〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!

インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々上がっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」に使えるハイコスパなお店とは?

ビストロ風の洒落た店舗で大衆メニューを食す

予算何万円もするような高級店が、もっと幅広い人に気軽に利用してもらおうとカジュアルな店を手がける。そんな“セカンドブランド”の店は“自腹飯”の客にとって、何かとありがたいもの。東京・代々木上原で大人気の「sio」が、2019年10月に丸の内に出店した2号店が「o/sio」である。「sio」が客単価20,000円の店なのに対し、「o/sio」は5,000円と、実に1/4の予算で楽しむことができる。これは、本当にありがたい。

看板がない代わりに目印として、店舗の右端に小さく店名を記す。

だが、そんな客の捉え方と、オーナーシェフの鳥羽周作氏の考え方は、根本的なところで異なっている。鳥羽氏にとって「o/sio」とは、セカンドブランドの店ではなく、“ミックスカルチャー”の店だと位置づけている。「えっ、ミックスカルチャーの店って、いったい何?」。そんな疑問を抱いたなら、まずは同店に足を運んでみよう。「あぁ、なるほどなぁ」と、その答えを実感することができる。

 

店舗はパリのビストロをイメージした洒落た造りだが、鳥羽氏は同店のことを「食堂」だと捉えている。それもあくまで日本における食堂。だから、メニュー表にはポテトサラダ、唐揚げ、チヂミ、オムレツ、とんかつ、おにぎり、焼そばといった大衆メニューが並ぶ。一見、誰もが食べたことのあるメニューだが、いざ食べてみるとひと味も、ふた味も違う。客はそこに、驚かされてしまう。「なるほど、これがミックスカルチャーか!」と。

ビストロをイメージした店舗で大衆メニューを食す、独自の世界観が楽しめる。

“スパゲッティ料理”を“パスタ料理”に昇格させた一品

例えば、同店のメニューに「ナポリタンを越えたナポリタン」というメニューがある。ちょっと意味深なこの商品名。もともとナポリタンは、現代のようにパスタ料理が豊富ではなかった時代に、コシのない麺を上手に調理して仕上げたもの。喫茶店や洋食店などを中心に広まった、ある意味“パスタであってパスタでない“、日本独自の“スパゲッティ料理”である。そんなカジュアルなナポリタンを、調理技術を駆使して“パスタ料理”へ昇格させた。そんな一品だ。

「ナポリタンを越えたナポリタン」1,000円。

注文ごとにフライパンにオリーブオイルを流し、中火でソーセージ、玉ネギ、マッシュルーム、ピーマンを炒める。そこに、茹でてサラダオイルとからめて保存しておいた2.2mmの太いパスタを入れ、オリーブオイルを加えて、デミグラスソースとケチャップを各大さじ1プラス。さらにバターを加えて強火にし、牛乳、生クリームを投入して軽く温めてしっとりさせる、炒め煮のイメージのパスタである。

 

ナポリタンはソースが麺にからまる重たい“パスタ”のため、野菜のシャキシャキ感を巧みに残しながら、全体の火入れに細心の注意を払い、アルデンテのナポリタンに仕上げている。鳥羽氏は、「誰もが食べたことのある料理だからこそ、違いを感じてもらえる」と考え、客がいままで体験したことのないような新しいナポリタンの世界を味わってもらっている。銀皿に盛った、懐かしい見ばえのナポリタン。食べると、実に繊細な味だ。

火入れに全神経を集中させ、アルデンテのナポリタンに仕上げる。

レシピの存在しない“ここにしかない料理”

反面、洒落た商品名からそれが大衆メニューだとは連想できないが、出てきた商品を見ると誰もが知っている。そんなメニューが「ポムフリット(スウィートチリソース)」である。ポムフリットとはフランス語で、フライドポテトのこと。サワークリーム、イタリアンパセリ、スウィートチリソースを加え、ほどよい甘味と酸味と辛味が香ばしいフライドポテトに奥行きを出し、現代的な味わいに仕上げている。

 

実は、このメニューの一番のポイントは、何といってもポテトの揚げ具合にある。水分を抜いてカリカリにしながら、油っぽくなる一歩手前の絶妙な状態に仕上げている。一般にフライドポテトといえば、油の中に投入してタイマーで時間を計って提供される。だが、同店には何分揚げるといったレシピはなく、おいしく完成させることをその料理の正解にしている。どこにでもある料理を、ここにしかない料理に仕立てる。それが同店流の、料理との向き合い方なのだ。

「ポムフリット(スウィートチリソース)」500円。

見た目はクラシック、中はモダンなプリン

デザートの「昔ながらのモダンプリン」は、表面は固く、中はやわらかく仕上げており、見た目は昔ながらのプリンながらも、中はモダンという2つの要素をミックス。カラメルはグラニュー糖と水を熱して苦めの味に仕上げ、プリン液は卵黄とグラニュー糖を混ぜたものに、バニラビーンズ、牛乳、生クリームを温めながら混ぜたものを合わせる。型にカラメル、プリン液を流し、スチームコンベクションオーブンで湯煎しながら蒸し焼きにする。注文ごとに器に盛り、生クリーム、グラニュー糖、オレンジ系リキュールで作ったホイップクリームを添える。こちらも苦味や甘味など異なる味が共存し、スプーンですくって口に含むや異なる味が口の中で1つとなり、深みのある味が完成する。

「昔ながらのモダンプリン」500円。

ワインがウリだが、ワイン以外も楽しめる柔軟性が魅力

こうした料理とともに楽しみたいお酒がワインで、品揃えの7割が自然派ワイン。ボトルワインを各種揃える中、グラスワインもスパークリングワイン、オレンジワイン&ロゼワインを各2種、白ワイン、赤ワインを各4種といった具合に、日替わりで豊富に揃えている。そのため、何を飲んだらよいのか迷ったら、料理に合うものを尋ねてチョイスするのもおすすめだ。

ワインは、自然派ワインを中心に揃える。
グラスワインも充実しており、料理に合った最適な一杯を楽しめる。

腰を落ち着けてワインを飲む前に、何か爽快なものを飲みたい。そんな希望に応えるために用意したのが「o/sioのサワー」である。これは、焼酎にその時々の柑橘とハーブや茶葉をプラスしたオリジナルサワー。他にも、ビール、ハイボール、日本酒、焼酎なども幅広くカバーする。ワインがウリといってもそれを押しつけることなく、客が自分なりのスタイルで楽しめるように柔軟性を持たせている。

「o/sioのサワー」600円。

なぜなら、ここは「食堂」。型にはまることなく、各自が思い思いに楽しめばいい。ただ、一般的な食堂と少しばかり違うのは、客単価20,000円のフィルターを通して作る、客単価5,000円の魅力が充実していること。野菜のカットの仕方もプリンの火入れも、客単価の違いに関係なく、どちらもやっていることは同じなのである。店舗の雰囲気もそうである。

 

1号店の「sio」と同じだけの熱量をかけて営業する「o/sio」。その思いを表わすために、店名は「sio」に丁寧な言いまわしの「お」を付け、「o/sio」と名づけたのである。“セカンドブランド”の店とはひと味違う、注目の“ミックスカルチャー”の店だ。

オーナーシェフの鳥羽周作氏。サッカー選手、小学校の教師を務め、32歳で料理の世界に足を踏み入れる。
【本日のお会計】
■食事
・ナポリタンを越えたナポリタン 1,000円
・ポムフリット(スウィートチリソース) 500円
・昔ながらのモダンプリン 500円
■ドリンク
・ヴァルドコンブレス 1,200円
・o/sioのサワー 600円
合計 3,800円

※価格はすべて税抜

 

取材・文:印束義則(grooo)

撮影:岡本寿