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【噂の新店】「野田」
「ミシュランガイド パリ」で当時3つ星の「ル タイユヴァン」で修業、神楽坂の1つ星「ルグドゥノム・ブション・リヨネ」でスーシェフを務めた後、28歳で自身のお店「kiki harajuku」をオープンさせた野田雄紀シェフ。多彩なフルーツ使いで多くのフーディーに愛され、フランス発祥のレストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)」には、日本創刊の2017年から2023年まで毎年掲載された。
そんな野田シェフが12年続けてきた「kiki harajuku」を閉じ、自身の名を冠した「野田」を2023年10月にオープン。「より一つひとつの料理やお客さまと向き合いたい」と考え、席数も14席から10席に減らし、今回のリニューアルに至った。西洋的な要素と日本的な要素をミックスさせた、原宿から発信する「日本の味」をコンセプトに掲げている。ランチコースは19,800円、ディナーは24,200円だ。
内装は人気レストランを数多く手がけている、MILESTONEの長田篤氏が担当した。「kiki harajuku」時代から使われてきたテーブルを活かしつつ、佐官材を使ったまるみを帯びたカウンターテーブルを新設するなど、和洋折衷な内装からもコンセプトの変化がうかがえる。
日本料理の名店「重よし」で学んだ技術が生きた「イカのへぎ造り、パクチー、シャインマスカット」
実は野田シェフ、「kiki harajuku」の営業の傍ら、ここ1年ほど定休日を利用して「重よし」の料理長・佐藤憲三氏の下で日本料理を学んでいた。この経験が新店の料理に大きく生かされている。
例えば秋のある日のコースでは、佐賀県唐津産のアオリイカのへぎ造りに、島根県の農家から直接仕入れるシャインマスカットとパクチーの天ぷらを合わせた一品が登場した。「野田」では活け締めが得意な「大山鮮魚店」からの空輸と、毎日豊洲市場に通い食材の仕入れを行う。アオリイカは、全体にレモンマートルのオイル、スダチの果汁をまわしかけてある。パクチーは葉だけを揚げてあり、茎は生だ。 「果物やハーブを他の食材と合わせて生まれる相乗効果が好きなんです」と野田シェフ。
一口目はエスニックな味わいながら、ねっとりとした口当たりのアオリイカの甘さがシャインマスカットの甘さをたたえて次第に開いていき、シャキシャキとしたパクチーの茎の食感と青い味わいが後からジワジワと香り立つ。
伝統的な日本料理を別の視点で一皿に昇華した「揚げ海老芋 毛蟹と銀杏」
「揚げ海老芋 毛蟹と銀杏」は、日本料理で秋に食される一番だしの風味をまとわせた揚げ海老芋と、ポルトガル料理のバカリャウ(干し鱈)のコロッケを参考にしている。バカリャウのコロッケには干し鱈、オリーブ、イタリアンパセリなどが使われるが、野田シェフは一番だしで炊いた海老芋に、干し鱈を北海道産の毛蟹、オリーブを銀杏に、イタリアンパセリを長命草に置き換えた。
トップには毛蟹と揚げたカリフラワー、柿酢で味付けした菊の花を添えてある。高嶺の花のような凛とした佇まいからは想像できない、新感覚の多彩な味わいが口の中に広がるが、ホクホクの海老芋、だしの味わいはどこか懐かしさも覚える一皿だ。細部まで洗練された可憐な見た目、意外性のある食材の組み合わせと相乗効果で生まれる新たな味、そこに親しみのある味わいが同居するのが野田シェフらしさなのかもしれない。
梅醤油や赤シソ、キャットミントの花が香る「骨抜き秋刀魚の炭火焼き」
「骨抜き秋刀魚の炭火焼き」は、秋刀魚を背開きにして骨を抜き、形を戻してから波打つように串打ちして、開いたときに取り出した内臓を使った肝醤油を塗りながら炭火焼きにしている。そこに赤軸ほうれん草を、キノコのような香りがするキャットミントの花、自家製の梅醤油と赤シソの実の醤油漬けでおひたしにして、直火焼きしたパプリカ、もみじおろしを合わせた。仕上げに小豆島にある八木農園のコールドプレスオリーブオイルを回しかけてある。
肝の苦味としっかりとうま味をたたえた秋刀魚、キャットミントの花のハーブ感やシソやもみじおろしの清涼感が秋刀魚炭火焼きに新たな魅力を与える一品だ。
ナチュラルワインや燗酒、焼酎、ノンアルドリンクなどペアリングも充実
「骨抜き秋刀魚の炭火焼き」に野田シェフが合わせてくれたのが、燗酒だ。一見甘そうに見えるにごり酒の「玉櫻」だが、苦味と酸味がしっかりとした力強い一献で、炭火焼きの秋刀魚の味わいにも負けない。
このように「野田」では「アルコールペアリング」(7杯)で、日本酒や焼酎も合わせてくれる。もちろんシャンパンやヨーロッパのナチュラルワインもそろい、造り手や製法にまで目を配る。
さらに「ノンアルコールペアリング」もあり、「山の茗荷を使ったジントニック」「みかんと秋ウコンとカルダモンのオレンジワイン」など、酒好きでも飲んでみたくなる趣向を凝らしたノンアルドリンクがそろう。
この日のデザートでは、キラキラと輝く飴細工が目を引く、あんぽ柿のアイスが登場した。黒糖とブランデーで仕込んだ梅酒のソースを敷き、その上には生の太秋柿を忍ばせ、作りたての飴細工がトッピングされている。あんぽ柿の濃厚な甘さを、ビターで後味こっくりな黒糖とブランデーのソースが引き立て、パリパリの飴細工が食感のアクセントになっていて楽しい。
シェフのフランス時代のニックネームだった「kiki」から、自身の名字へと店名を変更した野田シェフ。割烹なのか、フレンチなのか、イノベーティブフュージョンなのか、カテゴリに収まりきらないシェフの感性を実際に感じ取ってみてほしい。
※価格はすべて税込、サービス料別