスープにアレンジしている。

野菜ってこんなにおいしいのかと再認識させられる

スプーンですくうと中から湯気が立つほど熱々。ケール、黒キャベツ、ほうれん草、コリンキー、サツマイモ、キオッチャ、ポロ葱など15種類のイタリア野菜と軽井沢野菜、そしてうずら豆をクタクタになるくらい煮込み、仕上げにはたっぷりのパルミジャーノとオリーブオイルをひと回しかける。野菜の旨みを十二分に感じる絶品スープだ。

ミモレットの熟成したコクと香りがベストマッチ

市川シェフの料理の醍醐味は、伝統の味を守りながらもセオリー通りにはしないところ。ハンバーグにチーズを削りかける場合、一般的に多いのはパルミジャーノ。

 

ところが、市川シェフはミモレットを使う。「パルミジャーノだと普通すぎてつまらないじゃないですか。それにミモレットの熟成感は肉にもソースにも負けずに調和するんです」と。

写真はアラカルトのサイズ300g(¥2,600)。コースの場合は140〜150gにて提供

鴨、牛、鹿に加え、パンチェッタ(豚肉の塩漬け)も入り、つなぎはウサギのレバーという豪華仕様。ソースは鴨や牛のジュに、「ヴァルポリチェッラ」というアマローネ系の赤ワインを惜しみなく使っている。これは別次元のコクだ。

7割を鴨肉にすることでやわらかな食感が生まれる

ナイフを入れた感触は弾力が強い。ところが食べると非常にやわらかく、そのギャップがグッとくるハンバーグだ。脂身がほぼ入っていないので、肉汁はほとんど出ず、力強い赤身肉の旨みを食べるイメージ。

 

そこにパプリカパウダー、ナツメグ、ジンジャー、シナモンなどの香辛料が複雑味をもたらす。これはいやが上にもハマってしまう魔力がある。

日常使いできるように、味もメニューも飽きさせない!

市川シェフのレシピの種類は、無限大かと思わせるほど引き出しが多い

コースの〆をパスタにしているのは、メインの肉をちゃんと味わって欲しいから。

 

「肉が大好きなのでメインは基本、グリルの盛り合わせです。パスタを2品出すとお腹いっぱいで肉を残される方が多いんです。肉をおいしく食べて欲しいから、パスタは〆に好きなグラム数で頼んでいただくようにしました。史上最高は500g完食したツワモノです」と市川シェフ。

 

ちょっともの足りないから帰りにラーメン食べていこう、なんて絶対に言わせない自信があると言う。確かにお腹はパンパンになって帰るのだが、翌朝は意外にもスッキリ。これも市川シェフがこだわるところ。

この小さな階段を上ると口福な時間が待っている

デイリーに食べたいのは疲れない味。だから、市川シェフは「塩味を強くしない」「油の摂取を抑える」を基本にしている。

 

「イタリア料理はオリーブオイルをたくさん使うのですが、油ってもたれるじゃないですか。だからフライパンに引く油は極力少なくして、仕上げにフレッシュなオリーブオイルをかけるようにしています。油は時間が経つと酸化して味も悪くなりますし、油まみれのパスタなんて食べたくないですよね」と話す。

 

市川シェフの料理が冷めてもおいしいのは、油の使い方にある。また、野菜はボイルや煮込みにしてたっぷり摂れるように心がけ、フルーツを使ったアンティパストや前菜は、酵素やビタミンが豊富だ。あくまでもイタリア郷土料理がベースだが、独自の解釈で分解し、再構築した料理なのだ。

 

この自由度が良い! 毎日すべてのメニューを変えるだけのレパートリーとアイデアがある。ハイクオリティでハイコスパ、まだ予約が取れるうちに訪れるべき店だ。

 

【本日のお会計】
■食事
・コース 5,000円
■ドリンク
・グラスワイン 白 800円
・グラスワイン 赤 900円
合計 6,700円

 

※価格はすべて税抜

 

 

撮影:外山温子 文:高橋綾子